=霞ヶ関にない視点提示=
カバーについている帯には「ここまで使える支援策」とあるから、本書は「産業再生法」の利用を考えている企業向けの解説本のように見える。確かに、著者は「基本指針に関わった企画立案者」だから、解説者としても申し分ない。しかし本書の価値はもう少し高級なのである。
産業再生法とか産業再生機構というのは実は分かりにくい法律・制度である。それは個々の企業(しかも一流大企業が大半)を一時的にせよ、国が面倒見て助けようというのが趣旨だからである。これは“市場にまかせよ”という現代の風潮に反するように見える。また「強い企業をより強く」するのが目的だと言われても、弱い者の味方を国に期待することに慣れた日本人には飲み込みにくい。
ところが、これは著者の言葉だが「理解を得られない経済政策はいかなる効果もない」のだ。だから使い方を解説するだけでは済まないし、どうしても、日本経済の現状をどうみるか(第1章)、その上でいかなる産業政策が必要か(第2章)が語られなければならない。実はここに著者の経験とそれに基づいた思想が示されている。そして、その見解は霞ヶ関の通説とはやや異なっていて一読に値するのである。
「○○なくして△△なし」というのは小泉首相の好きな言い回しだが、これを応用すれば「不良債権問題の解決なくして日本経済の回復なし」となる。著者はこれが日本中を縛ってしまっていると指摘する。不良債権そのものよりその処理の仕方の方に苦しめられている。これは地方に住む私たちの実感である。
産業再生法は日本経済をEnhance(能力を高める)するために官僚機構が総力をあげて創った新薬である。薬効には登録税減税と商法特例という規制緩和が含まれる。こう聞くと、なんだか昔に飲んだ薬のようでもあるが、広く飲まれるかどうか本書の説得力にもかかっている。
最終章の「『志本主義』のすすめ」から「あとがき」までも“読ませる”内容だ。(東洋経済新報社 1800円)
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