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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
Twilight SEIBEI
濱田 康行
 
 

 久しぶりにロンドンに出かけた。たったの3泊で、しかもスケジュール過密。ほとんど、どこにも出かけられなかったが、旅の副産物はあった。

 自分で言うのも変だが、私は英語がうまくない。英国留学組なのだから、もう少しなんとかなりそうなものと思うのだが、いかんともしがたい。それでも、テープを聞いたり多少の抵抗はしたが、それも50歳をすぎてやめた。かのマルクスは52歳から資本論の基礎資料を読むためにロシア語を勉強していたなどという話を聞くと、下がった頭はもう上がらない。私の場合、近頃はほとんどドロ縄式である。ロンドンに到着するまでの12時間、睡眠時間を除いてブランデーをちびちびやりながら、ひたすら英語の映画・ビデオをみる。頭の中の言語スイッチを切り換える。

 今回は幸い、ビジネスクラスに乗せてもらったので選択肢がたくさんあった。スチュワーデスさんに一番人気を聞くと、「たそがれ清兵衛」という。英語字幕版もあり、まずこれをみることにした。

 御覧になった方は御存知だろうが、これは武士の時代の窓際族の話。サムライとしての仕事がなくなって、内職をやりながら子供を養い細々と生きている男。たそがれ≠ニいうニックネームで呼ばれている彼に、ある日突然、脱藩者を斬るという特命が下る。山田洋次監督の中高年・窓際族へのメッセージ。諸君いつ天命が下るかわからない、用意を怠るな≠ニいうことだろう。

 日本語のたそがれ≠ヘ英語ではTwilightとなる。日本語の響きはやや寂しいのだが、英語ではそうでもない。むしろ、日暮れどきを一日の最も良い時間というイメージでとらえている人も多い。イギリスは緯度が高いので、夏は10時頃まで明るい。まことにゆっくりと日が暮れる。この国の小説にも夕暮れの名場面が多い。たとえばエミリー・ブロンテの「嵐が丘」。小説の舞台となったところは、典型的なイギリスの丘陵地帯。一面のヒース、そして数本の木立と石の小屋のうしろにゆっくりゆっくりと日が落ちていく。

 カズオ・イシグロという日系の小説家が、「The Remains of the day」という小説を書いて、イギリスの芥川賞に相当するものを受賞した。これは「日の名残り」と訳され映画にもなった。「羊達の沈黙」のレクター博士こと、名優アンソニー・ホプキンスが主役を演じ、名門の館を守る執事(バトラー)の晩年の数日間の旅を描いたものだ。訳が素晴らしい。そして人物の動きの背後にいつもイギリスのTwilightがある。

 それで思った。イギリス人は、Twilightを大切にし、それをできるだけ長く楽しもうとする知恵がある。大英帝国が復活するなんて誰も考えていない。ピーク(正午)を過ぎたことを積極的に認め、むしろ長い午後を楽しもうとしている。

 日本は逆にいつも rising sun だ。書店にいくと、日本はだめだという本もあるが、多くは日はまた昇る℃ョの本だ。ベンチャー企業育成などというのもこの路線だ。イギリスのように財産のない日本は rising sun again を目指さざるをえない。しかしそればかりでは忙しいし疲れる。そろそろ午後の紅茶§H線も考えてみる必要がありそうだ

(『北海道労働委員会日報』2003年7月25日)