Globalization & Governance
Globalization & Governance to English Version Toppage
トップページ
HP開設の言葉
学術創成研究の概要
研究組織班編成
メンバープロフィール
シンポジウム・研究会情報
プロジェクトニュース
ライブラリ
研究成果・刊行物
公開資料
著作物
Proceedings
Working Papers
関連論考
アクセス
リンク
ヨーロッパ統合史
史料総覧

「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
中小企業金融政策の矛盾
濱田 康行
 
 

中小企業はカヤの外

 “日本経済は回復に向かっている”というのが2004年になってからのエコノミスト諸氏の共通認識のようである。しかし、地方経済、またその中核である中小企業の状況となると、大方の論者は“未だ不況を脱せず”という論調になる。つまり、東京だけが回復し、地方は停滞というのが実像なのである。まず中央が繁栄を取り戻し、やがて地方にそれが波及するというなら、それでもよいのだが、どの論者もそういうシナリオは示していない。経済が右肩上がりの時代ならいざ知らず、今日では日本全体の回復力は限られており、東京のためにそれを使ってしまえば、それでおしまい、という方が当たっているようだ。地方都市の駅前商店街の衰退を眼のあたりにすれば、東京の復活に続いて地方が復活するとは思えないのである。

 それなら、日本経済はもはや地方経済・中小企業に頼る必要がないのかというと、多くの論者はそうではないと主張する。むしろ反対である。

 「地域経済の再生なくして日本経済の再生なし」 (小村武、日本政策投資銀行総裁の発言、『信金中金月報』 2003年1月号、新春相談) 「日本経済全体を考えると、地方の発展なくして均衡ある経済や国土の発展はありません」(宮本保孝、信金中央金庫理事長、同上)以上は一年前の発言であるが、その後も統計上は地方の低迷は続いている。『中小企業白書』の編集担当者である安田武彦氏が述べているように「改善しているのは製造業の一部」 (@)で中小企業での製造業比率は10%にすぎないのである。北海道では全国平均に比べて製造業比率はさらに低いのであるから、現在の苦境はそれで部分的に説明される。結果として、産業間、地域間、企業間の差は広がることになる。

 今日の景気回復は、大製造業の設備投資とアジア向けの輸出が牽引力となっている。しかし設備投資を企業規模にみれば、資本金10億円以上で2.0%の増加だが、以下、 1〜10億円でマイナス1.1%、 1,000万〜1億円でマイナス2.6%の減少である。 (A)また輸出に関係する企業の大多数が三大都市圏に集中し地方には少ないことは周知のことである。

金融界の対応

 中小企業が日本経済の基礎であると本気で考えているなら、実業界に血液を送り込む役割を持つ金融界もそれなりの対応をしてしかるべきである。しかし、金融庁をはじめとして、このところの金融界の動向はやや分裂気味である。

 金融庁は99年7月に『検査マニュアル』を策定し、これをもって日本中の銀行の検査にあたったが、ここに悲劇が起きる。いわゆる「検査官不況」である。マニュアルの機械的・役所的適用に地方.中小企業から一斉に批判がおき、ようやく2002年4月に『マニュアル別刷』が出る。金融行政としては異例の揺れを見せるのだが、この流れは2002年10月の「リレーションシップ・バンキング」の推奨に引き継がれる。(B)2003年の暮れからは『別冊』の改訂版が検討され2004年の1月に発表される予定である。

 一方で、不良債権をつくるなと言う。極端にいえば小企業・零細企業は大企業に比べれば不良である。また、親企業の発注に頼る下請企業は不安定である。だから、不良債権をつくるなと一方的に指導すれば、貸出は縮小する。他方で、小企業には担保主義でなく、長い“おつきあい”で貸しなさいと言う。いわゆるリレーションシップ・バンキングだが、そんなことは金融庁に言われなくてもずっと前からそうしている。ともかく、政策の方向がバラバラで、同じ官庁の指示とは思えない。ひどいのは、金融庁が公的資金でもって注入先の金融機関を“脅迫”していることだ。それにもかかわらず多くの大手金融機関の中小企業貸出は目標未達成である。2003年3月末の数字を見ると、一年間で大手銀行の中小企業貸出残高は12兆円も減少している(表-1)。(C)

(表1)        大手行の中小企業貸出残高と増減率

 

03/3残高

年間増減額

同増減率

みずほFG

三井住友銀

UFJグループ

三菱東京FG

りそなグループ

中央三井信託銀

住友信託銀

397,917

367,332

299,956

205,867

235,401

 58,459

 45,620

△87,000

△23,911

   5,716

△18,385

△ 2,322

   1,700

△ 1,349

△17.9

△ 6.1

   1.9

△ 8.1

   0.9

   2.9

△ 2.8

(注)@単位:億円、%A決算短信の『中小企業等貸出』ベースで資本金3億円以下、または従業員300人以下の会社向け貸出残高Bみずほは3行、UFJは2行、三菱東京は2行、りそなは4行の合算
 

 大手金融機関に比べると信用金庫などの中小企業向け金融機関の中小企業向貸出状況はまだよい。しかし、次のような皮肉な現象も見て取れる。

 北海道はよく信金王国といわれるが、それほどに信用金庫の存在感があるところである。北海道拓殖銀行の破綻のあと、特にこの傾向は強まった。しかし、そこでの預貸率等を調べると、優良信金とみられているところほど、実は預貸率が低く、預託率が高いのである。 (D)

 この事実の理解はやや難しい面がある。冒頭に述べたように地方の不況が関係して貸出が伸びず、結果としてこうなっているのか、不良債権を恐れて貸出を自粛している(貸し渋り)結果なのか判断はつかない。しかし、 “貸さない金融機関の方が収益上良い結果がでる”という事実は、それが表面的、一時的であるにせよ、日本経済にとって問題であろう。

むすびにかえて

 金融庁はまず、中小金融機関に対する干渉をやめるべきである。霞ヶ関の官庁よりも、地方に土着している金融機関の方が地方の中小企業の事情はよくわかっているのである。ペイオフを実施すれば、預金者は自分の判断で預金先を選び、選ばれた金融機関はそれなりの行動をするはずである。地域に貸さない銀行がいつまでも地域の人々に評価されるはずもない。 “市場にまかせよ”とはそういうことなのである。

 現況において国のするべきことは、金融機関に箸の上げ下ろしを指示することではなく、中小企業に積極的に貸付を行った金融機関の方が、そうでない機関より業績が良くなるような環境をつくることだろう。

(@)Monthly Report 2004年1月号, No513に掲載された新春対談。

(A)『ニッセイ基礎研レポート』 2004年1月号別冊の「2004年度経済見通し」参照。

(B) 「リレーションシップバンキング論の盲点」、演田康行、 『中小商工業研究』 2003年10月。この論文で最近の中小企業金融行政の揺れを批判したので参照されたい。

(C)表1に明らかだが、全体の足を引っ張っているのが、みずほ銀行であることは認識しておくべきである。また日本銀行によると国内160行の中小企業向け貸出残高は205兆円と一年前に比べて18兆円(率で8.1%)減少している(2003年6月末の集計) (日本経済新聞、 2003年11月18日付)。

(D)この調査は、伊藤善人(北海道大学経済学部)の卒業論文(2004年1月)によるものである。

(2004年01月20日国民経済研究協会『景気観測』 地域金融特集1)