鳩山邦夫前総務相の「反乱」でリーダーシップを示せなかったために、麻生政権の支持率は再び急落した。地方選挙でも、民主党系候補の勝利が続いている。三か月以内に行われる総選挙において、自民党の敗北、政権交代は必至と見られている。民主党では、菅直人代表代行が今月中旬にイギリスを訪問し、政権交代の経験について調査した。準備は万端と言いたいところだろう。
長年、政権交代こそ日本の民主主義にとって不可欠だと言い続けてきた私にとって、これは喜ばしい事態であるはずだ。しかし、今の民主党を見ると、正直なところ、このままで有意義な政権交代ができるのだろうかと、不安も募る。
今の民主党は、いわば形から入って政権掌握の準備をしている。官僚支配を打破するために、百人以上の与党の議員を行政府に送りこむといったたぐいの話がそれである。確かに、イギリスでは一三〇−四〇名ほどの与党議員が大臣、副大臣等の役職について、行政府を指揮、統率している。しかし、形をまねれば、中身も付いてくるという話ではない。
民主党には政権担当能力がないという自民党の批判に同調することは、私も望まない。麻生政権の政権担当能力の欠如の方が深刻である。それにしても、政権交代を起こして民主党はどのような政策を実現し、日本の世の中をどう変えたいのか。その点が具体的に見えてこないところに、不安の原因がある。
政権担当能力とは、政治家が長い間与党にいるという経験の量を指すのではない。行政機構を使ってどのような政策を実現するかという、基本的な方向や政策に関する合意と、その実現のために必死になるという意思の有無こそ、政権担当能力の試金石である。今のイギリスの労働党政権は、相次ぐ腐敗で落城寸前であるが、一九九七年に誕生した時は颯爽たるものであった。地方分権、医療再建、雇用政策など、それ以前の保守党政権が生み出した矛盾を解決するための具体的な政権構想を選挙で示し、政権獲得後はロケットスタートと言われたくらい、次々と政策を実現した。主要閣僚は、初めて与党を経験する政治家がほとんどであったが、政権担当能力は十分持っていた。
日本の場合はどうだろう。総選挙直前のタイミングで代表が交代したこともあり、民主党の総選挙に向けたマニフェスト作成は遅れている。それを割り引いても、民主党政権が日本をどう造りかえるのか、具体的な言葉は伝わってこない。「友愛」では、世の中がどうなるのか、分からない。
民主政治の深化のために政権交代が必要だという議論は、一つの真理である。しかし、せっかくの政権交代が政党政治の浄化、自民党に対するお灸で終わってはもったいない。仮に、新しい政権が見るべき政策的成果を上げられないなら、国民の政治的欲求不満は一層大きなものになり、政党政治そのものが大きな危機に陥るかもしれない。
小さなテーマでよいから、政権交代によってこの点がよくなったと実感できるような政策転換を実現することが、新しい政権の最初の課題である。選挙までの二、三か月の間、民主党は浮かれることなく、政策構想を練らなければならない。
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