東京都議会選挙で敗北した後の1週間、自民党は醜態をさらし続けた。衆議院で内閣不信任案を否決しておいて、麻生首相を引きずりおろそうというのだから、支離滅裂も極まれりである。自民党が統治能力を失ったことは、誰の目にも明らかである。総選挙の日程は8月30日投票で決まり、いよいよ政権交代が間近に迫ってきた。1955年以来続いてきた自民党による一党優位体制を終わらせる時がきたのである。
今回の総選挙の最大の課題は、まず政権交代を起こすことである。自民党の政治家に、権力は彼らの私物ではないこと、国民から一時的に預かったものであることを思い知らせなければならない。国民自身が権力を預ける先を変更する経験をすることによって、日本の民主政治は一歩前進するのである。
次に考えるべきことは、政権交代によって何を変えるのかという問いである。自公連立政権は、イタチの最後屁とばかりに、補正予算でむちゃくちゃなバラマキを行い、借金を積み上げた。落城を予想して、城内の財物をすべて焼き尽くしたようなものである。民主党は、子ども手当て、農家の戸別補償など、再分配的な政策を打ち出している。それ自体は時代の要請に叶ったものであるが、政権をとっても国の金庫が空っぽであれば、何もできない。
民主党を中心とする連立政権が政策面で成果を上げるためには、財源面での展望を示すことも不可欠である。社会保障を再建するためには、近い将来消費税率の引き上げも含めた税制改革に着手することが必要だと私は考えている。しかし、今度の総選挙でその点を問うことは回避するという政治判断も仕方ないものであろう。そうであればまず、社会的公平という観点から、取るべき所から取るという政策が必要である。特に重要なことは、過去数年間、非正規雇用を増やすことによって社会保険料の雇用主負担を減少させてきた企業に対して、社会保障の再建のためのコスト負担を求めること、および所得税の累進性を強化することである。累進性の強化で損をするのは年収が1千万円を超えるような裕福な階層であり、大半の国民にとっては損な話ではない。
この種の問題提起をすれば、必ず企業や裕福な階層を代弁するメディアは、反発するに違いない。「国民の生活が第一」と訴える政党が本気で政権を取るためには、その種の反発を敢えて招いた上で、それを乗り越えるだけの胆力が必要である。次にできる政権は誰の利益を代表しているのか、誰に対して負担を求めるのか、明確にしたほうがよい。
21世紀に入ってからの自民党政権は、構造改革という名の下に、一般労働者の負担の上に、企業に対する富の移転を進めた。政権交代が起これば、当然そのベクトルを逆にしなければならない。この種の話は、選挙の際に明確に主張しておいたほうがよい。選挙で勝った後は、国民がこの政策を選んだのだからという論理で反対を乗り越えることが可能となる。国民によって選ばれた政府は、大きな正統性を持っている。その政治的勢いを生かせば、普段できないような政策転換も可能となる。選挙時からの周到な政治戦略が求められている。
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