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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
極右と民主主義という対立軸
山口 二郎
 
 
 
 九月一日の夜、何とはなしにテレビのニュースを見ていると、安倍晋三が自民党総裁選挙に立候補を表明したことがトップで報じられていた。巷で「日本沈没」という映画が大ヒットしていることは、決して偶然ではない。リーダーに人を得なければ、日本は沈没の瀬戸際に立たされることになるだろう。また、国民のそうした不安は大きい。

 「闘い」と「美」が安倍政治のキーワードだそうである。この二つの結びつきは、大変不吉である。絵描き上がりで、『わが闘争』という書物を著したヒトラーと共通しているからである。安倍をヒトラーになぞらえるのはいささか飛躍であろう。それにしても、平然と美意識を振りかざす政治家は、民主政治には不適格である。何を美しいと感じるかは、人それぞれである。権力者が自らの美意識を実現するために政治を行うというのは、違う美意識を持つ者にとっては迷惑千万である。しかも、美意識の追求にはブレーキがない。醜いものやけがれたものを排除して何が悪いということになる。ユダヤ人虐殺も、ヒトラー流の美意識の表現だったのである。安倍は、ジェンダーフリー攻撃や靖国参拝に熱心である。これも安倍の美意識の表現であろうが、そんな美意識は日本の民主政治を滅ぼすもとになる。

 安倍は政権構想の中で、憲法改正を掲げた。これを真に受けて心配している市民も多いだろう。しかし、現状では憲法改正を実現することはきわめて難しい。安倍が連立与党の公明党を説得して改憲を発議するだけの力量を持っているとは思えない。まして、民主党は改憲論議のテーブルに着くよりも、安倍政権との対決姿勢を強めるはずである。その点は、小沢一郎の政治的冷静さを信頼できる。改憲論議や教育論議は、自民党を束ねるための戦術というものであろう。その点を踏まえて、安倍の改憲論に対して、冷ややかに、かつ徹底的に反論していく必要がある。

 小泉政治によって日本の社会は荒廃しており、安倍政権の前途は、茨の道である。この政権が長続きできるような状況ではない。来年の参議院選挙も、決して容易な戦いではないだろう。もし、安倍自民党が追い詰められれば、民主党に手を突っ込んで、政党再編を画策するかもしれない。集団的自衛権の行使や先制攻撃といったタカ派的な政策については、民主党の中にも共鳴する政治家は存在し、小沢体制の中で傍流に置かれている。安倍と松下政経塾上がりのタカ派が軽挙妄動連合を組むというのも、決して荒唐無稽なシナリオではない。民主党からタカ派がいなくなれば、大いに結構なことである。

 その時には、タカ派連合に対決して、民主派の大連合を作る必要がある。国内的には、小泉政治で荒廃した日本社会に公平と平等を回復する、対外的にはアメリカ一極支配と距離を置き、アジアとの信頼を再構築するという二点で、民主派は協力すべきである。さしあたり、野党には十一月に予定されている沖縄県知事選挙で、その予行演習と成功体験を味わってもらいたい。沖縄では、糸数慶子参議院議員を擁立する方向で非自民がまとまりつつあるとのこと。沖縄から安倍政治への反撃の狼煙を上げてほしい。

(週刊金曜日2006年9月8日号)