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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
日本のVCの現況(2002年調査から)
濱田 康行
 
 

 ベンチャーキャピタルに関する3つの調査を総合して"ワンストップサービス"という形態になってから本年で3年目となった。調査委員会では、回答率の上昇、調査内容の充実に目標を定め信頼ある情報づくりを心掛けてきた。

 日本にどのくらいの数のベンチャーキャピタル(以下VC)があるか、正確にはわからないが、完全休眠中のところを含めても200(会社、機関)はないであろう。このうち本調査では、この3年間114〜115社から回答を得ている。アンケートの送付先が180程であるから、率にして60%以上、この種の調査では高い方である。2002年度は金融再編の影響で多くのVCが統合することになり、調査母数がかなり減少した。また、ついでに言えば、再編・統合事務に忙殺されているVCにとっては調査票に応えるのもひと苦労であったに違いない。だから、本年調査の回答110社はよくできた数字である。また大手、準大手のVCからほぼ完全に情報が集まったのも本年の特徴である。

 VCの看板を掲げている機関は200弱なのであるが、実際にVCらしく活動しているところはどのくらいあるのか。本調査でわかったことだが、1年間、1件も新規投資をしていないVCが16社あった。昨年もほぼ同様であるから、こうした休眠会社を除くと約100社というのが実動VCの数ということになる。

<投資残高、新規投資額>

 日本のVCの投資残高は2001年にようやく1兆円を超えたのだが、本年もかろうじて大台を維持した。もっとも、この数字には融資額もごく少額ながら含まれており、サンプル内容にも若干の異動があるのだが、ともかく1兆円産業の面目は保ったのである。

 後にみるように新規投融資が1800億円あったのに残高が300億円程減少したのは、昨年程でないにしてもIPO等の出口に到達したこと、そして倒産などで償却が進んだことによる。

 残高でみる投資件数は1万9000件で昨年より1500件増加した。つまり、1件あたりの投資が小口化した。このことの背景は後に述べよう。

 世界の情勢をみると、VC活動は著しい低迷期に入っている。残高こそ椎持しているが(2000年スタートのファンドが存続しているため)、新規投資額では、アメリカが13兆円から4.9兆円、ヨーロッパでも4.6兆円から1兆円、日本を除くアジア諸国でも約1/3と大幅に減少した。

 こうした世界の大幅減に比べると日本の状況は逆にかなり良好にもみえる。その理由は、日本のVCの発展段階が欧米に比べるとまだ低いことにひとつは求められる(残高でみるとアメリカの1/30、ヨーロッパの1/14)。しかし、これに加えて、日本ではVC活動への期待が依然として高いこと(不況克服策)、そしてVCの発展を支える金融的環菟、つまり大量の余剰資金と低金利の持続があるからである。もっとも、こうしたVC発展のための好条件が充分に生かされていないことも事実である。

 調査結果のうち希望を感じさせる部分がある。それは、数でみると投資残高を増加させたVCの方が多かったという事実である(サンプル数89に対し、増加が49、減少が38)。にもかかわらず、全体残高が減少したのは、減らしたVCの金額が大きかったからである。概していえば、中小のVCが活躍し始めている。

 投資の内訳の中にも希望がある。融資はほとんど無視できる額に減少している。現在、残っているものはいわゆる不良債権であり、各VCともに償却に向かっている。また、公開株式への投資、社債への投資が減少する反面、未公開株投資が着実に上昇している。つまりVCらしくなっている。

 組合投資が伸びていることは前年調査で既に確認されている。その背景については昨年の報告書で述べた。1997年には本体投資(プロパー)が70%を越えたが、2002年には40%になっている。また、組合の中の投資家の構成をみると、金融機関、事業会社、保険会社という伝統的な御三家体制が少し変化し、ジェネラルパートナーであるVC自身が第3位に登場してきている。ただし、2000年に確認された年金基金のVC投資はその後、停滞している。2002年は金額こそ大きいがわずか1件である。年金の出現をどう誘導するかは相変わらず日本のVC業界の課題である。また、常に期待を集めるのがエンジェル・個人であるが、人数で最も多いのは当然だが、金額ベースでみると2000年の8%(この計算ではジェネラルパートナーを含めていないので、実際にはやや低い)から2002年には3%に減少している。個人投資家からみてVCの世界はやや遠くなったというのがこの3年間の傾向である。逆に金融機関の比率は2000年から2002年にかけて18%→29%→30.5%というように増えている。一般的に言えば、VCがその資金源を間接金融機関に依存するのは良いことではない。もっとも、日本型のVCはそうして生まれたのではあるが。

<小口化>

 先程述べた投資の小口化は、新規投資額でも示されている。本体(プロパー)でみると、昨年の1件あたりの平均は4200万円だったが、本年では3900万円となった。各VCとも、初回投資の上限を設定し小口分散を志向している。2000年バブルの教訓が生かされているものと思われるが、この傾向と、新たな投資先としてバイオ分野が志向されることが矛盾しないかどうか懸念が残る。というのは、一般的に言ってバイオ分野の必要投資額は大きいからである。

 小口化の原因のひとつには、中小、特に小型の独立系キャピタルの発生がある。このこと自体は業界の活性化にとって必要なことである。ただ、こうした新規参入組にとって現在の日本のVC環境が極めて厳しいことも事実である。

 2000年の調査では逆に、集中投資が確認されている。その主な原因は、同じ投資先にいくつかのVCが相乗りすることが少なくなったことによる。今回の小口分散は、相乗りが復活したのではなく、既に述べた、中小VCの進出、投資業種の分散、VCが慎重な姿勢をとっていること等によるものと思われる。また、次にみる投資ステージでのアーリー化が進んだことも大いに関係がある。

 本年から、新規投資を純然たる新規投資と追加投資に分けて把握したが、その比率は7 : 3であった。追加投資の平均も昨年(7500万円)に比べると5200万円と小ロ化している。

<アーリー化>

 被投資企業の社歴が若くなることをアーリー化と呼んでいる。日本では、ベンチャーキャピタルの発展以来、公開直前の企業、あるいは公開可能なのにしなかった企業に投資先を絞ってきたためアーリー化は進まなかった。変化のひとつのきっかけとなったのが2000年のITバブルであった。この分野の企業は社歴が若い。以来、VC投資先のアーリー化は定着した。2002年調査でも設立5年未満への投資が全体の半分を占めた。15以上の企業への投資はやや減っている。VCの全投資先件数は先に述べたように1万9000件もある。もはや、公開可能性のある埋もれた企業などないのだろう。そうなれば、若い企業を発掘しそれを公開に導くという行動以外、日本のVCの生きる道はない。しかし、アーリー化の道はまだ半ばである。設立投資などは若干増加したものの(2001年11億6000万円→2002年18億7500万円)、全体の率でみると、1.5%にすぎない。今後、多くのVCが関心を示している大学発ベンチャー等が増加するとこの比率は高まってくるかもしれない。

 当然ながら1件あたりの投資額をみるとアーリーステージでの企業への額は少ない。だから、アーリー化が進めば小口化する。

<地域分布・業績分布>

 海外と国内という観点で分けると、1997年をピークに海外比率は下がり続けたが、2002年になって若干戻った(23.9%)。日本の不況が長期化し適当な投資先を見出しにくいことに加え、アジア諸国の堅調、アメリカの回復などが反映している。

 国内だけに限ると、90年代後半に進んだ東京集中が続いている。東京集中の第一の要因はITバブルであるが、それが去った後でもこの傾向は続いている。新規投資の半分近くは東京である(2001年48%、2002年47.5%)。さらに、関東・甲信越・東海などの東京周辺地域が伸びている反面、北海道・東北・中国・四国などは1〜2%にすぎない。VCの地方化は地域経済活性化のスローガンであるが、実はあまり進んでいない。

 VC投資が地域的に集中することはアメリカでもみられる。シリコンバレーを中心とするカリフォルニアへの集中はこの10年の傾向であり、2002年でも全米の投資の1/3はこの地域である。そして、ボストン周辺が2位、ニューヨーク近郊が3位というのは不動の順位である。いったん、VCの投資がある地域に集中すると、そこに多くの新興企業が生まれ投資が投資を呼ぶという現象が生じる。しかし、4位、5位ということになると順位の変動はある。最近では、コロラドやテキサスが伸びている。これは、政策的支援によるところが大きいし、地元の大学等の研究機関が大いに貢献している。

 新規投資の業種分布をみると、やはり情報・通信、コンピューター関連が1位だが、2001年で比べると2002年では少し落ちている(32.4%→29.5%)。これに対してバイオ関連、健康関連は増加している(8.7%→12.1%) また、今後注目する分野としてバイオをあげたVCが半数を占める。しかし、バイオへの期待値が高い程、実績は上がっていない。こうした事情があってか、期待値でみると昨年よりもコンピューター関連への関心は高まっており、見直しの動きがある。

<VC業界の構造>

 2000年の調査の付録としてVC業界の寡占構造を分析した。3年後の現在でも、その構造は変わっていない。上位10社で金額でみると67%、件数で55%を占める。ただし、この数年でみると件数比率は下がっている。新興の小さなキャピタル会社が件数を上げているものと思われる。

 全体として日本のVC業界は参加者が増え(量的に)かつベンチャーキャピタリストとしての力量を持った人々も出現し、その人達によってハンズオン型が進展(質的に)している。しかし、将来に懸念もある。しかも近い将来にである。

 既に述べたように日本のVC投資はアーリー化が進んでいる。アメリカではアーリーとレーターの間にExpansionというステージがあり、これがVC投資の中心ステージなのだが、日本にはこれが明示的にはなく、レーター中心からアーリーに急転回した。そうなるとリスクは一挙に高まる。他方で、新興のVCは小型である。2002年の状況をみると、証券市場は低迷し、そのため公開企業の件数も減っている。IPOが少なければVC会社の決算は悪化する。ひと頃のようにIT企業に投資して手軽にキャピタルゲインを得られる環境にはない。ベンチャー企業支援の政策は推進されているし、大学発ベンチャーにも注目が集まるが、日本のVC業界全体に恩恵が行き渡るにはまだ時間がかかる。だから、過去の利益の蓄積がある大手のVCを除けば、経営的に苦しい状況が続く可能性がある。

<投資事業組合>

 2002年9月末に存在が確認された投資事業組合は391本で、昨年(308本)に比べ9.6%の増加となった。2002年間始ファンドは9月までの集計で20本であるから、最終的には2001年の水準(27本)に近いところまでいくと予想される。VC不況が言われるなかで、また世界的な退潮のなかで、これはまずまずの結果であろう。ただし今後は、ファンド設立が盛んだった1995〜97年の償還が近づくので残高の伸びは期待できないかもしれない。

 391本のファンドの資金総額は1兆3000億円であるが、このうちどのくらいが実際の投資にまわっているかは集計できていない。ファンドに関する情報が集まったのは196ファンドだからである。また、ファンドを増やさなかったと答えたVCが約半数あった。各ファンドのサイズも平均20億円と小型化している。

<出口>

 株式公開に至った会社は386件で昨年に比べ(463件)かなり減少した。証券市場の低迷による公開件数の減少が影響している。IPOによる実現益は135億円で、昨年の283億円の半分以下になった。この結果はVCの2003年の3月決算に現れるであろう。既に2002年の9月の中間決算にも現れている。投資先の倒産等による償却は34億円となり昨年の16億円から逆に倍増している。日本のVCも、金融業界の他の分野と同様"不良債権処理"の時代に入っており、各VCの体力が試されている。

<補論. IRRについて>

1996年以来、寄せられた情報を基に日本のVCの内部収益率を計算している。2002年はワンストップ化して3年目である。

 2002年の総IRR(196本の加重平均)は5.21%である。サンプル数がかなり違うが、昨年(7.60%、116ファンド)よりも、また一昨年(5.6%、99ファンド)よりも低下した。報告本文にもあるように、2000年にスタートしたファンドが数も金額も大きいのだが、まだ結果が出ていない(多くはマイナス)事が背景にある。しかし、2000年ファンドの多くはIT企業に投資しており、今後、事態が好転するとは考えにくい。日本のVC業界はしばらくの間、かなりの重荷を背負っていくことになる。

<補論.各年のIRR(いわゆるビンテージ)を決定する外生要因について>

 開始年別出資額加重平均IRRという指標がある。ファンドの設立は年によって多い少ないがある。また、金額でみてもそうである。いま、特定の年にスタートした複数のファンドを一本とみたてて年毎にIRRを計算してみると、そこに大きな差があることがわかる。ある年のファンドは成績が良く、別の年は悪いというようである。

 調査委員会ではこの差が何から生じるのかが議論になった。

 一般的に言えば、IRRを決定する要因は二つの群に分けられる。ひとつは内生要因である。各ファンドは複数の会社に投資する。この被投資先の様々な要素(例えば社長の能力、製品、販路、社員、組織等)によって投資の成績は左右される。しかし、個々のファンドの投資先については調査はできないので内生要因のこの部分についてはふれられない。もうひとつの内生要因は個々のVCの能力である。例えば発掘能力、支援能力、IPOのコントロール能力などである。しかし、こうしたVCの能力を示す適当な代理変数がみつけにくい。ハンズオンをするために被投資先一社当たりどのくらいの人数がついているかなどを調べることは可能である。また昨年、実施したように、企業支援の型(役員派遣等)や頻度を調べることもできる。将来は、このような調査内容を使ってVCの内在的能力を測ることもできよう。

 今回、計測を試みたのは外生要因である。IRRを決定する外生要因として考えられる指標はいくつかある。株式市場の動向、特に店頭証券市場、マクロ経済の状況(GDP成長率)金利動向、物価変動率、政治安定性などである。また、外生とも内生ともいえる要因として、その年にスタートしたファンドの本数(あるいは金額)、ファンドが特定の産業に集中的に投資したかどうか(特にITなど)などがある。

 まだすべての計算がなされていないが、というより計算の前のデータの処理が済んでいないが、現在にまでに出た結果を述べておこう。

 まず、196本のファンドから2本のファンドを異常値として除いた。それは1994年と1997年にあった北米を投資対象としたファンドである。今回、分析対象とする外生要因がすべて国内指標であるためである。

 得られた結論は次のとおりである。

@ 同じ年に多くのファンドが設立されるとIRRは悪くなる。つまり、言うところのオーバーフィッシングが認められている。T値がマイナスの1.95で、10%水準で有意である。

A 投資先業種を特化するとIRRにはマイナスに作用する。ITではT値はマイナス1.69であり、製造業だとマイナスの1.4である。ファンド数のときより反応は鈍いし、ITなどの場合@と競合している可能性もある。

 代表的なマクロ指標である物価変動率や金利などではいまのところIRRとの相関は認められない。

 株価についてみるとTopixとは相関しないことがわかった。また店頭指数(JASDAQ指数)でもある工夫をしてはじめて有意な結果が得られることがわかった。VCの投資先のほとんどは店頭市場に公開する。少なくとも、他の新興市場(マザーズ、ナスダック・ジャパン:現在のへラクレス)が出現する1999年〜2000年以前はそうであった。だから、JASDAQ指数が有力な説明要因になることは推測しえた。しかし、単純に各年のIRRとその年のJASDAQ変動率を比べてみても相関がない。そこで、次のような操作をした。JASDAQ指数は、ファンドのスタートした年から5年間を用いる。ファンドのスタートした年の最高値と5年間の最高値の差を説明変数とする。

 この操作の根拠は、各ファンドが開始から3年程で組み入れをほぼ完了し4年目、5年目にはキャピタルゲインを取りにいくからである。だからこの期間中に出口市場の活況があるかないかが問題となる。店頭市場が活況であれば被投資先を急がせてでも公開に導くのがVCである。スタート年の最高値は便宜的である。本来なら、スタートしてから半年とか一年経過後のJASDAQ指数を比較の起点とするべきだが、各ファンドのスタート日がまちまちで計算がしにくいのである。

 結果は、T値が3.974で極めて高いプラスの相関を示した(附図参照)。

出典)北大濱田研究室作成
IRRはVEC調査から修正して算出
JASDAQ指数はスタート年と5年間の最高値の差異の変化率

R2も0.49であるから充分である。そして、様々な外生要因のうちJASDAQ指数の説明力が1/4程度であることもわかった。

 日本のVCのIRRは年によってかなりの差があるが、それは、限定的ではあるがいくつかの要因で説明できる。オーバーフィッシングが、つまり吾も吾もと多くのVCが出ていった際にはIRRは悪い。これは少し情けない結果だ。VCがファンドを組成して出ていくときはそれなりの投資先がなければならない。やみくもにファンドをつくれば悪い結果が出るのは当然。釣り人の多さに合わせて魚の数も池の広さもなければならない。

 スタートしてから5年の間にJASDAQ市場に好調な局面があるとIRRは良くなる。ということは、2000年に多くのファンドがあるのだが、2004年までに局面がよくならないと日本のVCにとっては大変なこと、つまり新たな不良債権問題が発生することになる。

(平成15年3月(財)ベンチャーエンタープライズセンター報告書)