まとまったマニフェストよりも志が問われる
―「改革」を疑えと?
■1990年代初めは自民党竹下派支配を打ち破り、政治家・官僚・業者の癒着政治を正すことが改革でした。改革後には複数の選択肢がありえた。だが、小泉純一郎政権で「改革」は「小さな政府」による構造改革とされ、小泉首相と竹中平蔵氏が社会保障の安全網をズタズタにし、雇用の規制緩和で非正規労働者を3分の1にまで増やし、人間社会のきずなを弱めてしまいました。この種の動きをいまだに「改革」と称しているメディアもありますが。
―そうではない改革があると?
■教育、医療、介護のような対人サービスへの財政支出は健全な社会を維持するために大切です。当時は「反改革」と批判する新聞論調が多かった。経済界の利益を代弁した小泉構造改革の対極として民主党が打ち出している「生活優先」はもうひとつの「改革」の大きな方向でしょう。
―民主党政権待望論ですか?
■というよりも、自民党一党支配が続いたため、政治がよどんだ。政権交代すれば今まで見えなかった政治の実相が国民の目に見え、直すべきところも分かるのではないか。米国はオバマ政権誕生で今まで無視されてきた社会保障に光が当たりました。英国でも97年に18年ぶりに労働党政権を誕生させたブレア首相はサッチャー元首相の新自由主義政治を転換した。そのブレア氏も10年の長期政権でよどみが出て、次は保守党が政権を奪還する勢いです。
―民主党は小沢一郎代表の公設第一秘書が政治資金規正法違反で起訴された問題で揺れていますが。
■政治における選択はしょせん「よりましな政権」を選ぶしかない、と思っています。世の中を良くするには今最も必要な政策を一つ一つ積み上げていくしかない。世界大不況が続くなか、年収が少し減っても、国民一人一人が生きていける社会システムを作ることが喫緊の課題だと思っています。それこそ民主党の仕事です。
―選挙の際のマニフェストに否定的なようですね。
■佐々木毅・学習院大学教授に大きな学恩を感じていますが、彼が中心に進めている今のマニフェスト運動は英国から移植し、日本型を作る際に偏ってしまった。数値目標財源にこだわり過ぎです。100bを10秒台で走ろうとする人と、できるだけ長距離を走ろうとする人を同じスタートラインに立たせて、あなたは何秒か、と聞くようなものです。この議論を突き詰めると政党政治を貧しくし、空洞化させます。
―何を重視すればいいのですか?
■私はメディアが視点をずらして、ものごとの多面性を国民に知らせるところにポスト近代の民主主義の可能性がかかっている、と思っています。1人でも多くの市民がさまざまなものの見方を提示することが民主政治の裾野を広げます。そのうえで、多少抽象的でも、どんな社会で生きたいかという理想を語るべきです。
(週刊エコノミスト 2009年5月5日・12日合併号)
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