未公開の新興企業(ベンチャー企業)に経営上の課題を聞くと、やはり第一位は資金調達である。ベンチャー企業は日本経済再生の旗手とみなされながら、意外なことに極めて基本的な悩みを抱えている。
他方、日本には1400兆円もの個人金融資産が存在する。これが国内で運用先を見い出せないため一ヶ月に数千億円のペースで海外に流出している。つまり資金の需給に関して明らかなミスマッチがあるのだが、これを解決する方策を提案しよう。
ベンチャー企業に資金を供給するという機能を持つのは文字どおりベンチャーキャピタルである。その第一号はちょうど30年前に京都に設立されたが、いまでは業界全体の投資残高は1兆円を超える一大金融産業である。しかし、ごく最近の傾向をみると、あまり活発ではないようだ。おそらく年間投資額はかなり落ち込むことになる。こうした事態の背景は二つある。ひとつは、“出口”と呼んでいるがJASDAQ:店頭市場等のいわゆる新興証券市場が低迷し、新規株式公開が不活発なことだ。うまく出口から出られないと必然的に入口での活動(投資事業)も鈍るのである。相場の低迷は東証を中心とした証券市場全体の問題だが、特に新興市場の再構築は急務である。そこで第1の提案。
ナスダック・ジャパンの撤退を良い機会として新興証券市場をJASDAQを中心に再編し、これに東証二部並みのステータスを与える。 |
出口だけでなく入口にも問題がある。最近ではベンチャーキャピタルに資金が集まりにくくなっている。特に、エンジェルと呼ばれる富裕な個人からの資金は欧米に比べると極端に少ない。こうした事態を打開するために必要なのは本格的な個人向けの投資減税である。それはエンジェル税制と呼ばれているが、これを拡充・整備する。これが第二の提案。
個人がベンチャーキャピタル等に投資(あるいはベンチャー企業に直接投資)して得た利益には課税しない。この措置は時限とし、国の財政事業を考慮し非課税の上限を設定する。 |
日本で最大の金融機関は銀行であるが、ここからベンチャー企業への資金ルートは極めて限られているのが現状だ。その原因は、銀行が新たな不良債権の発生を極端に恐れているからである。少なくない銀行がベンチャーキャピタルを傘下に持っているが、独立性が乏しく親銀行の意向に逆らえないのでいる。そこで最後の提案はこうなる。
銀行系のキャピタル会社を連結決算の対象から外す。また、銀行本体を含めた新興企業の投融資を別勘定としてBIS規制の対象から外す。銀行系キャピタル会社に銀行法の規制がおよばないようにする。 |
ベンチャー企業への投資にはリスクばかりでなく、日本経済の再生という大いなる夢があるのだから、大胆かつ即効性のある政策が期待されている。
※この原稿は「甘辛提言」『自由民主党』平成14年11月19日(火曜日)に掲載されたものです。
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