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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
参院選は小泉政治にノーを言う最後のチャンス
山口 二郎
 
 

 通常国会も閉幕し、政治の焦点は七月一一日投票の参議院選挙に移った。この選挙は、小泉政治に対して「ノー」を言う最後の機会であることを強調したい。この参議院選挙を乗り切れば、小泉政権は最長二〇〇七年まで選挙をしなくてよい。自民党の中で小泉を引きずりおろそうという権力欲の強い政治家がすぐに現れそうにもない。小泉首相は中曽根政権以来の長期政権になるであろう。そして、首相自身が二〇〇五年をめどに憲法改正案をまとめると公言している。だとすると、今度選ばれる参議院と現在の衆議院において、憲法改正が論議されるのである。国民は心して今回の参議院選挙に臨まなければならないのである。

 日本が戦争に荷担する度合いを高め、国内では、とりわけ戦争反対を主張する者に対して言論の自由を圧迫する動きが強まるにつれ、私は「歴史は繰り返す」という命題を思い出す。坂野潤治『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書)、清沢冽『暗黒日記』(全三巻、ちくま学芸文庫)、『石橋湛山評論集』(岩波文庫)などの書物を読むと、二二六事件以後戦争とファシズムの泥沼に転がり落ちた日本と、小泉政権下の日本とが重なり合う。坂野氏の指摘によれば、二二六事件以後も軍部の独走を批判する政治家・言論人は存在し、一九三七年の総選挙では無産政党が躍進した。戦前期におけるそれなりの民主政治の展開の中で、日中戦争が始まり、反ファッショ、平和の方向を共有する勢力は自らを糾合することができなかった。

 最初から民主政治がないから戦争に突入したのではなく、選挙もあり、民主主義を大事にする政治家がある程度いたにもかかわらず、日本は戦争とファシズム突入したのである。まさに、「殷鑑遠からず」である。民主主義や自由に対する制度的な保障は、今の方がはるかに整っている。しかし、軍の専横を批判し、体を張って言論の自由を守る気概を持った政治家や言論人の層の厚さにおいて、今は昭和一〇年代を上回っていると言えるのだろうか。歴史が繰り返すことを恐れるのは、杞憂ではない。

 権力者の暴走を止める最大の手段は選挙である。今さら小泉政権の悪行を非難することには徒労感がつきまとう。しかし、たとえマスメディアが一か月前のことを忘れ去っているように見えても、選挙を前にして、小泉首相が戦後日本の平和と民主主義を破壊していることを確認しておかなければならない。人道復興支援という名目で自衛隊をイラクに派遣した小泉首相は詐欺師である。自衛隊の行っている給水作業とは、サマワ市全体から見れば無視できる規模のものでしかなく、自衛隊は自分たちが使う水を確保するにとどまっている。イラクを取材したジャーナリストの報告によれば、サマワでさえ治安は悪化し、自衛隊はいつ攻撃の対象となってもおかしくない。イラク特措法に照らしても、現地は自衛隊を派遣できる環境ではない。結局、自衛隊は「ブーツオンザグラウンド」というアメリカ政府高官の意向を受け、イラクに足跡をしるすためだけに行っているのである。

 多国籍軍に参加するという小泉首相の決断も、イラクの復興支援とは無関係と解釈せざるを得ない。現地人向けの支援活動を粛々と行うなら、わざわざ多国籍軍に参加するなどと触れ回る必要はない。むしろ、多国籍軍の一員となることを公言すれば、無用の反発や怨みを受け、本来の支援活動の妨げとなるはずである。多国籍軍参加の表明は、戦争の不義が明らかになり、窮地に陥ったブッシュ政権を助けるための、小泉流の決意表明である。

 しかし、選挙直前のタイミングでの多国籍軍参加決定とは、国民をなめきった所行である。世界中の権力者の中で、今や小泉首相だけがイラク戦争参加の責めを受けていない。仮に、日本人が国際社会において名誉ある地位を占めたいと思うなら、他国の市民と同じように、不正な戦争に荷担した小泉首相に参院選でノーと言うべきである。

(週刊金曜日6月25日号)