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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
シリーズ評論 郵政民営化6 −窓口サービス多様化を−
宮脇 淳
 
 

3つの重要な柱

 政府が決めた郵政民営化の基本方針は、「事業形態の大きな枠組み」と「民営化への重要なトリガー(引き金)」を示している。その重要な柱は@郵便事業の全国一律サービスを維持するA「窓口」を開かれたネットワーク機能として分離し利便性を高めるB郵貯は銀行法上の金融機関として位置づける−ことなどにある。

 今回の基本方針の作成は、官僚的な細やかな部分からの積み上げ方式を取っていない。その理由は、積み上げ方式では、改革が既存制度の中で自縄自縛になるからである。大きな制度改革では、基本的枠組みと、それは実現するトリガーを明確にし、柱がぶれないようにすることがまず重要だ。

 郵政三事業は、戦後日本の経済社会の充実に重要な役割を果たしてきた。しかし、情報化やグローバル化の到来、金融構造の変化という経済社会の大きな転換期を迎え、三事業の機能を従来通り維持することが困難となっている。外部要因の変化が事業形態の維持を内部から難しくしているのだ。例えば、手紙・はがき等の通信手段の重要性の低下、金利構造の変化等がもたらす定額貯金等の商品性の低下、生命保険大国時代の終わりによる簡易生命保険制度の限界などである。

 今の郵政事業のままでは、これまで形成してきた国民の貴重なインフラである郵政のネットワークが、高コストで維持できなくなるなど空洞化する危険性をはらんでいる。

付加価値も制約

「逆機能」という言葉がある。これは、既存制度を守ろうとすることが、結果的に既存制度の発展を制約し、最終的に制度の維持を難しくすることを意味する。内外の環境が大きく変わる中では、制度改革によって生じるさまざまな問題点だけでなく、それ以上に制度を見直さないことで生じる諸問題に目を向けることが重要となる。

 郵政事業の最も重要な資産は、全国に張り巡らされたネットワークである。その津々浦々のネットワークから提供されるサービスの多様化が進まず、民間企業との競争関係の高まりの中でネットワークの付加価値も制約されている。閉鎖的な窓口サービスの向上ではなく、ネットワークを民間企業や行政機関も含め多彩に活用できる開かれた仕組みにすることが不可欠となっている。

 また、郵便貯金事業の将来性は、極めて限られている。それは、少子高齢化、金融の多様化、情報化など長期的な構造変化に根ざしている。戦後の大量生産・大量消費の産業化時代が終焉して、情報化時代、地方の時代に入った今、郵便貯金を中心とする大きな資金の流れも変革が求められている。

 さらに、簡保事業も戦後の生命保険大国時代の終焉により影響を強く受ける状況となっている。

規制見直し必要

 今後、重要なことは、第一に基本方針で示された内容を法案作成の過程で、既存制度の中で縛ったり、空洞化させないこと。第二に法案を審議する開かれた国会の場で、単なる批判ではなく十分に建設的な議論が展開されること。第三に新たな郵政事業が経済社会に重要な機能を果たすために、民間の領域の規制を積極的に見直すとともに、民間企業や行政機関そして地域の創造的努力が不可欠だ。例えば、行政機関の手続きや他の民間商品の取り次ぎ、地域商品の世界への流通の窓口等によるネットワークの複合化、多様化などだ。

 そして第四に「官」と「民」に形式的に分けるのではなく、官・民・の位置づけにかかわらずネットワークを生かす多彩な手法を生み出すことである。新たなネットワークは、過密化した都市ではなく地方に新たな可能性と付加価値をもたらす可能性を持つことも忘れてはならない。

(北海道新聞2004年10月20日)