1.はじめに
1999年7月23日(金)から30日(金)にかけてコロラド州デンバーで開催されたNCCUSL年次総会において、UCITAは(UETAとともに)統一州法として承認され、今後は各州議会における州法としての採択に向けての努力がすすめられることになる[1]。筆者は金子宏直委員とともにこの総会に参加する機会をえたので、以下にUCITA承認にいたる年次総会の内容を報告する[2]。UETAに関しては金子委員の報告書を参照されたい。
2.荒れた総会
今年の総会を一言で形容すると、「荒れた総会」であったといえる。複数の筋によると、これは「異例」なことのようであり、その原因はUCITA(および改正UCC第2編)の審議にあったといえる。UCITAについては開会前から波乱が予想されており、UCITAをuniform actとしてではなくて、model act にする可能性も囁かれていたほどである[3]。具体的な争点については後述するとして、UCITAがどのような審議をたどったかをまず述べておこう。
(1) 審議の経過
(a) 審議の進め方
各草案の審議は、全体会議(Committee of the Whole)において各条文をひとつひとつ起草委員会が読み上げ、条文ごとについて、フロアの統一州法委員から意見・質問・改正提案(動議)を受け付けて検討するという方向ですすめられる。この読会では、Annual Meeting Draft[4] および21日に開催された起草委員会での修正を示した "Errata changes: UCITA"[5] を基礎になされた。この読会が終了すると、その草案を統一州法として承認するか否かの各州ごとの投票にかけるべき旨の動議が起草委員からなされ、その動議が承認されると、総会の最終日前日(29日(木))に各州ごとの承認にかけられることになる。
(b) 審議日程
当初の予定では、23日(金)午後および24日(土)午前・午後(前半)がUCITAの審議に割り当てられていたが、議論が続出し、審議は遅延に遅延を重ねた。そのため、26日(月)全日、27日(火)午前、28日(水)午前が改めてUCITAの審議に割り当てられることになった[6][7]。なお、全体会議とは別に、UCITA起草委員会は21日に会合をもったほか、全体会議の合間をぬって、頻繁に、しかも深夜まで開催されていた。
(c) 28日の討論について
28日の読会は、前日までの審議をふまえた修正箇所についての審議にあてられ (cf. "Errata sheet for UCITA (based on deliberations of Committee of the Whole)"[8])、全条文の検討が終了した。通常であれば、この審議を終了した草案を各州の投票にかける旨の決定がほぼ自動的になされるが[9]、今回は各州への投票にかけないことにすべき(つまりUCITAを棚上げすべき)であるとの反対意見がPerlman委員から提出された。これをうけて、起草委員会の委員長Connie Ring (元NCCUSL議長)とPerlmanがそれぞれの立場からのスピーチを行い、その他の委員から発言が続いた。
Ringのスピーチは、きわめて感動的なものであった。その要点は、連邦によるこの分野の専占を防ぐ必要があるということ。州の方では準備が整っていることを示さなければ、連邦がe-commerce立法をして専占されてしまう[10](Magaziner report を引き合いに出していた);UCITAは完全ではないかもしれないが、まず各州で採択したうえで、UCC第2A編の例のように問題があれば直せば良い(test it in the water, like 2A)と主張。(なお、Ring はNCCUSLのなかでかなりの尊敬を集めている人物であり、これまでにも多くの統一法を完成に導いている。)
これに対して、Perlman は、UCITAの承認は時期尚早だと主張。すなわち、実質的にいってUCITAは「詳細すぎ、細かすぎ、今日の技術にコミットしすぎ、曖昧すぎ(too detailed, too specific, too committed to a technology of today, too ambiguous)」だし、知的財産権との関係についてももっと議論をすべきことを指摘("UCITA is not alone a commercial statute, it is also a part of intellectual property, UCITA does affect intellectual property, especially research.")。また、政治的にも、熱心な反対が存在するとし("passionate opposition exists (eg. Prudential were worried about Y2K, now they are waking up to UCITA"))、合理的な、かつ、「他の州も採択する」といえるような統一州法を準備しなければ州議会を通らないと主張。
("Article 2 had the same concern and was tabled because it was the primary product [flagship] of NCCUSL. UCITAだからtake chance してもよいのか? No."とも言っていたが、これは皮肉だろう。)そして、UCITAを野に放つと電子商取引に多大な被害が及ぶとも主張("If you put [UCITA] out, e-commerce will be damaged.")
また、Ringが主張する専占のおそれに対しては、「われわれにはUETAがあるではないか("We do have UETA")」と応じ、UCITAはe-commerce の一部にしか適用にならないことを指摘し(e-commerceはモノの取引も含む)、UCITAは電子商取引立法ではないことに注意を喚起。また、 UCITAが各州議会で争われているのをみれば、連邦は州は準備万端なので任せよう(States are ready)とは認めてくれないだろうともいう。
その後、13人の委員がフロアから発言。10人がUCITA支持。UCC2を棚上げしたのは、その分野ではすでに統一性が達成されていて、かえってrevised UCC2はその統一性を乱すおそれがあったからだが、UCITAの分野ではそもそも統一性がない、UCITAがあったほうが統一性は増す(Bush)などの意見が表明された。UCITA不支持の見解としては、UCITAには問題が多くてif we put it out , it will damage NCCUSL(発言者不明),とりあえず承認して問題があればあとから改正すればよいというが、あとからrewriteするのは難しいし、そもそもUCITAには理解できないことが多い。("I tell students you can understand Arts. 3 & 4 if you know the law. BUT as for UCITA, there is no law out there")(Benfield)など。
これに続いて、再度PerlmanとRingが発言。Perlman: UCITA does not cover 50% of the economy; rather than facilitate, UCITA damages; not every industry supports UCITA and their opposition may be based on misunderstanding, but they do oppose. UCC2については反対があるということで延期したのだから、UCITAについても同様であるべき。
これに対してRingは、" I have never written a perfect brief. But my clients will be ill-served if I didn't file a brief; We do not have time."と締めくくった。
こののち承認のための各州投票にかけるか否かについて州ごとに投票。結果は承認の投票にかけることに賛成37州、反対11州(Alaska, Connecticut, Georgia, Iowa, Louisiana, Massachusetts, Minnesota, Nebraska, North Carolina, Utah, Vermont,その他Alabamaと Mississippiは棄権、Montana, New Hampshire, Puerto Ricoは投票せず)[11]で、翌日の投票にかけられることとなったが、このような異例の手続が踏まれたこと自体、UCITAのコントロヴァーシャルな性格を示しているように思われる。
(d) 各州による投票
以上をうけて、29日午後3:30からUCITAを統一州法として承認するか否かの投票が行われ、賛成43州、反対6州でUCITAは承認された[12](反対したのはAlaska, Iowa, Minnesota, Nebraska, North Carolina, Utah, 棄権Nevada, Wisconsin, 欠席で無投票Montana, Rhode Island)。
(2) 激しいロビイング
以上のような審議経過をたどったわけだが、激しいロビイング活動がみられたのも今回の総会の特徴のようである[13]。賛成派、反対派ともに各種文書を配布していたし[14]、USA Todayの全面広告(UCC2に対する産業界の反対)、 "Those who will oppose UCITA"と題された匿名の文書(これはホテル宿泊者の各部屋のドアの下からすべりこまされていた)。マイクロソフトの法務関係者や、法律事務所Preston, Gates and EllisのHolly Towle弁護士などがいたし、ディズニーも活動していたとの話しである。また、消費者団体(約2名?)がホテルでデモを企てていたとの情報もある。
また、とくに推進派に政治的な言動が目だったようにも思う。たとえば、Ring のスピーチ等でのUCITAの電子商取引法としての性格付けには無理があるし、Lorin Brennanの、ライセンスを受けなければ使用できない(no right to use without license)というレトリック[15]も同様であろう[16]。
3.主要な争点および修正点[17]
さて、それでは総会において主たる争点となった規定とそれをめぐる議論を以下で簡単にあげておく。なお、契約と知的財産権の関係のあり方という論点は、今回の総会において改めて論じられることはなかったが、Perlman教授の上述のスピーチでも触れられており、決してコンセンサスを得て解決されたというわけではない。この点については、別稿[18]で論じたので参照を請いたい。
(1) 起草委員会からの提案で削除された条文: 草案§§207, 309, 310, 705
いずれも、UCC第2編からのcarry over であったが、コンピュータ情報取引では重要でないとの理由で削除。とくに異論は出なかった。
(2) 適用範囲(その1: embedded software §103(b)(c) )
どのようなembedded software/firmware がUCITAの適用範囲に含まれるか、議論が大いに紛糾したが(例えば、デジタル・カメラ)、結果的には wording の修正にとどまった。具体例については、reporters note の完成を待ちたいが、概要次の通りである。
UCITAとUCCの他の編との適用関係が問題となる場合には、UCITAはコンピュータ情報の部分のみに適用されるのが原則であるが、@コンピュータないしコンピュータ周辺機器の取引、および、A当該物品の取引の重要な目的(material purpose) がプログラムへのアクセスを可能にすることにある取引、であればUCITAが取引全体に適用される(§103(c))。なお、§103 (d)(5)との関係は不明確(後述)。
UCITAとUCC以外の適用関係が問題となる場合には、コンピュータ情報が主たる対象(primary subject matter)である場合には、UCITAがその「取引全体」(つまりハードの部分についても)に適用され、primary subject matterでない場合には「その取引のうちコンピュータ情報取引に関係する部分のみ」に適用されるのが原則である(§103(b))。なお、§103 (d)(5)との関係は不明確(後述)。
(3) 適用範囲(その2: 適用除外)
起草委員会の提案により、@enhanced sound recording(§103(d)(2)(B))およびA契約に基づく情報提供がコンピュータ情報の形態でなされても、契約がコンピュータ情報形態での情報提供を求めていない場合やコンピュータ情報の形態であることが当該取引の primary subject matterからみてde minimusな意味しかもたない場合には、UCITAは適用されないこととなった(§103(d)(5))。(§103(d)(5)の後段は、§103 (b)(2)に優先するということか?)
(4) 適用範囲(その3: Opt-in/Opt-out §103(e))
オプトイン、オプトアウトは契約自由から当然可能だとの意見がフロアから出され、(e)を削除する方向での動議が提出されたが(Smith motion, 7/28)、起草委員会は、コモンローのopt-in,opt-out ruleだと、無制約であるが、@オプト・アウトに関しては、いくつかの強行規定の適用をオプトアウトの合意で免れることは認めるべきでなく、また、Aオプトインに関しても、UCITAへのオプトインが他の法の強行規定の適用を免れるためになされるのを認めるべきでないとの説明がなされ、動議は否決された。
(5) Submission of idea に関する§209 - 削除
同条を削除すべきとの動議が提出され64-54で採択された。
(6) §212(草案§213)インターネット取引における契約条件の事前開示
インターネット・サイトにおいてコンピュータ情報を提供するライセンサーが、ライセンシーに標準条項の「検討の機会」を与えたといえるための safe harbor を定めるが、これを「要件」にすべきだとする意見(Perlman)が出された。起草委員会は、mom & pop 型の小規模ライセンサーにとって、要件化は酷であると反論。Perlmanはリンクをひとつ張るだけなのだから酷ではないと述べ、要件化の動議を提出したが否決(7/24)。
(7) §214 (草案§215)電子商取引――帰属
ETAやUCC2がきわめて簡略な規定になっているのに、草案§215は長いのはなぜかとの質問(Perlman)に対して、起草委員会は次のように答えた。UCC4Aも同様に詳しい規定(§4A-202,203)をおいているが、それはwire fraud を防ぐ必要性という取引の性質に基づく。UCITAも取引の性質から、詳しい規定が必要であり、@合意が存在し、A商業上の合理性があり、B手続が踏まれ、Cそれが誠実になされたことが必要であり、草案§214はきわめて消費者保護寄りの規定なのである(消費者保護であることを強調)。これに対して、 Perlman はUCC2との違いは説明されていないとして、草案§215(b)(c)(d)を削除する動議を提出。63-60で採択。(7/26)
草案§215で本当に問題になっていたのは、(b)(c)(d)が、発信者とされる者への帰属が容易に認められる規定(帰属手続による帰属の「見做し」)となっていて、起草委員会の説明とは異なり、消費者に不利な規定になっているという点にあったものと思われる[19]。これらの各項の削除により、帰属の証明は、(UETA同様)一般的な証明方法によることとなる。
(8) §304 継続的契約の内容変更
WestLaw がShepard 情報の提供を打ち切った例などを挙げて、マスマーケット契約における一方的な内容変更を認めるためのsafe harbor を定める304(b)(2)を、同項が定める方法によらなければ内容変更を認めない強行規定にすべきとの動議が提出されたが、起草委員会の"we will look into it" という言葉を得て動議撤回。ただし、起草委員会は最終的には何も変更を加えなかった[20]。
(9) §402(c) 公刊情報コンテンツの明示ワランティ
同条は公刊情報コンテンツについて、コモンローはワランティを認めていないが、@Patchel委員から、クリップアートのソフトの例 (blurry horse)が出され、公刊情報コンテンツについて明示保証を認めるべきとの議論がなされた他、A明示ワランティが認められる場合であっても、その救済方法がUCITAによるとされているが、これでは結果損害の賠償請求が制限されることになって、不都合であるとの議論がなされた。
これらの議論をうけて、Aに関して(c)第2文を削除する動議(Perlman)が出されたが否決。つづいて、(c)を削除するという動議(Perlman)―つまり、公刊情報コンテンツに明示ワランティを認める―が出されたが、これも否決。
(10) §503 契約利益(契約上の地位)の移転
議論が多かった条文である。マスマーケット・ライセンスにおける移転禁止条項は、「顕著」でなければならない旨の(4)項が追加された。マスマーケットにおける移転禁止条項は禁止するとの条項を入れるべきとの動議も提出されたが61‐67で否決。
(11) §816 電子的自力救済(Electronic Self-help)
多くのCIO (chief information officer)が自力救済が認められることについて危惧を抱いていて(自力救済によって一企業のシステムがダウンした場合の波及効果が計り知れない)、州議会における強力な抵抗を引き出しかねないとして、Gabriel 委員がfriendly motion to delete §816 を提出。これに対して、起草委員会から、コモンローでは平和を乱さない限り、自力救済の権利があり、電子的自力救済についても、契約時点で自力救済権の存在が相手方に通知されてさえいればよいところ、§816はそれを制限するものであって重要という、かなり強硬な反対意見が示された。Gabrielは動議を撤回したが、Sandra Stern が代わって動議提出。圧倒的多数で否決(voice vote で決まったが、yes といったのはSternだけだったのでは?)21
4.おわりに
NCCUSLがついにUCITAを統一州法として承認したことにともない、今後は議論の場は各州におけるUCITAの採択に移っていくことになり、現時点ではVirginia州による採択が近い将来に予想される[22]。しかし、その展望は決して楽観を許すものではないように思われる。
まず、25の州の司法長官(Attorney General)がUCITAに反対する共同声明を公表している[23]。司法長官がもつ事実上の影響力の大きさを考えれば、これはUCITA賛成派にとっては脅威であろう。この共同声明は、主にマスマーケット契約におけるassentの扱いが消費者利益に反するという点を問題視するものである[24] [25]。また、UCITAによってフェア・ユースを制限されかねない図書館業界も強力な反対活動を展開している。
これらに対して、UCITA起草委員会も迅速な対応を企図している。同起草委員会は、今後はStandby Committeeとして存続し、(1) UCITAの各州における採用を促進するための活動;および(2)UCITAの問題点が明らかになった場合、適宜その修正案を作成する活動を続けることになっているが、とくに上記の2グループ(「図書館/司書」および「各州の Attorney General (AG)」)に対して、優先的に、かつ、できるだけ速やかに、コンタクトをとる戦略が確認されている[26]。このようにUCITAをめぐる戦いはまだまだ続きそうである。
なお、NCCUSLは Study Group on "Internet Private Law" を発足させており、インターネット私法に関する統一州法の作成を検討しはじめている。当面、考えられているのは管轄や準拠法の問題のようである。
以上