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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
憲法九条の危機にどう対応するか
山口 二郎
 
 

 もはや憲法九条は風前の灯である。国民の強い反対にもかかわらず、自衛隊のイラク派遣は延長された。防衛計画大綱では、北朝鮮が仮想敵国とされ中国に対しても名前を挙げて注意を払う必要が説かれている。さらに、ミサイル防衛に向けて、武器輸出三原則は緩和された。自民党の憲法改正案の起草には、現職自衛官が関与したことが明らかとなった。一応今回は見送りとなったが、長距離誘導ミサイルの開発を望む声も政府与党内に強い。この種のニュースを立て続けに浴びせて、国民の感覚を麻痺させることが政府の狙いではないかと思えるほどである。

 今問われているのは、平和のアジアを作るのか、緊張のアジアを作るのかという日本人の意志である。小泉首相の靖国参拝によって中国における対日不信感を高めておいて、事実上仮想敵国扱いするというのは、日本が自ら東アジアで緊張を高めようとしていると言われても仕方がない。確かに、北朝鮮の動向には注意が必要である。しかし、この国は所詮経済的に破綻しかけた小国である。予測可能性が低いことが難しい点ではあるが、仮想敵とは言っても、かつてのソ連などとは比べ物にならない。また、同国が軍事的に暴発しないようにするには、粘り強い国際的な交渉しかないことは明らかである。北朝鮮に対しては日本人よりも大きな恨みと恐怖を抱いている韓国民が太陽政策を支持している現実を、我々は北朝鮮問題を考えるときの前提とすべきである。

 前回の大綱策定時から比べると、中国の目覚しい経済発展とそれにともなう影響力の増加、北朝鮮の独裁政治の不安定性などの変化はある。しかし、日本と近隣諸国との間にイデオロギー的対立は存在しない。まず平和共存を目指すという基本姿勢を明らかにした上で、主権侵害行為には厳しく抗議し、資源については共同管理を提案するという、毅然かつ柔軟な対応を行えば、中国との摩擦が緊張にまでエスカレートすることはないであろう。

 武器輸出の緩和は、日本人のアイデンティティに関わる問題である。戦後日本の経済発展にとって、朝鮮戦争やベトナム戦争の軍需が大きな意味を持っており、その点で日本が平和国家を自称するのは偽善かもしれない。しかし、直接武器を売って金儲けをすることだけはしないというのが戦後日本の志だったはずである。あくまで素人の疑問だが、もともとアメリカ本土を旧ソ連のミサイルから守るために構想されたミサイル防衛を隣接している日本と北朝鮮の間に当てはめようとするのはかなり飛躍ではないかと思える。結局、北朝鮮の核ミサイルの脅威をあおり、ミサイル防衛システムの開発を進めるのは、日本の武器産業を育てるためではないのか。

 先のアメリカ大統領選挙でも現れたように、外の脅威をあおることは、為政者にとって権力を守るための最も安易な方法である。改革の看板が色あせ、ポスト小泉の展望を見出せない自民党が、安全保障を争点にすえようとするのも当然である。日本に住む人間の安全を本当に脅かすものは何なのか、野党の側からの反論が必要である。この際、アジアにおいて平和を作り出すという志を持つ者は、自衛隊を合憲と考えるかどうかを超えて、大結集すべきである。

(週刊金曜日12月18日)