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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
小泉改革の虚妄
山口 二郎
 
 
 
 六月中旬に日本に帰ってきて、今の日本政治で何が争点なのかを見つけようとしているが、さっぱり分からない。この通常国会の最大のテーマは郵政民営化法案である。しかし、論戦を途中から見る者にとっては、そもそも郵政民営化に何の意味があるのか分からない。

 民営化が自動的にバラ色の社会を作り出すわけではないということは、JR西日本の大事故で学んだばかりのはずである。ピラミッド型の上意下達の組織構造は、官にも民にも存在する。民営化された組織が利益の追求を至上命題とし、組織の中の批判的部分やチェック機能を一掃するならば、むしろ民営化は官僚主義的統制をさらに強化することだってあり得る。まさにあの大事故は、現場で仕事をする職員に対して極端な統制と制裁の仕組みを当てはめてスピードアップと利益追求に駆り立てたJR西日本の官僚主義的体質がもたらしたものである。

 では、民営化された郵便会社はどうなるのか。ここで述べたような民営化の落とし穴にはまらないための準備はきちんと行われているのだろうか。郵政事業のコスト削減のために既に労働者には様々なしわ寄せが及び、職場は荒廃しつつあるという報道もある。安く確実に郵便物を届ける、安全確実な金融・保険サービスを提供するという郵政事業本来の目的を達成する上で、民営化が最善の選択肢であることを説明された覚えはない。

 折しも、竹中平蔵郵政民営化担当大臣にまつわる疑惑が露見している。郵政民営化を宣伝するパンフレットを竹中氏の政務秘書官の友人が経営する会社に随意契約で発注した。ここには二重の問題がある。

 まず、行政府内部の方針に過ぎない郵政民営化について、それがあたかも絶対の善であるかのごとく、税金を使って宣伝するということの問題である。法案はあくまで案であって、それに対して国民は賛成、反対のいずれの方向からでも自由に議論できるはずである。また、国会は国民に代わって自由に議論し、法案を否決あるいは修正することができる。案に過ぎないものを国民に対して絶対の真理として宣伝し、税金を使って国民を洗脳するというのは行政府の傲慢であり、国民や国会を無視した所業である。政府広報とは、国会によって国民の意思として決定された政策を宣伝する作業であるべきだ。

 第二の問題は、竹中氏にまつわる腐敗の問題である。小泉首相、竹中大臣はいつも「官から民へ」というスローガンを唱え、自由な市場こそが善であると叫んでいる。市場における自由な競争が弱肉強食をもたらすという批判について、竹中氏は機会の平等が確保されていれば結果に不平等があっても仕方ないと反論してきた。自分の側近にコネを持つ会社が随意契約で政府の仕事を受注する氏、利益を追求することを恥ずかしく思わないのだろうか。たかが一件の発注という問題ではない。竹中氏がこの発注に問題はないと言い張っている以上、彼の言う官から民へというスローガンが、コネや特権が温存されるエセ市場経済を目指していることは明らかである。

 エセ市場経済の宣教師竹中大臣を辞めさせることによって、民営化の空騒ぎを終わらせる時である。野党の闘い、メディアの批判を期待したい。

(週刊金曜日7月8日号)