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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
自民党政治の終わりと市民派の課題
山口 二郎
 
 

 今回の参議院選挙は、自民党および小泉政治の終わりが見えてきたという点で、大変意義深いものであった。もちろん、自民党政治の後に来るものはまだ見えておらず、自民党が曲がりなりにも担ってきた戦後政治の崩壊が民主主義の前進につながるのか、単なる民主主義の否定につながるのか、予断を許さない。戦後民主主義を守る側にも、大きな課題が突きつけられた。

 特に大きな問題は、自民党に代わる政権の担い手をどう作り出すかという点である。選挙結果に現れた民意は、民主党にその役割を期待している。しかし、同時に自民党政治を批判する人々の中に、本誌先週号に載せられた論評にあるように、革新勢力の衰弱、二大政党制や民主党そのものに対する不信も強い。自民党政治の崩壊に向けてカウントダウンが始まったときに、非自民の側が内紛を起こしていたのでは、自民党が喜ぶだけである。そこで、私なりに民主党という問題を暫定的に解決するための視点を提示してみたい。

 第一の前提は、自民党政治を終わらせるという作業は、一瀉千里には進まないということである。日本政治の地中深く根を下ろした自民党という政党を権力の座から降ろすためには、野合と言われようとも野党の幅広い協力が必要である。自民党を野党に突き落とすことには、それ自体で意味がある。権力を唯一の接着剤とする自民党が存在する限り、政策にした政党再編は一歩も進まない。自民党と民主党という二つの雑居政党が二大政党制を構成することはありえないと私も思う。これからの政党再編成は、自民党政治の解体と政策に即した再編という少なくとも二つの段階を経るであろう。

だから、自民も民主も似たようなものだと不平を言う前に、第一段階として自民党を瓦解させるための努力をすべきである。また、自民党が野党になれば、権力と市民社会の関係、権力とメディアの関係は大きく変化し、今のような息苦しさは緩和するであろう。年金問題に現れた官僚支配の構造、日歯連汚職に現れた政官業の癒着構造を非自民勢力の結集によって打破することこそ、ポスト自民党政治を立ち上げる上で不可欠の前提である。

 第二の前提は、民主党を第二保守政党と批判すればするほど、この党の中の市民派的部分は孤立し、その批判は現実のものになるということである。自民党政治に終止符を打つという作業の中心は民主党が担うほかないことが、今回の選挙ではっきりした。民主党の個々の議員の思想や素性を詮索すれば胡散臭いと思うのも当然であろう。しかし、今民主党は小泉政権との対抗上、イラク戦争への荷担に反対し、官僚主導の年金改革に反対している。当面民主党の中でこうしたまともなことを主張する良識派を応援することが必要である。私は、社民党は歴史的役割を終えたので、これからしばらくは民主党の中で左のグループを形成すべきだと思う。保坂展人氏など、野に置くのは惜しい人材もいるが、社民党として影響力を持つことは無理であろう。

 悩ましいのは、憲法問題である。落ち目の自民党が公明党にさえ見放されるという気配が出てくれば、彼らは憲法改正論議を持ち出して、民主党の分裂を図るであろう。自民党政治の根を断ち切る前に、憲法問題を軸として再編が起こるというのは、最悪のシナリオである。民主党は二〇〇七年までに行われる次の総選挙を改憲選挙にしないために知恵を働かせるべきである。

 そもそも今回の選挙で民主党を勝たせたのは、年金改革のごまかしに怒り、国民に一言の説明もなく進められた多国籍軍参加に対して不安を持った民意であった。こうした民意に応えて政権交代を追求することこそが民主党の使命なのであって、自民党の九条改正論議に乗ることは見当違いもはなはだしい。

 小泉という最終兵器の威力が消え去り、自民党政治の終わりに向けて動きは始まった。市民派の構想力、判断力も問われるのである。

(週刊金曜日7月23日号)