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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
民主党よ、どこへ行く
山口 二郎
 
 
 
 このところ、前原誠司民主党代表の迷走が目立つ。圧倒的な与党勢力の前に、野党としての戦い方を模索していることは分かる。しかし、今の民主党は、自民党と同じ方向を向いて、どちらがより過激なことを言うかという不毛な競争に踏み込んでいるように思える。たとえば、前原氏は中国が日米の離間を画策しているという趣旨の発言をしたり、韓国が日本に対して竹島問題を持ち出すこと自体がおかしいと発言したりしたと報じられている。また、野田佳彦国会対策委員長は極東軍事裁判におけるA級戦犯を擁護する趣旨の質問主意書を内閣に対して提出した。

 ブッシュ大統領訪日の際、小泉純一郎首相は日米関係が緊密化すればするほど、対アジア関係もうまくいくと述べて、アメリカに一体化する姿勢をより鮮明にした。これは、アジア近隣諸国との善隣友好関係を対米友好と並ぶ日本外交の柱とするという従来の基本方針を大きく転換するものである。たとえば、小泉首相の師匠である福田赳夫元首相が打ち出した福田ドクトリンでそのような路線が明確に示されていたのである。靖国問題に示されるような近隣諸国の神経を逆なでする挑発外交の延長線上で、日米一体化が謳われれば、日本はアジアにおける孤立の道をさらに走ることになる。

 民主党の役割は、小泉政権のこうした暴走に対して警鐘を鳴らし、日本国内に多様な意見が存在することを内外に示すことに他ならない。しかし、現実は正反対のようである。英語にstampedeという言葉がある。家畜の群れが我を忘れてどっと走り出す様を指す。自民党による憲法改正草案の発表、日米軍事同盟の深化、民主党の翼賛体制への参加、一連の事実をつなぎ合わせれば、今の日本政治ではこのスタンピードが起こっていると思われるのが当然である。日本の政治家の主観とは関係なく、日本政治のスタンピードは近隣諸国にとって脅威となる。

 これだけの巨大勢力を持った政府与党のやりたい放題を結果的に許すことは、決して野党の責任ではない。また、野党の仕事は、政府与党の向こうを張ってメディアへの露出に必死になることではない。一九九七年五月、私はイギリスに滞在しており、総選挙で保守党が大敗し野党に転落するのを目撃した。メージャー元首相の退陣後、保守党党首に就いたウィリアム・ヘイグは、若くて人気のあるブレア首相の向こうを張ってテレビに出たり、新聞の見出しを取ったりすることに腐心していた。この時、『タイムズ』にこんな論説が載った。大敗のあとで野党の影が薄くなることは仕方ない。こういう時の野党党首の仕事は、メディアに露出することではない。敗因を分析し、党の将来をじっくり考え抜くことこそ野党の仕事である。同じ論説を今の民主党にも贈りたい。

 どこの国でも政権交代への道は険しいものである。政権交代とは、現政権が行き詰まった時のための保険である。最大野党が政権党と同じことを言っていたら、形の上での二大政党制があっても、その保険が働かなくなる。前原代表には、記者会見で刺激的なことを言うよりも、小泉政治をどのように否定するか、じっくりと考え抜いてもらいたい。内政であれ、外交であれ、そのための素材はたくさんあるのだ。

(週刊金曜日12月2日号)