研究活動の記録

2005(平成17)年度の活動の概要

(1)研究分担者各自による<法のクレオール>の予備的分析と関連する資料収集

 価値的および行為的次元に関しては、自由や平等などの価値の規範的展開過程の検討(長谷川)と権利観念が法的コミュニケーションによって伝達され理解される場合の心理的条件の検討(松村)を行った。また、思想=制度的次元に関しては、東アジアについては昭和中期の法思想の変化における伝統的秩序観と民主的法観念との緊張(今井)や現代東アジアにおける司法改革のあり方(鈴木)を、西ヨーロッパについては中世ドイツ都市刑事法の変化のあり方(田口)や中世におけるローマ法の変遷のあり方(水野)及びEUにおける人権秩序の形成過程の分析(中村)を、北アメリカについては米国憲法裁判における国際法源の援用のあり方(会澤)や文化的マイノリティの法主体像の変化のあり方(尾崎)を、そして日本については近世日本における裁判物と呼ばれる物語における法の受容様式(桑原)やプライバシーをめぐる近代民法と文学動向との関わり(林田)といった問題に焦点を当てつつ、法主体の文化的融合活動に関する文献資料の収集整理に努めた(関連業績一覧)。

(2)共同講義の展開

 北大法学研究科において、平成18年度後期大学院共同講義「比較法文化論」を各分担者が交代で受け持ち、各専門領域と<法のクレオール>との関係という観点から比較法文化論の諸問題の整理に努め、学生との質疑応答から感触を探った。(講義レジュメ

(3)プロジェクト研究会等の開催

  • 2005年10月15日「<法のクレオール>へのアプローチ」:長谷川晃・中村民雄
  • 2006年 2月18日「価値多元主義とは何か」:濱真一郎氏[同志社大学・法哲学]
  • 2006年 2月25日「<クレオール主義>再考」:今福龍太氏[東京外語大学・文化人類学]
  • 2006年 3月 1日「法が根づくとき」:樫村志郎氏[神戸大学・法社会学]

また、研究分担者による協同検討会を1回行って(2006年3月31日)、相互の研究関心の精錬に努めた。

(4)ホームページの立ち上げ

活動概要等とその他共通図書データ等から成るホームページを立ち上げて、アーカイブ構築の準備を始めた。

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2006(平成18)年度の活動の概要

(1)文献資料収集整理等の継続と<法のクレオール>と主体的法形成の諸条件の析出

 前年度から進めてきた分担者各自の専門領域に関する文献資料の収集整理や理論的・実証的分析などを継続すると共に、それらを踏まえながら、価値的・行為的・思想=制度的な各問題次元において、特に<法のクレオール>と主体的法形成の諸条件を析出することを試みた。
 まず価値的および行為的次元に関しては、価値や規範の融合化をめぐる<法のクレオール>の概念の発見的意義の明確化とそこでの主体的な秩序形成の諸条件(長谷川)や、日本とインドネシアとの比較統計調査を素材としながら社会的コミュニケーションを通じた権利観念の相異における法意識論上の諸条件(松村)が分析された。これらの理論的分析は、構成的価値解釈を軸とする主体的な法創造営為の有り様と文化的背景の下で形づくられる人々の法意識形成との並行的過程を捉えるうえで意義があった。また、思想=制度的次元に関しては、東アジアについては中国と日本のコミュニティ構築を中心とする市民的法秩序形成の諸条件(今井)や現代中国の法制度における連続の論理と独自の権利観念形成の諸条件(鈴木)の解明を試み、西ヨーロッパについては中世ドイツ都市における法曹の動向や学識法の動態と解釈者革命に関わる諸条件(田口・水野)やEU法形成における多面的な法主体の役割とその相互作用における諸条件(中村)の解明を試み、北アメリカについては現代のマイノリティ法理論における法主体の成立とその変革動向における言語論的方略の諸条件(尾崎)や連邦最高裁の憲法解釈理論における国際法的法源の摂取と援用の諸条件(会澤)の解明を試み、そして日本についてはプライバシー観念成立時の近代民衆意識の転換と法制度整備との緊張関係に見られる諸条件(林田)や江戸中期以降の「裁判物」における法観念や法意識の表現に見られる意味形成的な諸条件(桑原)の解明などを試みた。これらの実証的解明は、価値構成的な社会的コミュニケーションを介する主体的法形成の様々な歴史的問題場面での現象形態として、異質な文化的要素を取り込みながら法体系が主体的に統合されてゆく過程を検証するものとなっている。
 これらの作業を通じて主体的な法形成過程の多次元的相同性が確認され、<法のクレオール>の中間統合モデル構築への一歩となった。(関連業績一覧

(2)海外インタビューおよび資料収集・調査等

海外研究アドバイザー等とのインタビューその他調査を遂行し、研究ネットワーク作りをさらに進めると共に、報告資料を作成して、今後の備えとした。インタビュー対象者は、ピエール・ヴィドメァー(スイス・スイス比較法研究所元所長)、パトリック・グレン(カナダ・マッギル大学教授)(いずれも長谷川)、アズハール(インドネシア・ブルネイ大学研究員)(松村)、倪正茂(中国・上海政法学院教授)(今井)、イメルダ・マー(アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ教授)(中村)、K・ネーゼル=フォン・シュトリューク(ドイツ・フライブルク大学教授)(田口)の各氏であり、他にコンタクトして意見交換を行ったのは、アンドリュー・ハルピン(イギリス・スウォンジー大学教授)(長谷川)、ディミトリ・オーベルベケおよびイェロン・マーシャック(ベルギー・カトリック・ルーバン大学助教授)(尾崎)の各氏であった。その他に、鈴木、水野、桑原がそれぞれ中国・台湾、ドイツ、イギリスにおいて資料収集調査を行った。

(3)大学院共同講義の継続的展開

大学院共同講義「比較法文化論」を継続開講し、問題関心の涵養と研究へのフィードバックを図った。 (講義レジュメ

(4)プロジェクト研究会および協同検討会の開催

  • 2006年10月26日「法・権力・権利」:アントン・シュッツ氏(英国ロンドン大学講師・法理論)・西谷修氏(東京外国語大学教授・現代思想)
  • 2006年12月28日「比較法文化と司法改革」:ディミトリ・オーベルベケ氏およびイェロン・マーシャック氏(共にベルギー・カトリック・ルーバン大学助教授・法社会学)
  • 2007年 1月10日「<法のクレオール>の概念」:長谷川晃
  • 2007年 2月 9日 「法整備支援を通じたグローバルな法形成の一断面:松尾弘氏(慶應義塾大学教授・「法と開発」論)
  • 2007年 3月17日「受託者破産時における信託財産の処遇」:加毛明氏(東京大学助教授・比較民法)
  • 2007年 3月26日「アジアにおける思想と法の連鎖をめぐって」:島田弦氏(名古屋外国語大学講師・東南アジア法)・山室信一氏(京大人文科学研究所教授・アジア思想史)
  • 2007年3月28日 「メロヴィング朝の国王文書を分類し直す」:加納修氏(東京大学講師・西洋中世史)

また、研究分担者による協同検討会を3回開き(2006年8月30日、12月3日、および2007年2月9日)問題意識のさらなる整理や共有に努めた。

(5)ホームページの整備・更新とアーカイブの構築準備

前年度に引き続いてホームページの整備・更新を図り、共通図書データを拡充した。

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2007(平成19)年度の活動の概要

(1)<法のクレオール>の中間モデルの構築に向けた多次元的分析の深化

 今年度は<法のクレオール>の中間モデル構築に向けて、多次元的分析を深化させ、文化のクレオールと主体的法形成における各問題次元間の相互関連を探った。
 価値的および行為的次元においては、法体系の拮抗における価値衝突のパタンや権利概念に関わるヨーロッパ語系と東南アジア語系との相違に係る検討を行った(長谷川および松村)。また、思想=制度的次元においては、東アジアにおける市民的法治観念に基づく司法的法形成の可能性や現代中国における所有権概念の受容と中国的変容の位相などの検討(今井および鈴木)、中世後期ドイツの大学史研究による学識法曹の活動の特色や西洋中世普通法と個別法の相互関係に係る封建法の諸例、EU法と国際法の二層にわたる法の相互浸透への法主体の関わり方などの検討(田口、水野、および中村)、アメリカ・モデルによる法制度改革の社会的文脈やアメリカの憲法解釈理論におけるトランスナショナルなソースの利用の議論などの検討(尾崎および会澤)、そして日本の近代化において市場観念がもたらした法的変化と社会生活レベルでの浸透と反発や中国の手引書や裁判小説の翻訳・翻案を通じて成立した近世日本の裁判話集を手掛りとした裁判観とその変容の検討(林田および桑原)などを行った。
 これらの成果は、北大法学論集58巻3および4号において、「研究ノート:<法のクレオール>と主体的法形成の研究へのアプローチ(1)および(2)」というシリーズ掲載の形で公表されると共に(HUSCAP:北大法学論集関連ページ)、そのほかに多くの関連業績にも示されている。(関連業績一覧

(2)大学院共同講義の継続開講

大学院共同講義「比較法文化論」(講義レジュメ)を継続開講し、問題関心の涵養と研究へのフィードバックを続けた。

(3)プロジェクト研究会および協同検討会の開催

国内外の関連研究者を招いたプロジェクト研究会を下記のとおり6回開催した。

  • 2007年10月29日「 超国家的な法の概念」:H・パトリック・グレン氏(カナダ・マッギル大学教授・比較法)
  • 2007年10月30日「 様々なコモン・ローについて」:H・パトリック・グレン氏・角田猛之氏(関西大学教授・法文化論)
  • 2007年 11月2日「日本支配期における台湾の法意識」:王泰升氏(国立台湾大学法律学院教授・法制史)
  • 2008年 2月 9日 「<価値相対主義>再考」:今井弘道・宇佐美誠氏(東京工業大学准教授・法哲学)・中山竜一氏(大阪大学教授・法哲学)
  • 2008年 3月17日「 紛争解決方式の多様化と法の統一性」:福井康太氏(大阪大学教授・法社会学)・山田文氏(京都大学教授・民事訴訟法)
  • 2008年 3月23日「 ヨーロッパ法における法の転移と学識転移」トーマス・ヘンネ氏(東京大学客員准教授・西洋法史)

また、研究分担者による協同検討会を2回開き(2007年10月30日 および2008年3月31日)問題意識のさらなる整理や共有に努めた。

(4)ホームページの整備・更新とアーカイブの構築準備

前年度に引き続いてホームページの整備・更新を図り、特に英文ホームページ共通図書データを拡充した。

(5)海外インタビューおよび資料収集・調査等

前年度に引き続いて、継続的に海外の関連研究者へのインタビューや資料収集・調査を行った。

(6) 研究中間評価

平成19年度までの研究期間について、プロジェクトの研究中間評価を受け、A判定(「概ね順調に研究成果を上げつつあり、現行のまま推進すればよい」)を得た

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2008(平成20)年度の活動の概要

(1)<法のクレオール>の中間モデルの展開と彫琢

今年度は、前年度に中間報告として公刊した、<法のクレオール>の中間モデルのいっそうの展開と彫琢を目的とし、各自の担当部分において、多角的な文献資料収集、国内外の関連研究者との発展的討論、ヒアリング、DP作成等を通じて、中間モデルの再検証と補正に努めた。
 価値的および行為的次元においては、異なる法体系の導入における翻訳作業の主体的意義と条件や権利概念についてのアジア的理解と欧米的理解との行動・意識上の対比などに係る検討を行った (長谷川・松村;なお、長谷川は下記の関連する国際会議にも参加した:Conference on Theorizing the Global Legal Order)。思想=制度的次元においては、東アジアにおける価値相対主義の主体的理解とその現代的変容や現代中国における裁判規範の柔軟な発展と変化のあり方に係る検討 (今井・鈴木)、中世中期及び後期におけるドイツの諸侯法廷を通じたゲルマン法の規範変容や近世のパンデクテンの現代的慣用における規範の運用と解釈の特徴に係る検討 (田口・水野)、EU報の進展状況に係る継続的検討(中村)、アメリカの連邦最高裁による外国法参照の歴史的経過の精査や法的紛争行動と法の主題化における言語の位置づけと機能に係る検討 (会澤・尾崎)、そして日本の司法における近代的な法の解釈と適用の泰西主義的特徴や江戸期の日本法における中国文芸の影響とその変化に係る検討 (林田・桑原)などを行った。(関連業績一覧
 また、この過程で、研究分担者各自が、次年度の取りまとめに向けて、そのアウトラインとなるディスカッション・ペーパーを作成した。(DP一覧

(2)大学院共同講義の継続開講

大学院共同講義「比較法文化論」を継続開講し、問題関心の涵養と研究へのフィードバックを続けた。 (講義レジュメ

(3)プロジェクト研究会および協同検討会の開催

  • 2008年 5月31日「異文化間の法的交渉を考える」:齋藤隆宏氏(札幌弁護士会・弁護士)
  • 2008年 7月15日「台湾における新たな学際的試み:法イコノロジー」:江玉林氏(国立政治大学副教授・法哲学)
  • 2009年 1月26日「素朴な所有感覚の日中差について」:山本登志哉氏(早稲田大学准教授・アジア法
  • 2009年 2月 6日 「言語研究と法のクレオール研究」:堀田秀吾氏(明治大学准教授・法言語学)
  • 2009年 3月12日「アジアにおける私法システムの相互作用」:ケント・アンダーソン氏(オーストラリア国立大学教授・比較法)
  • 2009年 3月24日 「ヨハン・フォン・ブーフのザクセンシュピーゲル注釈と法のクレオール」:ベルント・カノウスキ氏(フライブルク大学教授・法史学)
    「リューベックにおける皇帝法」:アルブレヒト・コルデス氏(フランクフルト大学教授・法史学)

また、研究分担者による協同検討会を1回開き(2008年4月5日)問題意識のさらなる整理や共有に努めた。

(4)ホームページの整備・更新とアーカイブの構築準備

前年度に引き続いてホームページの整備・更新を図り、特に英文ホームページ共通図書データを拡充した。

(5)海外インタビューおよび資料収集・調査等

前年度に引き続いて、継続的に海外の関連研究者へのインタビューや資料収集・調査を行った。

(6) 研究中間評価

平成20年度においては、プロジェクトの研究進捗評価を受け、A判定(「順調に研究成果を上げつつあり、現行のまま推進すればよい」)を得た。

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2009(平成21)年度の活動の概要

研究の最終年度である平成21年度は、前年度における<法のクレオール>の中間モデルのいっそうの展開と彫琢を承けて、研究のまとめの段階に入り、各自の担当部分において、多角的な文献資料収集、国内外の関連研究者との発展的討論、ヒアリング等を通じて、モデルの最終的な仕上げに努めた。価値的および行為的次元においては、翻訳を軸とする法融合作用の主体的意義と条件や権利をめぐるアジア的観念と欧米的観念との相互連関などに係る検討を行った。思想=制度的次元においては、東アジアにおける主体的価値参与とその現代的変容や現代中国の政策形成訴訟における裁判規範の進展に係る検討、中世中期及び後期におけるドイツ学識法曹の活動を通じたゲルマン法の規範変容や近世のパンデクテンの現代的慣用における法源の実務的適合化過程、そしてEU法における諸法の自立化的融合過程の特徴に係る検討、アメリカ連邦最高裁による基本的権利保障と外国法参照の歴史的経過や法的紛争解決における言語の位置づけとクレオールの普遍的機能に係る検討、そして日本の司法における近代的法解釈と適用における泰西主義の意義や江戸期上方都市の家族法における中国文芸の影響と変化に係る検討などを行った。その他に、とりまとめのための協同検討会および国内の関連研究者を招聘した全体シンポジウムを各1回開催して、研究の仕上げと今後の展望の開拓に努めると共に、前年度から引き続いて、ホームページやアーカイブの充実なども進めた。本研究の最終成果は平成22年度中に書物にまとめられて公刊の予定である。

Updated: 2010.6.12

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