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情報契約の期間と終了

曽野裕夫

目次

  1. UCITAにおける法準則
    1. 期間と終了事由
    2. 終了の効果
    3. 終了後の執行
  2. 日本法の状況と考えられる対応
    1. 特論:ソフトウェア・ライセンス契約について
    2. 期間と終了事由
    3. 終了の効果
    4. 終了後の執行
  3. まとめ

情報契約が締結された場合、その存続期間はどのように解され、また、その終了事由と終了方法はどのようにあるべきか(更新はあるか等々)。それを考えることが本稿の課題である。以下では、UCITA[1]の関連規定(§§308(契約の期間 duration)、616〜617(契約の終了 termination)を参考としつつ、日本法におけるこの問題への対応を検討する。

検討をはじめる前に、本稿の検討対象について2点の限定を確認しておきたい。第1に、本稿で検討する契約の終了には契約違反の効果としての契約解除は含まない。なお、UCITAでも、契約違反に基づく「解除(cancellation)」と、それ以外の「終了(termination)」は区別されている(§102(a)(63)は「契約の終了とは、契約違反に基づく場合を除き、一方当事者が合意または法によって付与された権限に従って契約を終了させることを意味する」と規定する)。 とはいえ、効果面では共通点が多いことはたしかである(§802→§§616, 618(C)を準用)。第2に、本稿で検討する「情報契約」とは具体的には、プログラム/マルチメディア商品等の「ライセンス契約」と「アクセス契約」をさし、プログラム開発契約、データ処理契約などの役務提供契約は含まない。

T UCITAにおける法準則

1.期間と終了事由

UCITAは、終了方法について§617で定めるとともに、期間の定めのない契約の期間について§308をおいている。以下、契約に期間の定めのある場合と、定めのない場合を分けて論じる。

A.契約に期間の定めがある場合
(1) 期間

契約に期間の定めがあれば、契約期間はその定めによる。契約期間に関する§308は任意規定であることを明示している。

(2) 終了方法

その場合,契約で定められた期間の経過が約定終了事由となり、契約は自動的に終了する(通知不要)(§617(a))。

B.契約に期間の定めがない場合
(1) 期間
(a) 一般原則(合理的期間・任意終了権、§308(1)←コモンロー、UCC§2-309(2)を踏襲)

契約に期間の定めがない場合、契約は「合理的期間 reasonable period」は存続するとされ、何が合理的期間であるかは、ライセンスの対象と取引の状況commercial circumstancesに照らして判断される。

ただし、その合理的期間内であっても、「時宜に適った通知seasonable notice」をすれば、将来の履行に関して契約を終了できる(termination at will)とされている。(もっとも、期間の定めのない契約は、合理的期間の経過によって自然に終了するのではなく、後述のように通知によって終了するとされており、このような任意終了権を設けるのであれば、合理的期間は契約が存続するということにいかほどの意味があるのかは判然としない。)

(b) 特則(永続性の推定 presumed perpetual license、§308(2))

以上の一般原則とは別に、@コンピュータ・プログラムのライセンスおよびA頒布・実演のための情報ライセンスについては、その契約は永続的に存続するとの推定規定がおかれている。

@コンピュータ・プログラムのライセンス(§308(2)(A))
この特則は、マスマーケット・ライセンスを想定したものとされ(comment 6)、複製物の所有権を移転するか、対価と引き換えに複製物が引き渡される場合(複製物の対価が引渡時以前に確定していること)に限られる。また、ソース・コードの使用許諾を含まないことも要件とされている。これは、ソース・コードのような秘密情報については、明示の合意がない限り、長期間の権利を否定するという商慣行を尊重したものとされる(comment 6) 。

A頒布・実演のための情報ライセンス(§308(2)(B))
この特則は、ライセンスされた情報・情報権を、頒布(public distribution)や実演(public performance)のためのcombined workに組み込んで使用する権利の明示的なライセンス、または、他の出所からの情報・情報権とともに使用する権利の明示的なライセンスに適用される。例えばデジタル百科辞典に組み込むためのクリップ・アートのライセンスが任意に終了されてしまうようなことを回避するための規定だとされる(comment 6)。

(2)終了方法
(a)一般原則(約定終了事由の発生、または合理的通知、§617(a)←UCC2-309(3)を踏襲)

永続的でない契約は、約定終了事由の発生、もしくは、終了の合理的通知がなされることによって終了される。ここでは、合理的通知による契約終了について論じる。

「合理的通知」は事情に応じて判断される。終了の通知は、相手方に、代替取引をしたり終了後の使用をしないようにする機会を与えるためのものであるから、通常は事前の通知が要求されるが、違法行為や損害発生を防ぐための終了などのように、終了と同時または終了後の通知でもよい場合があるとされている(comment 3)。

また、この終了の通知には「発信主義」がとられている(UCCとは異なる)。すなわち、Comment 3によれば、終了をしようとする者は”give notice”しなければならないが、通知が到達する必要はないとされる(cf. UCC§2-309(3)は”receive notice”)。契約上の権利を行使しているだけなのに、到達まで要求すると不確実性が増して問題が多いからとのことである。しかし、コモンローでは到達主義が原則だし(承諾については発信主義)、§215は電子メッセージ一般について「到達主義」の採用を宣言しているのに(UCITAでは承諾についても到達主義)、これでよいのかどうかは疑問である。さらに、発信主義の採用は、不到着リスクを相手方に移転するだけで、発信主義も不確実には変わりないはずである。問題は、誰が通知の不到達のリスクを負うかということであり、やはり、意思表示をする側がリスクを負う(=到達主義)のが正統のように思われる(契約違反に対する解除の通知であれば、解除のきっかけを作った違反者に不到達リスクを負わせる発信主義は正当化できるかもしれない。Cf. CISG art. 27)。

なお、契約で、通知要件を放棄したり修正すること(通知方法の基準設定など)をすることは原則自由とされている(§617(c))。ただし、これには次のような例外がある。
 例外@ 「放棄条項」を適用することが非良心的な結果となる場合
 例外A 設定された通知の「基準」が明らかに不合理な場合(適用の結果をみることなく判断)

(b)アクセス契約の特則

アクセス契約については終了方法に特則があり、通知なく終了することができるとされている(§617(b)←コモンローを踏襲)。ただし、そのアクセス契約が、ライセンシーが保有する情報で、ライセンシーからライセンサーに提供された情報に関するものである場合には、「約定終了事由の発生」か「合理的通知」が必要である。

2.終了の効果

UCITAは、情報契約終了の効果として一般的に非遡及的な義務の消滅を定める一方で、契約終了にもかかわらず存続する権利義務があることを定める。

(1) 一般原則

@双方未履行の義務 executory obligationsが消滅する(非遡及効、§616(a)←UCC§§2-106(3),2A-505(2))
Comment 3によれば、一方当事者がすでになした履行の対価的義務は未履行義務ではなく、消滅しない。それに対して、当事者の一方または双方が部分的にしか履行していない場合、残された履行部分が、それを履行しなければ重大な契約違反material breachになるほど重要な部分であれば、その義務は本条においては未履行義務として扱われ、消滅する。

A原状回復義務(§618(a))
情報・複製物・相手方が所有権を有したり終了時に返還義務の対象となっているその他のマテリアルを占有または支配する当事者は、それらを引渡すために、または、相手方の指図に従ってそれらを処分するために保管するために、商業的に合理的な努力義務を負う。マテリアルが共同所有物である場合には、それを占有または支配している当事者は、共同所有者全員のためにavailableにしなければならない。

B使用する権利の消滅(§618(b)←コモンローを踏襲)
ライセンスの終了は、契約でライセンシーに認められていた情報・情報権・複製物の使用やアクセスをする権利を終了させる。これに対して、使用を続ければ、契約違反や知的財産権侵害となる(comment 3)。

(2) 例外

終了後も存続する権利義務や条項がある(survival rules, §616(b))。具体的には次のとおりであるが、これらは限定列挙ではなく(§616(b)(11))、また任意規定であるから、これらのうちでも存続しない義務を合意することは可能である(comments 1,4)。

  1. 終了前の契約違反または履行に基づく権利[2]
  2. 秘密保持義務、不開示義務、競争避止義務(他の法の下で強制可能な範囲で)
  3. 相手方に返還していないまたは返還できない、ライセンスされていた複製物・情報、または、それを元に作成された複製物に関して適用される使用条件に関する契約条項[§618(b)との関係?]
    1. 情報、資料、書類、複製物、記録等を相手方に引渡・廃棄disposeする義務
    2. 複製物を破壊する義務
    3. エスクロー・エージェントに対する情報取得権
  4. 準拠法・法廷地の指定条項
  5. 仲裁条項等、ADRによる紛争処理条項
  6. 出訴時期の制限条項、通知できる期間の制限条項
  7. 第三者からの権利侵害、ミスアプロプリエーション、名誉毀損等に基づく権利主張はないとのワランティ(§805(d)(1), cf.§401)についての、免責条項や権利に関する条項
  8. 救済方法の制限、ワランティの免責、変更に関する条項
  9. 会計処理義務、およびそれに基づいて支払いをする義務
  10. 合意によって存続するとされた条項

上記のうち、ABCGは情報契約に特有の問題といえる。

3.終了後の執行

UCITAは、契約終了後にともなう原状回復義務および使用権の消滅(§618(a)(b))の強制方法についても規定をおいており(§618(c)(d))、そこには情報契約特有の問題が多く含まれている。

まず、司法手続によるほか、電子的規制(electronic restraint,§605)による強制が認められていることが特徴的である[3]。次に、司法手続による場合においても、特徴的な規定内容となっている。差止めが認められるほか(§618(d))、引き渡されるべき情報・書類・複製物その他のマテリアルについて、当事者の一方またはofficer of the courtが次の措置を裁判所に求めることができるとされている:

  1. それらの引渡または占有回復
  2. それらを除去することなく使用不能にしたり、それらの使用やそれらについての契約上の権利行使をする能力を奪うこと
  3. それらを破壊したり、アクセスを防止すること
  4. それらを占有・支配する当事者その他の者をして、相手方が指定した、両当事者に合理的に便利な場所で提供すること

これらのうち、AとBは、執行の相手方のシステムへのアクセスをともなうものであり、しかも、裁判所のみならず当事者自らが裁判所の命令を得てそれらの執行を行うことを認めている点で、注目される。

U 日本法の状況と考えられる対応

わが国では、情報契約の期間と終了に関する立法はもとより、判例も見当たらず、学説もほとんど議論していない。唯一まとまった研究としては、夏井高人「プログラム・ライセンス契約の終了」(1988年)[4]がみあたるくらいである。他方、ライセンス契約には、一般的には、賃貸借契約に関する規定が類推適用されると考えるのが通説だと評価されており[5]、そうなると賃貸借の期間と終了に関する規定もライセンス契約に類推適用されることになる。以下、うえでみたUCITAの規定と、 数少ない学説の議論を参照しながら、日本法における対応のありかたの検討をすすめるが、法状況の見通しのきわめて悪い問題領域であることから、新規立法によってある程度まとまった対応をすることが望ましいように思われる。

1.特論:ソフトウェア・ライセンス契約について

まず、行論の便宜上、情報契約のなかでも、ソフトウェア・ライセンス契約の期間と終了について検討しておきたい。というのは、ソフトウェア・ライセンス契約においては、そもそも「期間」なるものを観念できない場合があるからである。UCITA§308(2)(A)に対応する問題である。

(1) ソフトウェア・ライセンスにおける「期間の定め」と「永続性の推定」

多くのソフトウェア・ライセンスは、ライセンシーの支払う対価(ロイヤルティ、ライセンス料)は、使用の期間や回数・頻度といった時間的要素の関数になっていおらず、複製物の「売買」がなされた場合と変わることない(シュリンクラップ契約は、ライセンスとしては成立しておらず、ディーラーとユーザー間のパッケージの売買にすぎないとするのが筆者の立場であるが、その場合にも当然、売買契約の期間は観念できない)。

ところが、実務では、このようなライセンス契約であっても「契約の期間」についての条項が含まれることがある。問題はその解釈である。その「契約の期間」条項がまさしく意図された通りの趣旨であって、たとえば1年間の使用を認め、使用の対価も1年分しか支払われていないというような場合であればそれは尊重されるべき契約条項だということになる。しかし、「契約の期間」条項がおかれた趣旨が明らかでない場合がある。たとえば、北川善太郎教授は、

契約書に契約期間を定めたうえで事前の予告による解約を認める場合があるが、「契約期間を契約であるので定める必要があるという抽象的一般的な考え方から、かかる契約書でも契約期間が設けられているのであろうか。いずれにしても、かかる条項の意味と実益は明らかでない」とする[6]

同様に、雨宮定直弁護士も次のように指摘する。

ユーザー・ライセンス契約について、ソフトを月ごとのロイヤリティで提供するメーカーもあるが、「ソフトウェア業界、特に独立のソフトハウスは、パッケージ化されたものについても、そうでないものについても、期間の長さにこだわらないライセンスを許諾するのが、通常である。 ライセンス契約の条項がライセンシーにより遵守されている限り、無期限のライセンスという立前〔ママ〕が、通常の場合、両当事者が取引上意図するところに最も合致するようにみえる。しかし、ロヤリティ支払済(paid-up)の無期限のライセンスというのは、売買と実質的に変わるところはないという理解から、また、裁判所が契約条項の強制に躊うのではないかという配慮から、20年とか、75年とかいう一応有限とみられる期間が設けられているといわれる。 ライセンシーの立場からみるならば、20年も100年も実質的に変わるところはない。」ライセンシーにとっては、初期にバグ対策されればよいし、そんなに長期にわたって同じソフトを使うことはなく「20年プラス自動更新というのが、無難であろう。」[7](下線、曽野)

これらの指摘があたっているとすれば、新規立法においてはソフトウェア・ライセンス契約は「永続的」であることを示すUCITAのアプローチを採用することが、実務に指針を与えるために、また、ライセンサーによる機会主義的行動を抑止するためにも有益であろう。ただし、UCITAのように、ソースコード・ライセンスを除く必要があるかどうかは疑問である。通常、そのようなライセンスには、真の期間の定めがあると思われるからである。

なお、ライセンス契約が永続的であるという場合、それはライセンサーによる使用許諾と、ライセンシーの許諾の範囲内での使用という範囲にのみ及び、たとえばライセンサーによるサポートやメンテナンス義務は永続的とするわけにはいかないだろう(ライセンサーが積極的行為を永遠に求められるのは不適切)。この部分については期間の定めがあることが多いであろうが、それはライセンス契約の本体とは独立したものであって、通常の役務提供契約の期間や終了に関する扱いと同じになろう。なお、メンテナンス契約等は別個独立の契約であることを新規立法で示すことは(cf. UCITA§612)、この点で重要かもしれない。

(2) 著作権の保護期間経過後の「永続性」の扱い

もっとも、このような「永続性」の考え方については、ソフトウェアの著作権が消滅したあとまでも契約が存続するのかという問題がある。現実には、50年もの長期にわたって利用されるソフトウェアは考えにくいので、これは理論上の問題にとどまるともいえるが、基本的な議論の方向性としては、次のように2つの場合[8]を分けて考えるべきであろう。

(a) 著作権法上、とくに禁止されていない利用を禁止するタイプのライセンス条項(議論の余地はあるが、たとえばリヴァース・エンジニアリング禁止条項をその例に挙げることができよう)については、そもそも保護期間内においてもその有効性が問題となるが[9]、仮にそれが有効だとすると、著作権の保護期間経過は、新たに著作権で保護されていない50年経過後の保護を、契約で著作者に与えることになる。これは、まさしく契約による著作権の拡張を認めるかという、契約による著作権のオーバーライド問題の一種である。したがって、その処理枠組みで処理するか、新規立法でより具体的な規定をおく必要がある。

(b) 他方、著作権法上、禁止されている利用を許諾するタイプのライセンス条項(10個のハードディスクへの複製を認める場合など)は、保護期間経過後については対価的関係が成り立たないので、永続性といっても保護期間が限度だと考えるべきであろう。新規立法では、そのことも明らかにすることが望ましい。

(3) 小括

以上を要するに、ソフトウェアライセンスに「期間の定めがなく」かつ「ライセンス料の支払いが時間的要素にかからしめられていない」場合には(UCITA302(2)(A)は対価が前払い・引き換え払い式の場合という規定になっているが、支払いの時期は本質的な問題ではなく、不適切ではないか。 期間と対価に関数関係があるかないかが重要である。)そのライセンスは「永続的」であることをデフォルト・ルールとして(任意規定として)明示すべきである。(情報ライセンス一般に永続性の推定を及ぼしたうえで、期間を契約で定めさせる手もあるが、前述のとおり、期間の定めには真の期間条項と、形だけの期間条項があることから、かえって混乱を招くだけであろう)。 いずれにせよ、雨宮論文が指摘するような、形式にすぎない期間の定めがある場合には、これは文言どおりの効果を与えるべきではない。そのことを立法で明示することが難しければ、この問題は裁判所による当事者の意思解釈に委ねざるを得ないが(例文解釈)、問題の所在は何らかの方法で周知徹底しなければならない。

なお、その「永続性」を著作権の保護期間経過後にまで及ぼすかどうかについては検討を要する。 以下では、ソフトウェア・ライセンス契約のうち、期間の定めがなく、ライセンス料の支払いが時間的要素にかからしめられていない契約は、検討の対象からはずす。

2.期間と終了事由

ライセンス料が時間の関数になっている契約については、、ライセンス契約には「賃貸借」規定が類推適用されるという考え方が主流だと思われる。これは、所有権/著作権を譲渡するのではなく、目的物(有体物/無体物)の「使用収益」を認める点が共通するからである。他方、ライセンス契約では、賃貸借と違って目的物に排他性がないから、ライセンサーは複数ライセンシーと併存的な契約をすることが可能で、またライセンサーが利用するために返還を求めるが必要ない(占有を基準にした考慮が不要)という相違点がある。

なお、以上は有償のライセンス契約を念頭においているわけだが、無償のライセンス契約であれば「使用貸借」規定の類推適用されるのであろうか。フリーソフトウェアに関連して問題となる(フリーソフトウェアとは、複製・改変・頒布がフリーなソフトウェアであるが、無償供与されることが多い[10])。これについては、とくに期間の定めのない使用貸借の終了を容易に認める民法597条2,3項の類推適用によって、ライセンシーが不測の損害を被る可能性がある。本格的な検討は今後の課題としたいが、この問題を避けるためには、次の2つの方法が考えられよう。

第1は、無償のライセンスについては、ライセンス料(0円)と期間が関数関係にないので、永続性の推定を受けるとする考え方である。

第2は、より抜本的な方法であるが[11]、PDSやフリーソフトの使用については、契約構成を放棄することが考えられる。これらのソフトウェアでは、著作者が一方的に著作権の全部または一部を放棄する旨の表示をするのが通常である。 それが、本来的に著作権の放棄として解釈できるのかどうかはともかく、少なくとも、その表示は、使用・改変・複製等が認められるとの信頼をその受け手に生じさせるのであり、それにしたがった使用等をした者に対して、著作権者が著作権侵害に基づく請求をしても、その請求は信義則(矛盾行為の禁止)の抗弁で封ぜられると構成すればすむはずである(むしろ、意思表示の合致のない場面で契約構成をとることの方に無理があるように思われる)。 もちろん、明示的に無償契約が締結された場合には別論である。

以下では、もっぱらライセンス料と期間が関数関係にある有償契約に議論を限定し、期間の定めがある場合と、期間の定めがない場合に分けて検討する。

A.期間の定めのある情報契約(例、期間貸しソフト、アクセス契約)

期間の定めのある情報契約としては、期間貸しのソフトウェアや、アクセス契約が考えられる。これらについて、契約で定められた期間の経過によって契約が(一応)終了することは疑いないが、第1の問題は、更新が認められるか否かである。

(1) 更新の問題

継続的な契約終了時の更新について、民法には次の3つのパターンの規定がある。

  1. 更新否定=履行遅滞型(消費貸借・使用貸借(民597条1項)など)
    これが原則である。期間経過によって契約は更新されることなく終了し、たとえば消費借主が目的物を返還しなければそれは履行遅滞となる。
  2. 黙示更新型(賃貸借(民619条)、・雇用(民629条))
    期間経過後も、異議なく使用や就労を継続される場合には、契約は黙示に更新されたとなる。貸主や雇用者から異議が述べられれば契約は終了する。
  3. 法定更新型 賃貸借(借地借家法)
    期間経過後も、正当事由がないかぎり、更新を拒めない。

Bは、不動産賃借人保護という社会法的考慮に基づく制度であり、情報契約においてはそれに相当する要請はなさそうであるから、これは考慮外とする。そうすると@またはAのいずれかということになるが、@は有体物の排他性を前提とした規定ゆえに、デフォルト・ルールとしてはAでよいように思われる[12]

これに対しては、あえて期間の定めがおかれているのであれば、その期間の経過によって契約が終了するのが筋だとの見解もありうる。しかし、期間の定めをおいた意味が曖昧な場合が多いこと(前述)、ライセンサーとしても優良なライセンシーには継続使用をしてもらった方が利益になること(継続使用によって他の相手と契約をすることが妨げられるわけでもない)、更新を拒絶したいライセンサーには「電子的制御」という簡便な手段があることを考慮すれば、あえて黙示更新を否定することもないと考える。

なお、期間内の解約告知(Cf.民618条)が認められるかという問題もあるが、これについてはB.(2)で検討する。

(2) 期間の上限規制

賃貸借に関する民法604条1項は、契約期間に20年という上限を設けている。これをライセンス契約にも類推適用すべきだとの見解がある。すなわち、夏井教授は(期間の定めのない契約について述べる箇所でではあるが)、

「ライセンス契約中に利用期間の定めがないときは,期間の定めのない契約となる。この場合の利用期間の上限は20年になると解するのが妥当である(民法604条1項)。もっとも,現在の技術革新等の速度を考慮すると,20年も経過してない独立の経済的価値を維持するようなプログラムが存在し得るとは到底考えられない。」[13]

とする。しかし、民法604条は、賃貸人(所有者)と違って賃借人は土地改良をしないから、長期にわたる賃貸借契約は社会経済的に不適切だという趣旨にでた規定である。これは、ライセンス契約にはあてはまらない趣旨であり、上限規制は不要だと考える。また、夏井教授も指摘するように、ソフトウェア・ライセンスについては、この規定が現実に問題となることはないと思われるが、アクセス契約に関しては20年よりも長期にわたるものも考えられよう。たとえば、LEXISやWESTLAWはサービス開始からすでに20年が経過している(ともに1970年代から)。

なお、UCITAには契約期間の上限規制はない。

B. 期間の定めのない情報契約(例、アクセス契約)

ライセンス料と期間が関数関係にある期間の定めのない契約としては、期間を定めないアクセス契約などが考えられる。これにかかわる問題点を検討する。

(1) 期間の上限規制

これについては、期間の定めのある情報契約について述べたことが等しくあてはまる。

(2) 解約告知

次に、契約終了の方法についてであるが、民法は解約告知(終了の通知)を必要としたうえで、突然の終了によって当事者が被る損害を調整するために、次の3つのパターンの規定をおいている。

  1. 相当期間型 消費貸主591T、賃貸借617T、雇用627[ただし労基法20、解雇制限法理→行使制限]
  2. 即時解約型 消費借主591U、使用貸主597V、委任651(やむをえない事由があるとき)、寄託662、663U
  3. 損害賠償型 委任651(やむをえない事由なき場合)
(a)ライセンサーからの解約告知の場合

ライセンシーからの解約告知についてはA(即時解約型)でも問題はないかもしれないが、ライセンサーからの解約告知にAをあてはめると、ライセンシーに酷であろう。使用貸主、寄託における即時解約は、いずれも無償契約における目的物の返還請求にかかわる規定として合理性が認められるものの、とくに有償契約にそのままあてはめることには無理がある。 @(相当期間型)を基礎としながら、やむをえない事由がある場合にのみ即時解約を認めるのが妥当な線であろう(やむを得ない事由がない場合には即時の終了は認められず、それにもかかわらず情報提供を即時に打ち切った場合には、損害賠償が問題となる。B(損害賠償型)は、契約終了を認めたうえでの損害賠償であるから、ここで述べた考え方は少なくとも形式的にはBとは異なる)。 UCITAも、期間の定めのない契約の終了には合理的な通知が必要だとしながら、それは事情によっては必ずしも事前の通知に限らないとしている(§617(a))。もっとも、UCITAが、アクセス契約については、通知もなく終了させることを認めていること(§617(b)―ただし、同項第2文)の妥当性には疑問が残る。

わが国の学説には、次のような指摘がみられる。

「期間の定めのない契約である以上,ライセンス権者の解約告知があれば,その日から1日の経過によって当該ライセンス契約が終了することになる(民法617条1項3号)。しかし,これではユーザーの保護に十分ではない。解約に際してライセンス権者に一定の精算義務を負わせるような立法及び解釈論が必要ではないかと思われる。」(夏井高人「プログラム・ライセンス契約とその終了時期」より)

民法617条の類推適用によって、解約告知から1日の経過でライセンス契約が終了することになるかどうかはともかく、突然の終了からユーザーを保護するための立法措置が必要であろう。猶予期間が必要だとして、問題は、どの程度の猶予期間が適切であるかということである。裁判所の判断に委ねる手法もあろうが、一応の目安としては、UCITAが電子的自力救済について定める15日間の猶予(§816)が参考になろう。 ただし、これは、ユーザーの契約違反に基づく自力救済の際に認められる猶予期間であるから、契約違反の介在しない単なる契約終了の場合にはさらに余裕のある猶予期間を定めることを考えるべきである。

(b) ライセンシー(ユーザー)からの解約告知

これについては、とくに猶予期間を認めなくても、ライセンサーに不利益が生ずることはないように思われるが(とくにLEXISのようなアクセス契約の場合)、この点についてはいま少し現実の契約類型の調査が必要である。なお、UCITAはライセンシーからの終了についても、ライセンサーによる終了と同じ扱いをしている。

C. 当事者の死亡・破産

UCITAには規定がないものの、日本民法は、契約当事者の「死亡」や「破産」を終了事由とすることがある。これをライセンス契約においてどのように考えるべきかであろうか。

(1) 死亡

ソフトウェア・ライセンスにおける当事者の死亡に関しては、次のような学説がある。

「無償のライセンス契約は,使用貸借の一種と考えるべきであるから,ユーザーの死亡により契約が終了することが明らかである(民法599条)。おそらく,無償のPDSの場合も同様であって,当該PDSの著作権が放棄されていない限り,ダウンロードしたユーザーの死亡により,当該ダウンロードにかかるプログラムの利用権は消滅すると解する。ただ,PDSであること自体から当然に一般承継を容認するものであるという見解を採用するとすれば,利用権が当然消滅せず,遺産としての分割という問題が発生し得る。

有償のライセンス契約においては,ユーザーの死亡という事実が直ちに契約終了原因となることはない。しかしながら,当該契約が特定のユーザーに限定してプログラムの利用権を与える趣旨のものである場合(いわゆるパーソナル・ライセンスの場合)には,前記無償契約と同様の問題が発生することになる。即ち,かかる限定条項は,直ちに当該利用権の譲渡禁止の効果をもたらすものであるし,通常は,一般承継の禁止の趣旨も含むものである。従って,かかる契約が締結された場合には,ユーザーの死亡によって契約は終了すると解する以外にない。実際,パーソナル・ライセンス契約におけるライセンス料金は,比較的廉価に押さえられており,かかる終了を認めるのがむしろ合理的であると考えられる。」[14](夏井高人「プログラム・ライセンス契約とその終了時期」より)

PDSやフリーソフトの使用は、必ずしも契約に基づかない場合が多いと考えるべきことはすでに指摘したとおりであり、その場合には当事者の死亡による終了は、当然、問題とならない。他方、明示的にPDS等の無償ライセンス契約が締結された場合であっても、無償性ゆえにただちに契約が終了するとすべきかどうかは疑問である(ライセンシーが経済的価値のある改変を施していた場合、それは相続の対象となってよいのではなかろうか)。むしろ、死亡による終了が認められるか否かのメルクマールは、その契約が人的要素の強いものであるか否かであるべきように思われる。

他方、有償のライセンスにおけるライセンシーの死亡の場合には、夏井説の指摘するとおり契約上の権利ないし地位の譲渡可能性の有無によって判断されるべきであろう。また、ライセンサー死亡の場合には、死亡によって、ソフトウェアのサポートの義務が果たせなくなる場合などが考えられる(アクセス契約においては、データベースの更新ができなくなることが考えられる)。このような場合には、契約は終了するといわざるを得ないと思われる(ここでも人的要素が強いことがメルクマールとなっている)。

いずれにしても、この問題は、立法的対応がなされることが望ましい。

(2) 破産
A ライセンシー破産の場合

ライセンシーが破産宣告を受けた場合、破産法59条に基づく破産管財人による解除(会社更生法103条でも同じことであるが、省略する)と、民法621条の類推適用に基づくライセンサーによる解除が問題となりうる。その他、倒産解除特約も問題となる[15]

(a) ライセンサーによる解除をめぐる問題点

賃借人の破産における賃貸人の解除権を定める民法621条がライセンス契約に類推適用されるとすれば、ライセンシーが破産宣告を受けた場合、ライセンサーが解除権を取得することになる。しかし、これには次のような問題があるように思われる。

(i)「永続的」ライセンスの解除について

民法621条の趣旨は、破産宣告後の賃借人の賃料支払を中心とする履行に関して賃貸人が感じる不安を解消することにある。とすれば、ライセンシーに将来の対価支払義務が残っている場合にはじめて、類推適用の基礎があることになる。したがって、「永続的」ライセンスにはこの規定の適用がないというべきである。(このことは、永続的ライセンスにおいて、ライセンシーがライセンス料を未払いの間に、破産宣告を受けた場合でも同じである。これはライセンサーがライセンシーに信用供与をしているにすぎず、ライセンサーは一般債権者として、ライセンス料支払請求権は破産債権になると考えるべきであろう。先取特権もない。)

(ii)「非永続的」ライセンスの解除について

非永続的ライセンスにおいて、ライセンシーが破産宣告を受けた場合も、ライセンサーからの解除権行使(民621)を認めるべきではない。ライセンサーに解除権が認められるのは将来の対価支払への不安のためであるが、ライセンス料債権は財団債権となるから、それほど問題ではない(支払義務が生じるのは破産管財人が破産法59条に基づいて「履行」を選択した場合だけであり、その場合には、47条7号が適用になる)。 なお、破産管財人が「解除」を選択することはあまりないであろう。ライセンス契約上の地位移転禁止特約がなされるのが通常であろうから(デフォルト・ルールとしても地位移転禁止?)[16]、破産財団にとってはライセンス契約の価値は、それを存続させる場合以外にはないからである。

(iii)破産特約に基づく解除について

学説には、ライセンス契約に限らず一般的に、破産特約の有効性に否定的なものが多い[17]。これに対して、ライセンス契約においては、倒産処理の混乱状況での秘密情報等の漏洩防止の必要から合理的だと評価されることがある[18]。しかし、少なくとも、マスマーケット・ライセンスにおいては、破産特約の合理性を認めることは困難であろう。いずれにしても、破産特約の有効性については、議論が分かれているので[19]、立法による明確化を図るべきかもしれない。

(b) ライセンシー(破産管財人)による解除をめぐる問題

ライセンシーが解除を選択する場合はほとんどないであろうことは、うえで述べた。仮に、破産管財人が解除を選択した場合、破産法59条ではライセンサーからの損害賠償請求権(破産債権)が認められるのに対して、民法621条ではそれが認められない。損害賠償請求を認めない理由はないので(しかも、破産債権にすぎない)、民法621条の適用を排除すべきである。

(c)小括

ライセンス契約に民法621条の類推適用がないことを明確化すべきである。また、破産特約についても学説が分かれているため新規立法で規定が必要かと思われる。

B.ライセンサー破産の場合

ライセンサーが破産宣告を受けた場合には、破産法59条に基づくライセンサーの破産管財人による解除のみが問題となる。破産管財人が解除を選択した場合、何の責任もないライセンシーはライセンスされた情報を利用できなくなり、場合によっては事業継続が困難になるなど、多大な損害をこうむることになる。できるだけ、同条の適用は排除すべきである。

(i)「非永続的」ライセンス

非永続的なライセンス契約が、双方未履行状態であることは否定できない。それでもなお、学説には、不動産賃貸借における賃貸人破産の場合の59条適用の是非に関する議論を参考に、ライセンサー破産の場合にも59条の適用を否定する主張がみられる。@不動産賃貸借における賃貸人破産の場合、その不動産賃借権が対抗力を備えていれば、59条の適用を排除するという有力説を前提として、ライセンシーの権利が対抗力ある場合(専用実施権、登録された通常実施権)には解除権行使を認めないとするものもある[20]。 しかし、これでは、情報ライセンス契約ではライセンシーの保護にならない[21]。Aむしろ、不動産賃貸借ケースにおける「通説」は、賃貸人破産の場合には59条の適用が排除されるとするのであるから、それを前提とすれば、ライセンサー破産の場合にも59条の全面排除を主張しやすい。しかし、いずれにしても、確実な議論ではないので、立法的措置が望ましい。

(ii)「永続的」ライセンス

破産法59条は、当事者双方に未履行債務が残っていることを要件とするが、学説では、永続的ライセンスはこの要件を満たしていないと考えるべきことが主張されている。

  • ライセンサーの義務の完了:田淵説は、ライセンサーの義務は、実施権の設定で完了しているとする[22]。魅力的な考え方であるが、賃貸借契約では、賃貸人は使用収益させる義務を負うとされるのとバランスが悪く、絶対的説得力をもった議論ではない。(なお、田淵説は永続的ライセンスのみならず、非永続的ライセンスにも射程を及ぼすものである。)
  • ライセンシーの義務の完了:ライセンス料が既払いの場合には、ライセンシーは既履行であるといえよう。通常のマスマーケット・ライセンスはこれで59条の適用を排除することができるように思われる[23]。ただし、ライセンシーには、契約に従った使用をする義務が残っているともいえ、これが未履行債務としてみられる可能性もある。だとすれば、何らかの立法的措置が必要かもしれない。

他方、永続的ライセンスで、ライセンス料未払いの場合は、59条の適用排除は難しいかもしれない[24]。(未払いの永続的ライセンスで、ライセンシー破産の場合は、民法621条の適用は受けないと述べたことと一見矛盾するが、これでよい。621条の類推適用がないのは、破産当事者の相手方が破産当事者による将来の履行に不安を感じないからであるが、59条の適用の有無は、将来の履行不安にかかわりなく、破産財団の充実の観点からなされるもので、観点が違うからである。)

(iii) 立法のモデル

上記の立法的措置は、現在の倒産法改正作業で取り入れられる可能性があるが[25]、それが実現しなかった場合には情報契約法で対応すべきである。その際には、アメリカ連邦破産法(1988年改正)101条[26]が参考になろう。なお、本稿では十分に検討できなかったが、学説には(永続ライセンス・非永続ライセンスを区別することなく)ライセンス契約は双方未履行であるから原則として破産法59条が適用になるとの前提にたったうえで、個別事案ごとの利益衡量によって、59条の適用の有無を決すべきだとの見解[27]もあることを指摘しておく。

3.終了の効果

(1) 情報契約終了

情報契約終了の効果については、とくに日本法における議論はみられないが、それが非遡及効を有することは、とくに立法的措置がなくても異論なく導かれる結論であると思われる(UCITA§§618(b), 616(a)に相当)。また、付随する有体物(マニュアル等)の返還義務についても異論なく導かれるであろう(UCITA§618(a)に相当)。

問題は、すでにダウンロード(ディスク、脳などに)した情報、使用した情報(の価値)の扱いである。プログラムに関しては、著作権法47条の2U、49条TCの「複製物保存禁止義務」によって、記憶媒体からの消去されるべきことになる。それ以外の情報については、保存禁止義務ないし返還義務はないと考えるべきことになろう(ダイヤルQ2をめぐる一連の裁判例でも、すでに入手した情報ないしその価値の返還は問題とされていないことが参考となろう)。この結論でよいのであれば、とくに立法的措置はなくても問題ないように思われるが、確認規定をおいた方がより明確である。

(2) 残存義務

情報契約に特有の残存義務については、UCITA§616(b)(2),(3),(4),(8)を参考に考える。まず、秘密保持義務や競業避止義務の残存と、複製物破壊義務の残存、情報・資料等を相手方に引渡・廃棄する義務の残存については、日本法でも異論がないと思われる(もっとも、最後のものは契約の履行としてでなく、終了の効果として新たに義務が発生すると構成することもできよう)。

他方、使用条件の存続と、第三者からの権利行使についての免責条項の存続については、それを肯定する結論が導かれるであろうが、確認的な意味で新規立法に規定を置いたほうがよいかもしれない。

また、エスクロー・エージェントに対する情報取得権については、立法的対応が必要であろう。

4.終了後の執行

情報契約終了後の執行についても、議論がないので、UCITAを参考に考える。この場合、執行の相手方のシステムへの侵襲をともなう、情報の破壊やアクセス防止、情報を使用不能にする措置などについては、代替執行によることになろうが、具体的な執行内容の特定方法等について、困難が予想される。情報契約に関する新規立法で扱うよりも、民事執行法で扱う方が法体系上は整合的であるように思われるが、検討が必要である論点であることだけを指摘しておきたい。

V 結論

以上の検討の主要な点を箇条書きであらわせば次のようになる。なお、以下には無償のライセンス(主にフリーソフトを念頭においている)は、考慮の対象としていない。

  1. 期間の定めがなく、ライセンス料と期間が関数関係にないソフトウェア・ライセンスにつき「永続性の推定」を規定すべき;その際、著作権の保護期間経過後にまで「永続」するかどうかについては特に考慮すべき;期間の定めがあっても例文解釈をすべき場合があることを何らかの方法で確認すべき。
  2. ライセンス料と期間が関数関係にある、期間の定めのある契約について、黙示更新型の規定をおくべき;なお、契約期間の上限規制は不要である。
  3. ライセンス料と期間が関数関係にある、期間の定めのない契約について、解約告知の方法について相当期間型の規定をおくべき;ただし、ライセンシーからの解約告知については、相当期間型が本当に必要か、さらに検討する必要がある。
  4. 当事者の破産・死亡が終了事由か否か、立法的に明確化すべき。
  5. 終了の非遡及効およびマニュアル等の返還義務については確認規定程度でよいが、情報の保存禁止等については、立法的措置をとることが望ましいかもしれない(著作権法で「複製物保存禁止義務」あるものについてはとくに規定必要ないが、それ以外について利用できることを確認すべきである)。
  6. 執行の方法については、現行制度で対応できるかどうか、検討が必要である。

情報契約の期間と終了という論点は、従来から議論の蓄積のないため不明確な点の多い分野である。情報契約に適用あるデフォルト・ルール策定作業による法ルールの明確化が望まれる。

(*1) とくに断らないかぎり、本稿は2000年2月9日付けの草案および1999年10月15日付けのOfficial Comments(案)に依拠する。

(*2) これは616(a)の文末におかれるべき規定の編集ミスかもしれない。Cf. comment 4 to§616, §802(c)(2)(A)&(B).

(*3) 電子的規制については、本報告書の山田憲一委員執筆部分を参照されたい。

(*4) 夏井高人「プログラム・ライセンス契約の終了」(1988年10月30日脱稿との表示がある)。

(*5) 夏井・前掲「プログラム・ライセンス契約の終了」、金子宏直「技術ライセンス契約の倒産手続における処理(1)(2・完)」民商106巻1号83頁、2号208頁(1992)参照。

(*6) 北川善太郎『技術革新と知的財産権』(有斐閣、1992〔初出、1989年〕)70頁。

(*7) 雨宮定直「ソフトウェア・ライセンス契約に関する一考察(4)」JCAジャーナル1989年1月号22頁。

(*8) 曽野裕夫「情報契約における自由と公序」アメリカ法[1999-2]掲載予定参照。

(*9) 曽野・前掲「情報契約における自由と公序」のほか、本報告書の小泉直樹委員執筆部分および小泉直樹「デジタル化と情報契約―電子契約、技術的手段、著作権―」知財研フォーラム40号50頁(2000年)、曽野裕夫「情報契約と知的財産権」ジュリスト1176号掲載予定も参照。

(*10) 加賀山茂「フリーソフトウェアの有料販売行為と不正競業」小野昌延先生還暦記念『判例不正競業法』(発明協会、1992)。なお、夏井高人「PDSをめぐる法律問題(上)(下)」判例タイムズ681号18頁、682号27頁(1989)も参照。

(*11) 曽野裕夫「情報契約と知的財産権」ジュリスト1176号掲載予定参照。

(*12) これは夏井・前掲「プログラム・ライセンス契約の終了」と同旨である。「ライセンス契約において利用期間が約定されている場合,その期間の満了により契約が終了する。この場合において,契約の自動更新が約定されていれば,それに従って更新がなされることになるが,かかる更新条項がなくても,期間満了に伴う黙示の更新が推定されると解するべきである(民法619条1項)。 しかし,コンピュータ・プログラムに関しては,借地法4条1項や借家法1条の2のような制度が存在しないので,当該ライセンス契約のライセンス権者は,何ら正当事由がなくとも,契約の更新拒絶をなし得ることになる。」 [13]夏井・前掲「プログラム・ライセンス契約の終了」。

(*13) 夏井・前掲「プログラム・ライセンス契約の終了」。

(*14) 引用部分に続いて、「ところで,死亡が終了原因となるようなライセンス契約が締結された場合,その契約によって取得されたプログラム利用権は,非譲渡性資産であると考えられる。従って,その税務における取扱には慎重な配慮を要する。/また,このようなライセンス契約では,ユーザーの死亡が契約終了原因となる以上,当該プログラムの利用権が相続財産に含まれることもあり得ないと考えられる」とされている。

(*15) また、譲渡可能性をめぐる問題もある。これについては、本報告書の高橋義暁委員担当部分を参照されたい。ここでは次のような指摘があることだけを紹介しておきたい。「一般承継も特定承継もないプログラム利用権は,破産財団となる資格を有しない。しかも,実際には,破産宣告によって当該ライセンス契約が終了することが多いだろう。なお,破産により当然終了しない類型に属するライセンス契約であっても,ユーザーが破産者であるときは,その破産管財人が当該ライセンス契約の解約権を有することは当然である(民法621条)。 /これに対し,契約ユーザーの死亡・破産が終了原因とならず,かつ,譲渡禁止特約がない場合でも,当該契約に基づくユーザーの権利や債権が不可分であるときは,特定動産と同じ処理が必要になる。従って,破産手続でも,売却と換価による破産財団への組込の場合等において,特殊な考慮が必要になる。また,利用権の相続に関しても,通常の相続理論と整合しない部分がないかどうか,慎重な検討が必要であると思われる。」(夏井高人「プログラム・ライセンス契約の終了」より)

(*16) この問題については、本報告書の高橋義暁委員担当部分を参照されたい。

(*17) 伊藤眞『破産法(全訂3版)』(有斐閣、2000年)26頁参照。

(*18) 金子宏直「技術ライセンス契約の倒産手続における処理(1)(2・完)」民商106巻1号83頁、2号208頁(1992)、84頁、234頁参照。

(*19) 金子・前掲「技術ライセンス契約の倒産手続における処理」84頁の学説の整理参照。

(*20) 金子・前掲「技術ライセンス契約の倒産手続における処理」、田淵智久「『ライセンス契約』におけるライセンサー倒産に対する対処(上・下)―そのA・理論上の問題」NBL540号6頁、542号32頁(1994)、伊藤・前掲『破産法』など参照。

(*21) 金子・前掲「技術ライセンス契約の倒産手続における処理」233頁、田淵・前掲「『ライセンス契約』におけるライセンサー倒産に対する対処」42頁は、そのことを容認する。なお、その他の反対の論拠については、国谷史朗「倒産とライセンス契約の保護―双務契約解除の基準―」北川善太郎編『知的財産法制』(東京布井出版、1996)288頁参照。

(*22) 田渕・前掲「『ライセンス契約』におけるライセンサー倒産に対する対処」41頁。

(*23) 金子・前掲「技術ライセンス契約の倒産手続における処理」231頁。

(*24) 金子・前掲「技術ライセンス契約の倒産手続における処理」は59条適用でかまわないとする。

(*25) 徳田和幸「新種契約の倒産法への取込み―ライセンス・フランチャイズ契約、デリバティブ等」ジュリスト1111号112頁(1997年)、町村泰孝「法律行為に関する倒産手続の効力」ジュリスト1134号37頁(1998年)参照。

(*26) これについては、金子・前掲「技術ライセンス契約の倒産手続における処理」などを参照。

(*27) 国谷・前掲「倒産とライセンス契約の保護」290頁以下。その見解は、さらに、契約の部分解除や修正権を管財人に認めることも主張する。