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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
信頼できる政府を作る
山口 二郎
 
 
 
 小泉政治の終わりは、福祉国家の終わりと重なり合っている。このところ新聞には、高齢者医療費の引き上げ、住民税や国民健康保険料の引き上げなど国民に対する福祉の後退を伝える記事があふれている。自ら脳梗塞で倒れた経験を持つ医学者の多田富雄氏は、長期のリハビリテーションに対する保険適用の打ち切りという厚生労働省の新政策が、ますます寝たきりの病人を増やすことになると抗議している(『文藝春秋』7月号)。まさに、国ぐるみの棄民政策が始まったという印象である。同時に、村上ファンドのインサイダー取引疑惑は、福井俊彦日銀総裁の蓄財や宮内義彦氏率いるオリックスの暗躍をあぶりだした。小泉政権による構造改革なるものが、一握りのエリートに金儲けの機会を提供し、普通の国民に対しては生活の基盤を破壊するものであるという本質が、小泉退陣間際になってようやく明らかになったということである。

 小泉政治によって踏みつけられてきた国民が、ようやく痛みを感じ始め、政治に対する疑問を持つようになったことは、とりあえず歓迎すべき変化ではある。しかし、そうした反発や疑念を小さな政府路線からの転換、福祉国家の再建につないでいくためには、いくつものハードルを越えなければならない。

 棄民政策の根本には、財務省による財政再建至上主義がある。帳面上の財政赤字削減のためには、国民生活や地域社会がどうなってもよいというのが財務省の路線である。このまま地域が疲弊し、国民の生活苦が深刻になれば、さらに税金を納める能力もなくなり、悪循環に陥ると思えるのだが、今の財務省には「手術は成功したが患者は死んだ」というたとえが当てはまるようである。

 こうした政策を転換することは急務である。しかし、痛税感から政治への不満が高まっていく場合、議論が実りある方向に向かうとは限らない。「無い袖は振れない」という財務官僚と福祉の後退に怒る国民との間で押し問答が続き、具体的にどのような政策を採るべきかについて、議論が深まらない可能性もある。

 現在の政治状況において増税を唱えても、国民の支持を得ることは難しいであろう。歳出を徹底的に削減してから増税をすべきという政府・与党の主張が、良識的な市民にはもっともらしく聞こえるかもしれない。しかし、今の調子で社会保障や地方財政への支出を削減し続ければ、国民に取り返しのつかない打撃を与えることを私は憂慮する。そもそも日本の租税・社会保険料負担率は、約35%で、アメリカと並んで先進国の中でも最低水準である。西欧、北欧の福祉国家よりも20-30ポイント低い。官僚の乱脈を攻撃することは当然の国民心理であるが、この種の話は財政の量的問題を解決するわけではない。たとえば天下りや特殊法人の乱脈をなくすためには、キャリア官僚の早期退職をやめさせ、定年まで雇うことが有効な解決策となるが、そうなると人件費の削減に逆行する。

 国民生活を支えるために公的部門はどのような役割を担うべきか、そのために国民はどの程度の負担をすべきか、根本的な議論が必要になっている。小泉改革に対する全面的な対決のために、負担をめぐる論議を避けて通ることはできない。

(週刊金曜日7月6日号)