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野党の断末魔
山口 二郎
 
 

 11月末、突然民主党と自由党の合併という話が永田町を駆けめぐった。この話は、代表としての指導力を問われ窮地に陥った鳩山由紀夫民主党代表が仕掛けた、窮余の一策といわれている。今時野党の合併など、落ち目の銀行同士の合併ほどにも期待を集めない。それどころか、「貧すれば鈍す」という呆れやあわれみを招くだけである。野党第一党の党首が国民からあわれに思われるようになったら終わりである。

 現在の野党のていたらくに満足している人はほとんどいないであろう。小泉首相でさえ、野党が余りだらしないと与党が安心して政権の足を引っ張り、与党に対する抑えが効かなくなることを心配しているにちがいない。野党の低迷の原因はどこにあるのだろうか。それは数が少ないことにあるのではない。最近行われた熊本、新潟、尼崎の市長選挙の結果などに表れているように、新しい政治の選択肢に対する国民の待望は依然として続いている。国政レベルの野党が、新しい選択肢を提示できていないところにこそ、野党不振の原因がある。選挙の便宜だけを考えて政党の規模を拡大しようという発想は、少しでも政治に関心を持つ国民の最も嫌うところである。まさに鳩山氏は墓穴を掘ったことになる。

 民主党は早いうちに鳩山代表を退任させ、解党的な出直しを図るしかない。その際最も重要なことは、小泉政権の政策をどのような理念に基づいて否定し、どのような方向の政策を訴えるかについて、十分掘り下げることである。民主党はこの点がはっきりしないからこそ、支持率が低迷している。長年政治を観察している者にとっては、ともかく一度自民党を野党にして、この党を分裂させなければ日本の政党政治は一歩も前に進まないことは明らかである。しかし、一般の国民にとっては、自民党に変わる勢力が何を変えるのかが分からなければ、改革を呼号し、次々と政治ドラマを引き起こす小泉首相を支持するしかない。

 いまの日本に必要な野党は、見当違いの小泉改革に対して本気で怒り、人間の生活を支えるための政策を提示する政党である。自民党の抵抗勢力は本気ではない。彼らは小泉首相の足を引っ張る振りをしているが、自民党政権を壊すつもりは毛頭ない。与党の議員でいられさえすれば、首相が小泉でもかまわない。民主党の若手には、一流大学を出てキャリア官僚や大企業サラリーマンを経て政治の世界に入った「優秀」な人材が多い。これらの政治家は発想において竹中平蔵金融相と近い。彼らは、効率優先、弱者淘汰の経済政策を実行することが民主党流の改革だと信じている。彼らには、年間自殺者が三万人を越す社会の荒廃や銀行の貸しはがしで淘汰される中小企業の痛みなど分からない。

 野党の責務は、現政権とは異なる政策を用意することである。小泉改革を支持したいのならば、そんな政治家はさっさと自民党に入ればよい。現政権が政策的に行き詰まったときに国を救うのが野党の役割である。そうであれば、野党はいまの政策が失敗することを前提として、次の政策を考えておかなければならない。小泉・竹中流の改革に対抗する政策の処方箋はすでにいくつか出されている。問題は野党がそれを自らの政権構想として採択し、国民の前に提示できるかどうかである。その意味で野党の側において再編が起こることは必要である。自民党の中に手を突っ込んで政変を起こすことをねらう理念なき政治家を抱え込んでいたから民主党はだめになったのである。

 もっとも、民主党という名前はもはや色あせ、次の政権を担うという清新なイメージとは離れすぎた感もある。北川正恭三重県知事と提携したいという気分は分かるが、いまの民主党に北川氏が入っても、飛鳥田一雄元社会党委員長の二の舞になることは明らかである。もう一度土台の所から野党をくみ上げるしかないのであろう。

(週刊金曜日2002年12月6日)