ここ10年、天野礼子さんと五十嵐敬喜さんは日本全国でムダな公共事業の現場を歩き、それを中止させるための運動を展開してきた。一人はアウトドア・ライターとして。一人は法律学者として。残念ながらその原点となった長良川河口堰はつくられてしまったけれど、毎年、河口堰近くの河原で天野さんたちが始めた「長良川サミット」は、世界がはっきりと脱ダムに向かって動き出していることを訴え続け、河川法の改正や長野県の田中康夫知事による「脱ダム宣言」を引き出す大きな潮流をつくりだすことに成功したのである。市民はいま、政治家や行政よりもはるかに先を読み、行動を起こしている。だが、自然を壊し続け、ムダなものを作り続ける公共事業をやめれば、大量の失業者が出ることも明らかだ。これまでの利権を手放したがらない人々は、これを最大の脅しとして、意味のない公共事業の必要性を強弁してきたといえよう。だがそんなことがいつまでも続けられないことは、経済の破綻がそれを証明している。
すでに激増している失業者のために雇用を拡大しながら、しかもムダな公共事業をやめさせる方法はあるのだろうか。絶妙のコンビともいえる二人の著者がこの本で示した答えは、「緑の公共事業」という言葉で語られる新しい公共事業の創造だ。これまでのように自然を壊すのではなく、失われた自然を復活させるような公共事業。自然の流れを止め、魚たちの遡上を妨げてきたダムを撤去したり、まっすぐにされてしまった川をもういちどもとのように蛇行化させる自然再生事業もその一つだが、もっと重要なのは、ダムをなくしても洪水が起きないように「緑のダム」をつくることである。それは上流の森林をよみがえらせ、保水力をもった豊かな森をつくる事業である。