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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
イラク支援法に対する野党の戦い方
山口 二郎
 
 

 イラクに自衛隊を派兵するための特別法(いわゆるイラク復興支援特別措置法)が衆議院を通過し、今国会中の成立が確実視されている。そして、これを受けて、永田町では自民党総裁選挙の前倒しと、十月解散総選挙という観測が急に強まった。日本の政治家の不真面目さはいつものことであるが、それにしても憲法を実質的に改正するに等しい法案が衆議院を通過しただけで、秋の政局が政治家の主たる話題になるという状態は異常である。また、この状態を異常と感じる感覚がマスメディアに欠如している。記者たちも、政治家同様、政局のネタが何よりも好きなのだろう。小泉政権によって、日本の政党政治はぼろぼろに破壊され、政治家とそれを取り巻くメディアは政局という遊戯にふけっている。

 この法案の論理構成がいかに杜撰であるかは、衆議院での論議を通じても明らかになった。まず、イラク国内に安全な場所の線を引くことなどできないと、政府は認めたのも同然である。結局、政府見解をとるならば、安全な場所に自衛隊を送るのではなく、自衛隊を派遣した場所を安全と考えようという話にしかならない。また、仮に自衛隊が派遣されたならば、イラク人ゲリラとの局地的な戦闘に遭遇し、戦後初めて日本の軍事組織が他国民を殺傷するという危険性が高まることは明らかである。これについて、イラクで起こる戦闘は、国家同士の衝突ではなく、自衛隊が仮にイラク人を殺しても、犯罪者の攻撃からの自衛に当たるから憲法上の問題はないと政府は言う。そんな馬鹿な話はない。米英両国は戦争終結を宣言したが、イラクでは旧体制の残党による戦闘行為が現実に続いているのである。不幸にもテロで殺された米英軍の兵士は、戦死者として遇されるのではないか。だとすれば、自衛隊による米軍の支援は、紛れもなく戦争への参加である。

 世論調査によれば、自衛隊のイラク派遣については賛否が拮抗している。賛成している人は、戦禍に苦しむイラク人を助けるためならば自衛隊を送ってもよいと考えているに違いない。しかし、自衛隊にとっての最大の任務は米軍を支援することであり、イラク人の救援は二義的な目的でしかない。政府はこの点をあいまいにしたまま、イラク復興支援などという羊頭狗肉の法案を成立させようとしているのである。

 自衛隊による事実上の参戦、憲法九条の改正という国家的愚行を食い止める最後のチャンスは、参議院の審議である。衆議院では、野党は採決に応じ、粛々と法案を処理した。正常な審議に応じるということは、野党として反対の意思表示はするものの、法案成立は仕方ありませんねという暗黙の了解を意味している。民主党は、対案を示し、議論に応じることが責任ある野党の行動だと言う。

 法案審議の中で政府側が誠実に答弁し、議論を尽くしたのならばそれでもよい。あるいは、価値観や立場は違うが、法案としては論理的で整合性があるというのなら、正常に審議、採決し、反対を叫ぶというのでよいだろう。しかし、今回のイラク派兵法案の場合は違う。矛盾だらけの杜撰な法案によって憲法改正に匹敵する効果をもたらしかねないこと。審議の過程で小泉首相以下政府側は、野党の論理的追及に対し、はぐらかし、論点のすり替えを繰り返し、答弁拒否にも等しい対応をとったこと。この二つが、その理由である。

野党がいたずらに審議拒否をし、国会を空転させることがよいとは思わない。しかし、政府が問答無用とばかりに憲法を踏みにじろうとしている今は、特別である。政府が答弁拒否をするならば、野党は審議拒否で応じるべきである。アメリカによるイラク戦争の正当性、自衛隊派遣と憲法九条の整合性などの基本的な論点に関し、小泉首相が答弁拒否を繰り返すならば、まともな答えが出るまで野党は審議に応じるべきではない。政府の横暴をとめるため、参議院の野党はあらゆる手段を使うべきである。

(週刊金曜日2003年7月11日)