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「形」示した 「魂」入るか
宮脇 淳
 
 

 特殊法人改革の焦点になっていた日本道路公団など七つの法人について、やっと廃止・民営化の「形」が国民に示された。小泉内閣が発足して以来、行政改革は掛け声だけが先行し、官僚批判などの議論に終始してきた。それだけに、一定の形をようやく示すことができたことは、評価しなければならない。

 だが、この形に魂が入れられるだろうか。改革の本質部分はほとんど先送りされたからである。

この面からみれば、今回の決定は、現段階で内閣として成果を出したいという焦燥感もにじむ妥協策の域を脱していないともいえる。

 道路関係四公団の民営化には、課題が山積みする。確かに、国費投入の打ち切りや、過去の債務と資産の管理も含めて民営化するという方針は、踏み込んだ決断といえる。だが、これらの決定はいずれも、改革に向けた手段にすぎないものである。

 例えば、国費投入をなくすなら、あわせて、道路の建設・管理運営・利用の面で、地方自治体を実質的に拘束してきた法令と財政制度も見直すべきであろう。そうすることにより、国費投入に代わって、地域の選択で地域に合った高速道路の建設と管理運営が可能になる。改革には、目標達成のための環境整備を一括して敏速に行うことこそが必要である。

 過去の資産と負債を含めた一体型の民営化方針にも同じことがいえる。この手法は、過去の債務を棚上げした国鉄民営化と違い、新会社の経営変革がより厳しく問われることを意味する。変革の努力をそぐような過剰な負担を新会社に求めてはならない。高速道路は国民の貴重な資産で、その資産から国民がよいサービスを受けられるようになることが改革の目的だ。過剰な負担を求めて国費の再投入やサービス劣化になるなら何にもならない。

 高速道路整備計画の見直しは首相直属の第三者機関で検討するとされた。検討の経過は透明にする必要がある。個別ルートの是非だけでなく、判断の前提となる見直し基準を明確に示すべきだろう。改革の本質とは、政策や事業を決定するルールや物差しを、従来と違うものに変えるこことにあるからだ。これまでの物差しと何が変わったのかを示すことが、改革を国民の信頼を集める長い取り組みへ変えることになる。

 懸念される点はほかにもある。都市基盤整備公団は廃止されるものの、都市再開発業務は独立行政法人を設立し存続させる方向という。なぜ、形を変えてまで存続させることが最善の選択なのか。自治体にゆだねる仕組みを徹底して議論したのか、独立行政法人への移行がなぜ不可避なのか。説明がほしい。続く他の特殊法人改革でも、独立行政法人への移行が相次ぐ可能性が高い。現行の特殊法人の実態にすり寄る形で制度設計されるとすれば、独立行政法人は行政改革の「ゴミ箱」となり、行政の実態は変わらない結果になる。

行政改革の目的が行政と公共サービスの再生にあることを見失ってはならない。この目的実現には、自治体を主体にする構造の転換や、国家内に複数の行財政制度を併存させる「一国多制度」の創設も視野に入れ、新しい仕組みを積極的に模索する必要がある。もし、内閣も政治も、これまで通りの中央集権構造を前提に行革を考えていくのであれば、いずれ限界に突き当たってしまうだろう。

(2001.11.28読売新聞掲載)