真の二大政党制完成へ 意義大きい自民党再建
今回の選挙では、各党がマニフェストを示し、メディアもマニフェストを子細に比較する報道を繰り広げた。しかし、メディアや有識者がマニフェストの具体性や実行可能性を強調するあまり、政策論争が些末な論点に集中し、かえって政党政治の可能性を狭める結果になったのではないかと私は考えている。
実際、選挙戦中の世論調査を見ると、民主党のマニフェストの各論に対する国民の支持は必ずしも大きくはない。政治は定められた課題に対して正解を書く作業ではない。日々変動する世の中を動かす作業である。したがって、マニフェストを金科玉条にするのではなく、政策実現の手順を周到に考える柔軟性が必要である。
では、政権交代が起こってよかったと国民に感じてもらうためには、何をするべきだろう。第一に必要なことは、政治主導によって徹底した情報公開を行うことである。道路特定財源をめぐる論議の時に明らかになったように、長年の自民党政権の下で利権の伏魔殿があちこちに築かれた。その実態を解明し、旧体制の腐敗を国民に知らせることが、本来の改革の大前提である。
第二に、来年春を目処に、国民の希望を取り戻すプロジェクトを立ち上げることを提案したい。春というのは人間が進学、就職で動く時である。その時に、政策的なサポートをしっかり用意し、人々が希望を持って前に進むことができれば、政権交代の意義を実感するはずである。半年後に効果を上げるためには今すぐ政策転換に着手しなければならない。来年度予算の編成は官僚の手で着々と進んでいるが、学費の援助や就労支援対策のために予算を上積みすることくらい、その気になればすぐにできる。家族が病気で倒れた時に、すぐに治療を受けさせるのではなく、先に治療費の算段をするような人間はいない。国も同じである。最も重要な政策課題を示し、それを実現するために他のものは後回しにするのが政治的決断である。
第三は、対外関係の再検討である。自民党政権はその偏狭なナショナリズムゆえに、アジア諸国との真の相互信頼関係を築くことはできなかった。民主党政権がいきなり対米自立などと背伸びしたことを言う必要はない。むしろ、アジアの一員であることを強調し、歴史に対する反省をふまえながら未来志向の協力体制を作るという姿勢を示すべきである。来年は韓国併合から100年という節目である。朝鮮半島、更にアジアに対して、和解と協力のメッセージを発することは、民主党政権にしかできないことである。
では、歴史的な大敗を喫した自民党が再生するためには、何が必要であろうか。今後の自民党には大きく三つのシナリオがある。第一は、右派的ナショナリズムの純化路線である。選挙戦中に自民党自身が行った民主党に対するネガティブキャンペーンの延長といってもよい。第二は、穏健保守への回帰という路線である。憲法改正を急がない。経済的な調和を図る。こういった穏健路線はかつての自民党の主流であったが、この十年ほどは捨て去られた。第三は、小泉改革を推進した人々が主導権を取って、改革路線で再起を図るというものである。しかし、小泉という盟主がいなくなった自民党でこの路線が主流になることは難しいであろう。
民主党との対決を選ぶなら、第一のシナリオとなる。民主党の政策路線をある程度は共有しつつ、程度の違いを競うということになれば、第二のシナリオである。どの道を取るかは自民党自身が決めることである。ただ、私自身の感想を言わせてもらうなら、かつて日本の統治に責任を持った自民党が、勢力を縮小して、自己陶酔的な右派ナショナリズムの政党になることは、実に痛々しい。
真の二大政党制とは、自民党がもう一度政権を奪還することによって、完成するのである。その意味では、日本の民主政治の将来にとって、敗れた自民党の再建がきわめて重要な意義を持っている。
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