首相が1年も持たずに退陣する光景を見ると、国民はやりきれない既視感に襲われる。それは単に非力なリーダーが4人続いたというだけではない。こと鳩山氏に関しては、1年で政権を放り出すような無責任な自民党政治を変えるという期待を込めて国民は送り出したのである。にもかかわらず、政治変革の旗手たるべき鳩山政権および民主党が迫りくる参議院選挙を前に烏合の衆と化したことに、国民は深い絶望を覚えるのである。
鳩山首相の定見の欠如、政治主導のはき違えなど、この政権が崩壊した理由はいくつも指摘できる。私は、首相と民主党が政権交代の大義を見失ったことこそ、最大の原因だと考える。民主党が政権を取って以来、政権交代とは、自民党が半世紀の間築いてきた権力構造を民主党が簒奪することなのか、自民党政治の徹底的な否定の上に新しい政治の仕組みを樹立することなのかが、問われてきた。
当初は密約の解明や社会保障の再建など、新しい政治が始まるという期待を抱けた時期もあった。しかし、予算編成、政治資金をめぐる疑惑への対応など政権の具体的な動きを見るにつけ、これはもう一つの自民党政権でしかないのではないかという疑念が広がってきた。とりわけ、小沢幹事長による利益誘導による自民党支持組織の切り崩しを見ると、民主党に長年期待していた私でさえ、何のために政権交代を起こしたのか、情けなさでいっぱいになった。
今の民主党にとって最も大事なことは、鳩山退陣を契機として、政権交代の大義に立ち戻ることである。昨年8月の総選挙で国民は民主党に何を託したのかを思い出すことである。初めての政権交代なのだから、試行錯誤があるのは当然である。それを正直に認め、自己修正できるかどうかに民主党の統治能力はかかっている。民主党は今こそこの8か月の自らの誤りを総括し、政策と政権運営に関する軌道修正の方向を国民に示すべきである。政権と与党の運営という点に関しては、鳩山首相とともに小沢幹事長が退陣したことは、当然の処し方である。
表紙を変えて支持率を少しばかり回復させたうえで、参議院選挙を乗り切ろうなどと安易に考えるなら、民主党はより手厳しく国民に罰せられるであろう。この後の代表を決める選挙では、すべての民主党の政治家が国民の前に反省と懺悔を行い、再生の道筋について真剣な論議を行うしかない。鳩山政権の教訓を生かし、次の政権はなすべき課題を絞ったうえで、周到な戦略を立てなければならない。
昨年の総選挙で政権交代を求めた民意はまだ生きている。今、民主党が民意を受けとめて、政治の刷新の実を上げることができないなら、国民は政党政治そのものに絶望するしかない。次の政権こそ、民主党にとっても、日本の政党政治にとっても、最後のチャンスであることを、ポスト鳩山を担う指導者には銘記してもらいたい。
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