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アメリカで感じたこと
山口 二郎
 
 

 アメリカで中間選挙が行われた一一月六日から、日本政治について講演するためにアメリカ西海岸を訪れた。最初に訪問したのは、札幌の姉妹都市でもあるポートランドである。ポートランドを含むオレゴン州は、貿易を通して日本との関係が密接であり、講演会には日本について深い知識と関心を持つ経済人が集まった。そして、日本の構造改革や不良債権処理は本当に実現するかなど、本質に迫る質問を数多く受けた。私は、小泉政権の改革は経済をいっそう悪化させるだけに終わるだろうが、旧態依然たる利益配分によるデフレ対策ももってのほかであり、日本には第三の道が必要だと説明した。

 実はアメリカでも、競争万能と勝者皆取りの経済の中で、貧困層のみならず中間層にとって教育、医療、住宅などの公的社会サービスの荒廃が深刻な問題となっている。これらの社会サービスについて信頼できる政策を打ち出すことが必要だというのが、第三の道の意味である。

 アメリカの選挙結果については日本でも詳しい報道があっただろうが、ひとことで言うなら「九・一一」以来の政治的思考停止状態が共和党の勝利をもたらしたように思える。国の安全が脅かされているときに政治の論争をしている場合ではないという感覚が大統領への支持に結びついている。野党民主党も、政権に対する明確な対立軸を打ち出すことには臆病であった。皮肉な言い方をすればブッシュ大統領こそ、テロ事件の最大の受益者となった。政府への対決姿勢を打ち出すことを躊躇しているという点では、日米両方の民主党の危機は深刻である。

 ブッシュ政権の独善的な内政・外交政策を見るにつけ、このところ私自身の中にも反米感情がわいてくることを禁じえなかった。しかし、久しぶりにアメリカを訪問し、地域社会のリーダーたちと議論をしていると、この国独特の懐の深さを感じ、ある種の尊敬の念を覚えた。私が講演を行ったポートランド州立大学には、最近日本研究センターが設立された。日本で、または日本を相手にビジネスを行い、成功したオレゴン州在住の経済人が多大な援助を行うことによって、このセンターは成り立っている。

 最近の日本における経済改革のモデルは、減税、規制緩和、競争原理の導入など、アメリカを手本としたものである。しかし、日本の市場中心主義者が唱えるアメリカモデルは、アメリカの半分しか見ていないことを痛感する。たとえば、竹中平蔵経済金融大臣は「努力した者が報われる社会」といったスローガンを唱え、日本経済のアメリカ化の旗振りをしている。しかし、竹中氏の言うアメリカ化とは、単に貪欲になることを奨励するという意味でしかない。

 確かにアメリカでは、成功した経営者は日本よりもはるかに大きな富を得ている。しかし、同時にその富を公共のために使うという文化も脈々と受け継がれている。ポートランドの日本研究のために惜しみない協力をしている経済人を見て、社会の底力というものの違いを感じたしだいである。

 日本の教育改革論議でも、教育基本法に「公共への貢献」を書きこもうという話が出ている。しかし、こうした話は抽象的な観念を押し付けるよりも、指導的な立場の大人が実践することのほうが教育効果は大きい。さしあたり、姉妹都市における日本研究の振興のために何かできないだろうか。

(北海道新聞11月17日)