民主党にとっては、偽メール事件による混乱から体勢を立て直すには、小沢一郎氏を代表に選ぶしか、他に方法はなかったのであろう。今までの民主党は、若さ、新しさ、「政治家らしくなさ」を売り物として、既成の政治に飽き足らない層の支持を集めてきた。しかし、「らしくなさ」という点では小泉首相にお株を奪われてしまい、国民に何を訴えるかについて悩み続けてきた。
小泉首相の「らしくなさ」は、人々の世話をすることを否定する点に現れている。格差拡大や貧困など、小泉政治の弊害とされる問題についても、何が悪いんだと開き直る。小泉の言う小さな政府とは、安上がりだが冷淡な政府という意味である。本来政治の助けを必要としている人も多いはずだが、昨年の選挙を見る限り、その人々も小泉路線を支持している。かつての自民党による世話があまりにも不均等で、政官業の結合体にぶら下がった人の世話は手厚く見てもらえるのに対し、非正規雇用労働者、若者などはまったく世話をしてもらえない。どうせなら、世話をしない方向で公平にしてもらいたいというのが、弱者が小泉を支持する動機であろう。
こうした政治への関わり方は、政治の能力に対する深い絶望に基づいている。政府が我々のためによいことをしてくれるはずはない。ならば、一握りの人間のためだけに行っているよいこともやめてしまえというのが、弱者にとっての小さな政府論である。これに対して、今回小沢氏は地域を歩いて人々の生の声を聞くことを訴え、公平な社会を作ることを政策の柱とした。民主党の若手は、今まで地域を駆けずり回ることを自民党流の利益誘導政治の真似になると、嫌ってきた。小沢代表の下で攻守所を変えて、人々の声を背景にした暖かい民主党が、メディアの中で高邁な改革を唱える小泉政権に挑戦するという構図になることが期待される。政治という営みの能力を回復するためにも、こうした構図で国民に選択を問うことが必要である。
共同通信の緊急世論調査によれば、小沢民主党に期待する人は57パーセントに上るが、政権交代については実現するとは思わないと答えた人が73パーセントも存在した。とりあえずパンチ力のある野党としては期待したいが、政権交代を起こす清新なリーダーとまでは思えないというのが、現段階での民意であろう。
しかし、悲嘆するには及ばない。ポスト小泉の自民党だって人材難は目に見えている。小沢、菅、鳩山などの旧世代の政治家が民主党のみならず日本政治のためになすべきことははっきりしている。前原体制の時代、松下政経塾系などの陰で雌伏していたすぐれた中堅、若手の政治家を五年後のリーダーに鍛え上げることこそ、彼らの使命である。政権を問う総選挙は当分先である。まずは、小沢民主党の政権構想について、民主党議員に自らの言葉で語らせ、開かれた激しい議論から明確な政権政策をまとめていくために、全力投入してもらいたい。
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