“白夜”を英語でどう表現するか御存知だろうか。逆直訳のWhite Nightではないとは思っていたが、教えていただいて“なるほど”と合点した。Midnight Sun。ノルウェーに向かう途中の機中でたまたま『英文法の謎を解く』(副島隆彦、ちくま新書)を読んでいたら、Midnightは深夜と訳してしまうが、正確には夜の真ん中(Midの意)、つまり午前零時を指すのだとあった。そうか、この時間に太陽があるということは沈まない訳で、それで白夜になるのか。
“白夜”を日本人にも身近なものにしたのは森繁久弥さんの“知床旅情”だろう。“はるか国後(くなしり)に白夜はあける”。しかし、よく考えてみると、白夜は明けるという表現はややおかしい。さらに国後島は北緯44度にすぎず、白夜は生じない。ちなみにノルウェーの首都オスロが北緯60度、古都のトロンハイムが64度。本当の白夜はさらにクルマで2時間程北に行ったあたりから体験できる。
南北に長いという形状、そして面積は日本と似ているが、人口はわずか450万人。その大半が南部と北海沿岸に集中している。航空機から眺めても国土の多くは“ノルウェーの森”に覆われている。それは村上春樹の小説から受けるイメージのように希薄、それが青いフィヨルドと調和している。緑と青、森と水の自然配置が見事なのだが、その双方の見晴らしを求めて人々の家は建っている。その豊かさは、まさにオフバランスで、GDPでは測れない。
産業としてはやはり漁業と林業で、製造業が盛んなようには見えない。クルマも全て外国製だ。にもかかわらず豊かなのはなぜか。誰でも納得する第一の理由は、250年以上戦争をしていないことだ。第二次大戦でナチスに攻められた時は、町を破壊しないことを条件にあっさり降伏している。これも知恵だし、しかも勇気のいることだ。要はストックがある。100年以上前に先祖が建てた家に、おじいさんやお父さんの世代が家具を揃える。だから日本人のように住宅への投資も大きくない。
訪問当初、物価の高さに驚いたが、この理由もわかってきた。観光は漁業に次ぐ産業だが、観光客が接する諸物価だけが高いのだ。例えば外食。レストランで軽い食事を三人ですると一万円くらいになるし、ここで出されるビールは酒税の関係もあり1000円近い。ところが、一般物価はそうでもない。オスロ市内でCOOPの店を見つけ覗いてみると、食材は高くない。25%という高率の消費税を勘案すれば本体価格はむしろ安いのかもしれない。
日本人は、明治以来、豊かになるために“工業化”を目指した。それは、経済発展の理にかなっているように見えた。しかし、第一次産業でも国は豊かになれる。その場合、成長のペースは極めてゆっくりだが、肝心な事は戦争で壊してしまわなければよいのだ。
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