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改革は道路行政全体視野に
宮脇 淳
 
 

 道路四公団の改革問題が大詰めの段階に入った。この改革は国民にとってどのような意味があるのだろうか。ここでもう一度確かめる時期を迎えている。

 この改革を単なる特殊法人問題に矮小化(わいしょうか)してはならない。確かに、道路四公団の民営化は特殊法人改革の象徴として位置づけられてきた。だが、公団が抱える借金の返済に絞った組織改革だけでは、財政規律の回復や公共サービスの質を改善することが期待できないからだ。

 議論すべき本質は、高速道路を含めた道路建設のあり方や、その必要性を巡る決定システムを、どう変革するかである。道路行政の体系全体を視野に入れて議論しなければ、公団を民営化しても一時的な「トカゲの尻尾(しっぽ)切り」となるだけで、生きた改革に結びつかない。

 組織を民営化することによって高速道路の建設に制約を設けても、そこからはみ出した道路が、国の直轄事業などの財政の支出で建設されるなら、財政規律が保てるかは疑問である。

 財政支出で建設するなら、むしろ公団の借入金で建設してきた時代以上に、建設区間の優先順位づけや建設自体の必要性に、明確かつ厳しい政策判断を下さなければならない。これまでの高速道路建設がもたらした問題点を改善すべきである。将来、再び見直しが必要になるようでは意味がない。高速道路建設の政策決定システム自体の改革を、道路公団の組織変革とセットで行うことである。こうした深層にある問題を視野に入れ、最終場面での改革派と抵抗勢力の図式を見る必要がある。

 変化しているのは、道路四公団をめぐる環境だけではないことを考えるべきだ。日本の道路全体、財政全体の環境が変わり、道路に投入できる資源に大きな制約が生まれている。この点を踏まえなければ、この改革は、行政の中での単なる「赤字帳簿の付け替え」にとどまってしまう危険性がある。

 道路四公団の民営化にあたっては、道路予算の枠組みを抜本的に組み替え、膨大な法律の見直しが必要となる。時期通常国会で予定されるそうした議論が、道路四公団問題の背後にある道路に対する政治要求と、それを支える官僚行動や政策決定のシステムを、どれだけ揺り動かす内容となるかが問われる。

 民営化推進委員会の議論は当初から、「道路行政の是非」は議論しないことを前提に組み立てられていた。その意味で、議論は公団という組織論に限定される宿命を負っていた。そうであるからこそ、民営化推進委員会の限界を踏まえ、道路行政に対する国会の論戦や国民の議論が問われることになろう。

 確かめておきたい二つ目の点は、道路四公団の新しい組織の自立についてである。

 これまでの公団は、「真の管理能力が消滅した組織」だった。どんな組織であれ、組織が管理能力を失う際の要件として指摘できるのは、第一に職員の地位が専門的・独占的となっていること、第二に組織の中の権限が極めて多層化していること、第三に経営のための数値目標を自立して決められずその検証もできないこと、である。公団は、これらの三つの要件にいずれも当てはまる。職員の天下り、膨大なファミリー企業の存在、国の定めた高速道路計画に従わなければならなかった実態などを見れば明らかだ。自立した管理、ガバナンス(経営統治能力)を持つ組織ではなかった。

 自立した管理を行い、適切なガバナンスを確立することは、社内の組織図を書き換えれば実現するものではない。組織内の人間の行動自体が変革するような、明確でシンプルな目標と動機付けが必要となる。組織を民営化するなら、まず公団の経営管理能力とガバナンスを失わせてきたあらゆる要因を取り除くことであろう。そうでなければ、改革の名に値しない。


(2002.11.27 読売新聞掲載)