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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
2004年7月参議院選挙の結果を受けて
新川 敏光
 
 

 今回の参議院選挙は、「自民低迷、民主躍進」によって改めて2大政党化への流れを印象づけるものとなった。自民苦戦の原因として、年金改革やイラクへの自衛隊派遣から多国籍軍への参加に対する政府の説明不足が指摘される。小泉首相は、従来の自民党指導者にはみられない歯切れの良さで有権者の拍手喝さいを浴びたが、他方説明責任を果たさない「ワン・フレーズ・ポリティシャン」であることが、広く知れわたってしまった。しかし今回の結果は、小泉首相個人のパーソナリティ以上に彼の構造改革に内在するディレンマを反映しているように思われる。

 小泉構造改革への評価は様々であろうが、小泉首相が自民党を変え、日本を変えたことは間違いない。旧竹下派支配は過去のものとなったし、イラク危機への対応は従来の日米安保体制の枠を超えている。しかし問題は、政策が状況追随的であり、時には官僚によって主導されているかにみえるところにある。実は説明責任の欠如も同根であり、問題は手法や表現能力ではなく、改革の理念や全体像の不在にこそあるように思われる。

 他方小泉改革の目玉である規制緩和や民営化等は、高齢化によって進行していた自民党支持基盤の縮小を加速した。小泉首相の党内権力抗争での勝利は、自民党の伝統的支持基盤を切り崩すという犠牲の上に成り立っていた。小泉人気が衰えれば、足腰の弱まった自民党は、公明党への依存を強化せざるをえない。今回の選挙結果を受けて、早晩自民党内では、路線対立が激化するであろう。とはいえ「利権政治と一国平和主義」という旧来の路線への復帰では、自民党は「ジリ貧地獄」から脱却することができない。

 それでは民主党は、「ホップ、ステップ、ジャンプ」で、次は政権奪取かといえば、事はそう簡単ではない。民主党の政策が、小泉改革に対抗する選択肢を提示しているとは思えないからである。多くの民主党議員は小泉改革の方向性には賛成であり、ただその手法や低い業績達成度を批判しているにすぎない。安全保障政策にしろ、社会保障政策にしろ、「強い国家と小さな政府」という新自由主義的言説空間を超えるものが、民主党にはみられない。したがっていかに民主党が自民党との政策的違いを強調しても、そこに新たな選択肢は見出すことは困難である。

 93年政治改革以来、政策的競合ということがさかんにいわれてきた。しかしその根底に理念とヴィジョンの違いがなければ、政策対立は単なる権力争いの手段へと堕す。権力を奪取するためには、できるだけ多くの勢力の結集を必要とすることは否定しない。しかしいかなる理念を実現するために権力を求めているのかを明らかにしなければ、民主党はもう一つの自民党と化してしまう。民主党が真の政権党へと脱皮するためには、権力追求のための「寄せ集め集団」から脱皮する必要がある。

 最後に、このように理念の重要性を考えると、価値観の多様化と個人化が進む21世紀の今日、第三党以下が存在する理由は決して小さくない点を指摘したい。今回の選挙で小政党は存亡の危機に立たされたが、要は再生のために必要な理念・戦略・政策を見定めることである。

(2004年7月12日共同通信配信)