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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
二〇〇三年の政治
山口 二郎
 
 

 失われた十年という言葉は、経済だけではなく政治にも当てはまる。十年前の今頃はと思い起こしてみると、当時の自民党最大派閥竹下派が分裂し、政治改革を求める世論は沸騰していた。あれから日本の政党政治は少しでも進歩しているかと自問すると、情けない気持ちになる。国民が新しい政治を待望する気持ちは、最近の地方選挙に現れているとおりであるが、政党の混迷は続いている。ただ負け惜しみを言うならば、自民党を中心とする既成政党の矛盾は爆発寸前まで深まっており、政治において何を変えなければならないかは明らかになっている。今年は、四月に統一地方選挙があり、衆議院の解散も予想されている。したがって、日本の政治にとって大きな岐路となる一年となるに違いない。

 小泉首相にとっては、厳しい年になるであろう。首相の持論であるはずの構造改革がいっこうに具体化しないまま、政治経済の混沌は深まる一方である。スローガンを連呼するだけの小泉政治に対して国民が幻滅していることは、昨年末の各種世論調査における内閣支持率の低下現れている。道路公団改革や不良債権処理に関して首相と与党の抵抗勢力が演じた対決劇は、今までの政策決定の仕組みを国民に理解させる教材ではあった。しかし、肝心の首相が目指すべき経済社会のイメージを明確にしていないため、政策の最終的成果は改革派と抵抗勢力との奇妙な妥協に終わりそうな様相である。倒れかけた企業を生かすか殺すかを政府が決めるという産業再生機構など、小泉流改革の典型である。経済の悪化とともに、小泉政権は厳しい局面に立たされるに違いない。

 政策迷走の原因は小泉首相の危機感の欠如にあるが、今日の事態は「権力維持のためなら何でもする」という自民党の政治姿勢が行き着く最終局面ということもできる。十年前に数か月野党の立場を経験した自民党は、与党の地位にいなければこの党が解体することを学んだ。そして、以来連立政権の相手を取り替えながら権力の座を保持してきた。森政権時代、自民党政治への嫌悪が広がると、小泉という党内の異端児を総理、総裁に据えて、目先を変えようとした。小泉首相による旧来の自民党への批判を人気回復の手段にするというのだから、小泉政権は自民党にとっての奥の手であり、もはやこの後には何も残されていない。小泉政権が統治能力を失えば、自民党はリーダーを失って解体するのが当然である。

 そのときの最悪のシナリオは、小泉的手法をさらに推し進めることで権力を維持しようとするというものである。その際のリーダーは石原慎太郎東京都知事であろう。既成の政党や官僚を斬り捨てることにおいて、石原氏は小泉首相よりもはるかに巧みであり、都政において大胆な改革を実現したというイメージもある。北朝鮮問題に関心が集まる中、石原氏が排外主義や軍事的強硬路線を体現していることも追い風になりうる。

 その時にはほかの考えを持つ政治家も結集して、国民の前に別の選択肢を示すべきである。物事を単純化して、対立する相手を罵倒したり、他国民を見下したりすることで問題が解決するほど、政治の世界は簡単ではない。今の日本に必要なのは、経済の病に対して周到な対策を立て、実行することである。権力にしがみつきたいとか勝ち馬に乗りたいといった動機で政治が動く時代はもう終わりである。日本の危機に直面してどのような理念と政策を打ち出すか、今年は日本の政党政治にとって鼎の軽重が問われる年となるに違いない。

(北海道新聞1月5日)