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「産業構造審議会情報経済部会第2次提言案」(平成12年11月)に対する意見 ――電子情報使用許諾契約に関する提言案を中心に――

[表記「提言案」に対するパブリック・コメント募集に応じて提出した意見です(2000.12.21)。]

曽野裕夫(九州大学大学院法学研究院助教授)

「産業構造審議会情報経済部会第2次提言案」(平成12年11月)における電子情報使用許諾契約に関する部分(15‐16頁)につきまして、下記のとおり、若干のコメントいたします。

1.「使用許諾契約成立までの間における電子情報提供契約解除権の設定」について

1.1. 「実務における定着」を理由としてシュリンクラップ契約なる契約締結手法を容認するのは不適切である。

(説明)

第2次提言案は、シュリンクラップ契約という契約締結手法を容認する方向で書かれているが、それは、シュリンクラップ契約が「実務においてほぼ定着している」との認識に基づくようである(『第1次提言(案)に対するパブリックコメント概要およびこれに対する考え方』参照)。 しかし、実務における定着を根拠とすることには疑問がある。仮に、「実務における定着」があるとしても、それはベンダーによる一方的な慣行形成によるものであり、ユーザー側が「電子情報提供契約」と「使用許諾契約」の関係を明確に理解したうえで、そのような実務慣行を受け入れたものとは言いがたいからである。 (ユーザーはおろか流通業者も、「電子情報提供契約」は媒体の単純な「売買契約」だと考えている場合が多いものと思われるが、それが「売買契約」なのであれば、ユーザーがその媒体を使用するための「使用許諾契約」は本来不要なはずである。 にもかかわらず、多くのユーザーは「売買契約」とともに「使用許諾契約」にも拘束されると「誤解」しているように思われる。 これは、ユーザーが両契約の関係をベンダーが考えるようには理解していないことの証左であり、「実務の定着」をいうには時期尚早である。)

1.2 仮に、いわゆる「シュリンクラップ契約」なる契約締結手法を容認するのであれば、「電子情報提供契約」の締結に加えて、「使用許諾契約」も締結しなければ当該電子情報を使用できないことが、ユーザーに明確に伝わるような形で「電子情報提供契約」が締結されることを最低条件とすべきである。

(説明)

第2次提言案では、「使用許諾契約の申込みを拒絶した場合に、ユーザーは、電子情報提供契約(流通契約)を解除して、代金の返還を受けることができる」ようにするとされ、シュリンクラップ契約を条件付で容認している。シュリンクラップ契約を容認するのであれば、ユーザーが使用許諾契約の申込を「拒絶」した場合のための返金ルールは必要であり、この点には賛成である。 他方、どのような場合に使用許諾契約の申込の「承諾」があったといえるかという問題が残っている。ユーザーが、「電子情報提供契約」と「使用許諾契約」の関係を明確に理解している場合は少ないと思われるため(上記1.1参照)、たとえば「ラップの開封」や「使用の開始」というユーザーの行為が、申込とは無関係になされる場合が多いと思われるからである(ただし、使用許諾契約の申込に対する承諾方法として「ユーザー登録葉書」の投函のような積極的行為が要求されている場合には別である)。 ユーザーの「ラップ開封」や「使用開始」等が申込に対する承諾だといえるためには、少なくとも、「電子情報提供契約」とは別に「使用許諾契約」も締結しなければ当該電子情報を使用できないことを、ユーザーが明確に認識できるような形で「電子情報提供契約」が締結されることが最低条件だと思われる。 ユーザーがそのことを明確に認識できずに「電子情報提供契約」を締結した場合には、その契約は流通業者との「売買契約」として性質決定されるべきであり、そうだとすればユーザーは著作権侵害にならない範囲で電子情報を自由に使用できるはずであるから、仮にユーザーが、「ラップの開封」「使用開始」のような行為を行った場合でも、それは「使用許諾契約の申込」とは無関係の事実上の行為にすぎないというべきだからである。

1.3. シュリンクラップ契約を容認するのであれば、そのルールの適用範囲の明確化が必要である。

(説明)

シュリンクラップ契約という契約締結手法の有効性を容認することは、電子情報の使用許諾契約に限定されない、民法(契約法)の変容を迫るものともなりかねない(書籍ばかりか、トースターのシュリンクラップによる使用許諾契約まで認められることになる)。 したがって、これを容認するのであれば、この締結手法が許されるその適用範囲を明確化すべきである。 換言すれば、「情報財」「電子情報」等の概念の明確化が不可欠であるということになる。

2. 「使用許諾契約におけるユーザーのフェアユース確保条項の検討」について

フェアユース確保条項は必要である。たとえばソフトウェアの批評禁止条項など、「表現の自由」を侵害する条項も含めて無効とされるべきである。

3. 「使用許諾契約の終了の担保措置の明確化」について

使用許諾契約の終了の担保措置として自力救済的なものを認める場合、その自力救済措置の発動により、ユーザーないし第三者の生命・身体・財産に不測の損害が生じないように、安全弁の手当てをすべきである。

以上