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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
スコットランドの経験から道州制を問い直す
山崎 幹根
 
 


スコットランドの首都にそびえるエジンバラ城

 道州制ということばには厳密な定義があるわけではなく、論者や政治的立場によって、実現しようとしている目的や価値、想定する政府機構などのしくみも異なる。最大公約数的な意味をいえば、国から大幅な行財政権限の移譲をうけるとともに、これを新たな広域地方政府を設置して運営する政治・行政改革の構想であるといえよう。

 そこで、道州制のありかたを考える際に、ひとつのモデルとしてしばしば言及されてきた一九九九年のスコットランド分権改革のプロセスを参照しつつ、道州制構想で追求すべき諸目的で、「デモクラシーの活性化」もまた重要であることを論じたい。


エジンバラ旧市街のロイヤル・マイル

 無論、長年にわたる独自の歴史、文化や、自明ともいえる強い地域アイデンティティをもっているスコットランドと北海道を単純に比べたり、スコットランドの事例をそのまま北海道に当てはめることは適切ではない。また、スコットランドでも、一九七九年の国民投票では、五一%の賛成多数を得たものの、四〇%の絶対得票率を得ることができず、改革が挫折したという経緯があり、独自性をもった地域であることが、広域地方政府の設立を必然的に可能にしたわけではない。広域地方政府をつくろうという改革が広がるためには、スコットランドでも国が地方のことを決めることの弊害が明らかになり、自治の重要性を市民が実感をもって共有する時間が必要であった。

 スコットランド分権改革の最大の意義は「デモクラシーの活性化」にあり、ロンドンにある国会とは別の議会をつくることによって、スコットランドにかかわる内政事項のほとんどを自らで決定し、運営することを目指したところにある。

 周知のとおり、イギリスでは七九年にサッチャー保守党政権が登場してから、多くの新自由主義的な改革が断行された。重厚長大型産業の縮小、炭坑の閉山、人頭税の導入、地方自治体の行財政権限に関する中央集権的な改革や自治体再編などがすすめられた。 これらの諸改革はスコットランドだけをねらい撃ちしたものではなかったが、一連の改革によってスコットランドは大きな打撃を受けた。


ハイランド地方の主要都市インバネス

 さらに、中央政府レベルでは八〇年代から九〇年代の後半までの保守党政権時代、スコットランド選出の国会議員をみると、労働党をはじめとする野党が多数を占める一方、スコットランドから選出される保守党の国会議員の数は年を追うごとに減少した。スコットランド市民は国会議員を選出しているのもかかわらず、中央政府レベルでの意思決定にスコットランドの声を反映することが困難である一方、他方では、スコットランドの社会を大きく変える改革が中央から一方的に押しつけられるという状況を生み出した。これは「民主主義の赤字(the democratic deficit)」とよばれた。スコットランドにおいて分権改革を実現させようとする運動が広がったのは、こうした「民主主義の赤字」という状況を打破して、「スコットランドのことはスコットランドで決めたい、そのために自分たちの議会を設置したい」という機運が盛り上がったという背景がある。

 戦後北海道において、スコットランドのような中央対地方の政治的な対立は、ごく一部の例を除いて顕在化しなかった。しかし、そのことは国と北海道との関係を律する現行のしくみに問題がないことを意味するものではない。戦後の北海道ですすめられてきたいくつかの「国策型」大規模プロジェクトが失敗してきた例をわれわれは知っている。


北海道とよく似た風景が見られる

 その要因は一概にいえるものではないが、一つには、国による事業に地域の意向が十分に反映されてこなかったまますすめられたしくみにあるのではないか。また、九〇年代の「官官接待」にあらわれたように中央集権的な行政制度と地方の中央依存構造がさまざまな問題を引き起こしてきた。だからこそ、北海道における自治の再生のためにさまざまな改革がとりくまれてきた経過も忘れてはならない。

 このように、国の行財政権限を移譲して、地方政府のコントロールのもとにおくという道州制改革には、北海道の「デモクラシーの活性化」という目的も重要である。そして、新たにつくられる広域地方政府の活動をどのようにチェックして、市民に対する説明責任を果たすのかを構想することもまた不可欠な課題である。

(北海道新聞夕刊文化面2005年6月20日)
(写真は筆者撮影)