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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
参議院選挙で示された小泉政治の限界
山口 二郎
 
 

 自民敗北、民主躍進という参議院選挙の結果だが、この一ヶ月ほどの選挙戦を振り返って、今までの選挙にはなかったいくつもの不思議がある。

 つい二ヶ月前までは、景気回復が始まり、北朝鮮による拉致被害者の家族の帰国も実現したという状況の中で、小泉政権は高い支持率を維持していた。他方、民主党は不祥事が重なり、党首交代のどたばたもあり、自滅状態であった。自民党にとっては負けるはずのない状況であった。しかし、投票日の一ヶ月前あたりから、小泉政権と自民党に対する支持は急速に低下した。勤務実態のない会社から年金保険料を払ってもらっていたことについて、小泉首相が「人生いろいろ」と答えたことが、逆風のきっかけになった。この種の開き直りやはぐらかしは今までにも繰り返されてきた。今まで小泉を好意的に見てきた人も、銭金の問題となると不公平を憤るということであろう。一度小泉流パフォーマンスのいい加減さが露呈すると、これ見よがしのイベント作りもすべて鼻について、支持にはつながらなかった。

 もっと不思議なのは、世論調査の結果から、ある程度の敗北は織り込み済みであって、自民党の中に敗北感が乏しいということである。総理・総裁の座をねらうライバルがいてこそ議席減は敗北と意味づけられ、その総括をめぐる党内対立が政局につながる。しかし、今の自民党には議席減を敗北と受け止めようとする政治家はいない。

 最長あと三年は国政選挙をしなくよいのであり、当分現在の政権を維持できる。いわゆる抵抗勢力にとっては、この選挙で小泉改革に対する国民の厳しい批判が現れた方が、その後の党内運営において有利な構図を作り出すことができる。いまさら派閥抗争を起こし、古臭いボスが小泉に取って代われば、自民党は国民に愛想を尽かされることくらい、機を見るに敏な政治家は知っている。小泉という看板を維持しながら、人事や政策について旧習を回復できるのだから、まあいいかというのが自民党内の大勢であろう。

 この敗北感の欠如こそ、自民党という政党の退廃の現れである。この数年、国民は自民党政治の転換を待ち望んできた。三年前に小泉があれだけの支持を得ることができたのも、「自民党をぶっ壊す」という威勢のよい啖呵に国民が期待したからであった。しかし、小泉首相が叫んでも自民党の本質は変わっていない。そのことは、今回の選挙の比例代表候補者の顔ぶれを見れば明らかである。竹中平蔵と官僚OBの族議員が仲良く並んで、これから一体何をしようというのであろうか。そこからは、何の政策的意思も伝わってこない。

 結局小泉も自民党という権力維持本能だけをもった怪物に利用されただけであった。小泉という最終兵器の神通力が衰えてくると、自民党はいよいよ瀬戸際に立たされることになる。今回の敗北に、敗北という意味づけを与える政治家が存在しないということは、自民党の中にポスト小泉を担う気概と見識を持った政治家がいないことを意味する。

 その意味では、政権交代に向けた野党の出番が近づいたということもできる。しかし、民主党の課題も多い。

 五五年体制崩壊以来、野党は量における非自民と質における非自民という二つの課題を両立させることに苦労してきた。昨年の総選挙と今回の参議院選挙の結果から見ると、民主党は量における非自民という課題はクリアした。雑居性という点では民主党は自民党と同類である。この際、民主党は自民党政治を終わらせるための道具と割り切って、次の総選挙で政権交代を起こすための政策を準備しなければならない。

 国の形などという大言壮語はやめて、今回小泉にノーと言った国民が切実に関心を持っている課題、社会保障と雇用を中心に、簡潔な政権構想を作ることこそが、民主党が政権を奪うための必要条件である。

(東京新聞7月12日)