「リレーションシップバンキング」という耳慣れない施策が、金融庁により推奨されている。中小・地域金融機関の業務の推進方法を示したもので、当局側は「顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うこと」と定義している。
だが、地域金融機関にとって顧客との長いつきあいは当然だ。すでに実行していることを、なぜ当局はあらためて推奨するのか。その意図はどこにあるのだろうか。
<水面下での情報>
当局によれば、同様なリレーションシップは国内において戦後、メーンバンク制の下で大企業と大銀行との間に「産業金融」として存在してきたという。これは大きな誤解だ。産業金融は戦前の財閥金融が近代化して展開したものである。だが、地域金融の世界で築かれるリレーションシップははるかに原始的・私的・非公式なものである。
それは例えば、支店のセールス係が自転車で得意先を丹念に回ることにより築かれた個人的な人間関係から生まれる。こうした情報はどこまでも私的であり、金融機関が組織的に保有するものではない。いわば「ここだけの話」であり、公式にしてしまえば一種の背信行為だ。あくまで水面下なのである。
小企業を顧客とする金融機関は企業を機械的に判断するのが難しい。公式な情報量が少なく、それを解析する能力にも限りがあるから、こうした水面下の情報が意味を持つ場合がしばしば生じる。こうした関係は大銀行と大企業では築き得ない。それらを混同する当局のリレーションシップ論は見当違いである。
また、金融庁は地域金融機関にベンチャー融資などの「創業支援」を推奨しているが、これも根拠が不明だ。長く付き合って初めて築かれるリレーションシップで創業企業を支援しろというのは矛盾している。
このように金融庁は中小企業世界への無理解を随所に露呈しながらも、金融機関側の取り組みが不十分だとして、当局による監督強化を主張している。監督強化で何を促すかといえば、竹中平蔵大臣は「中小企業金融の再生」と「健全性の確保、収益性の向上」を二本柱としている。だが、そこには第三の柱が隠されている。それは金融庁の権力の拡大だ。「はしの上げ下ろし」まで指図した旧大蔵省時代への回帰を狙っているのである。
<国際基準を強要>
欧米が押し付けた国際基準を地域金融機関に適用し、不良債権の早期処理やディスクロージャーを強要するのは危険だ。不良債権を処理しても金融機関が抱える遊休資金は還流しないし、過度なディスクロージャーも利用者にとって本当に必要なのか。勝手に作った”民の要求”を脅しに、金融機関を支配しようとしていると言えまいか。
(2003年09月07日北海道新聞「寒風温風-経済-」)
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