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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
安倍政治への新たな危惧
山口 二郎
 
 
 
 安倍首相は組閣を終え、国会での初の所信表明も行って、本格的に出発した。所信表明を見る限り、「戦後レジームからの脱却」という基本理念はむしろ薄められている。また、持論である集団的自衛権の行使についても、具体的な事例に即して研究するという表現にとどめていた。アジア諸国との信頼回復や再チャレンジに向けた政策など、やや穏健な路線を打ち出そうとしている印象である。これらのソフト路線の欺瞞性を批判することは容易である。そうした議論は、これから国会で大いにしなければならない。ただ、安倍を単なるバカな右翼と切り捨てるだけでは戦いにならないという状況が現れつつあることに、注意する必要がある。

 安倍政権の発足を祝うかのように、『正論』、『諸君』などの狂信的右翼雑誌は、安倍ブレーンといわれる論者を動員し、安倍に中国との喧嘩をけしかけ、憲法や教育問題について国家主義路線を明確にするよう迫っている。安倍がこうした主張を真に受けて、観念的な強硬路線をとるならば、話は簡単である。戦いの構図は単純であり、民主主義を守るための大連合という議論が分りやすくなる。

 しかし、安倍政権を支える官僚や一部の政治家は、バカばかりではない。たとえば、安倍は、最初の外遊先として韓国、中国を選び、小泉時代に破綻した東アジア外交を修復しようとしている。狂信的な自己中心主義で、政権を運営していくことができないことくらい、ある程度の知性を持った人間には分かる話である。内政、外交両面で小泉路線をある程度修正しなければ、安倍政権は行き詰まるに決まっている。極右と思われていた為政者が少し中間によれば、中間的な市民はこれを歓迎し、右派は渋々ついてくるという構図で、政権の支持基盤は安定する。安倍以上に右翼にとって好ましい首相は期待できないのだから、右翼も安倍を支持するしかないのだろう。

 ある程度穏健化した安倍政権とどう対決するか。最も重要な課題は、見せかけの穏健化の虚構を批判することである。小泉路線を修正すると言っても、安倍の政策は思いつきの域を出ていない。彼自身、これから打ち出すべき政策の中身が十分わかっていない。彼は、再チャレンジはセーフティネットではないと述べたことある。では、これはいったい何を意味するか、そのためにはどのような政策、予算配分が必要かを具体的に議論して、安倍の空虚さを浮き彫りにすることが必要である。

 また、近隣諸国との関係修復にしても、安倍の歴史観が是正されなければ、本当の信頼回復はあり得ない。彼は、総裁選挙の最中に、日本の侵略戦争は軍国主義指導者の罪であって人民の罪ではないという日中国交回復時に中国から示された歴史認識を否定する発言をした。では、これに代わってどういう認識を示すのか、それで中国国民、さらには世界各国を説得できるのか、議論の続きを突き詰める必要がある。

 野党やメディアが付け焼き刃の穏健化を突き崩せないようなら、知性の欠けた首相でも長持ちする可能性がある。ここは安倍を侮らず、周到な論争を仕掛けるべきである。野党各党は、安倍政治の危険性を認識した上で、連携して事に臨んでほしい。

(週刊金曜日10月6日号)