9月16日、ついに鳩山由紀夫首相が誕生し、ほとんどの日本人にとって初めての政権交代が実現した。期待と不安が入り混じった船出だが、閣僚の顔ぶれを見ると、やはり不安が先に立つ。鳩山首相は民主党内の様々なバランスを考慮して、慎重な組閣を行ったように見える。旧民社党、旧社会党などのグループの均衡を重視し、さらに参議院からも4人の閣僚を入れて、衆参のバランスも考慮した。女性や若手の登用はほとんどなく、民間からの起用もなかった。その意味では、昔の自民党と同じような人事と評することができる。
赤松広隆氏を農水相に、北沢俊美氏を防衛相に起用するなど、政治家としてのキャリアとは関係なく人事を行うことで、ミスマッチを起こした印象もある。これらの分野では副大臣や政務官によほど有能な実務家を起用しなければ、政治主導による政策展開など望めないであろう。
民主党は年来の持論である政治主導を実現すると称して、事務次官会議の廃止、官僚による記者会見の禁止など、新機軸を打ち出そうとしている。しかし、この種の動きを見ていると、政治主導という言葉に呪縛され、様々な問題をすべて政治家が背負い込み、かえって消化不良を起こしたり、身動きがとれなくなったりする危険があるように思える。
行政府に政治家を百人以上入れるという話が出た時から、私は形から入る政治主導の危うさを指摘してきた。政治家が官僚の行動をやたらと束縛することが政治主導ではない。記者会見禁止の件にしても、大臣等が自分の役所の情報をすべて管理することなど不可能であろう。官僚が勝手に情報操作を行うことを恐れての方針だろうが、日ごろから大臣等が官僚と密な議論をしておけば、官僚が独走するということは防げるはずである。官僚性悪説で政治が取り仕切ると意気込んでも、実質的な意味での政治主導は実現できない。
政治主導にせよ政権担当能力にせよ、その成否は結局、政治家が具体的なテーマ、それを実現する強い意志を持っているかどうかにかかっている。その点で、鳩山首相が温暖化防止のためにCO2の排出量を25%削減すると宣言したことは、それだけでも素晴らしいと思う。もちろん、それを実現するための具体的な政策を組み立てることにこそ政治主導は発揮されるべきである。
その点に関連して気になるのは、鳩山政治のバランス志向である。CO2削減にはすでに産業界から強い異論が出されている。それは、電力、自動車などの単産を経由して、自動車労組出身の直島正行経済産業省にも伝わるに違いない。炭酸ガスの削減のためには単産の反対を乗り越えなければならないというのはしゃれにもならない。本当の統治能力、政治力とは、身内の反対をも乗り越えて、自らの理念を実現する力のことである。
国民の期待を背負って始動したばかりの鳩山政権に、これ以上先回りした警告を並べるのはやめておこう。打ち出した政策の方向は正しいのだから、あとは国民に対してしっかり情報を提供し、世論の支持を集めながら、具体的に政策を実現していくしかない。官僚や各種団体に対する遠慮は無用である。首相以下各閣僚の奮闘を切に期待したい。
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