昨年は、戦後民主主義の土台が崩された一年であった。教育基本法改正、防衛省の誕生など、日本の政治がかろうじて踏みとどまっていた一線を越えた感がある。しかし、嘆いている場合ではない。今年は、統一地方選挙、参議院選挙という大きな選挙も予定されており、民主主義と平和を守るための反転攻勢を始めなければならない。
年末から安倍政権には、本間正明政府税制調査会長や佐田玄一郎行革担当大臣の辞職という不祥事が続出した。さらに年明けの新聞では、松岡利勝農水大臣の口利きをめぐる疑惑が大きく取り上げられている。発足早々安倍政権はすでに満身創痍の状態であり、勢いを欠いている。野党には、通常国会で政権幹部の疑惑を徹底的に追及して、安倍政権のいかがわしさを浮き彫りにしてもらいたい。
このような展開は、安倍政権の発足時からある程度予想されていた。世代交代とか、チーム安倍とか言いながら、実際にはこの政権は安倍を取り巻く「恐るべき子供たち」の同好会である。権力を担うことへの懼れや緊張を持たない連中が政治をおもちゃにすれば、このような帰結に至るのであろう。
私事で恐縮だが、昨年末岩波書店から『強者の政治に対抗する』という対談集を上梓した。これは、加藤紘一、鈴木宗男など小泉政治と対決している各党の論客や政治に対して鋭い発言をしている小説家との対談を一冊にまとめたものである。この本を改めて読み返してみて、「自民・公明連立」対「野党」という対立構図が、今の政治における本来の対立軸と重なっていないことを痛感させられた。財界など強者の利益を尊重し金儲け優先の社会を作るのか、人間を尊重した平等な社会を作るのかが、国内政治における最大の対立点である。しかし、自民党も民主党もこの問題については対立する者同士が雑居している。いささか自己宣伝めいて申し訳ないが、この本に登場した政治家を束ねれば、次の政党再編のイメージが浮かんでくるように思える。
しかし、若手の政治学者にこの本の感想を聞くと、自民党政治の最も質の悪い部分と既存野党の結合という否定的なイメージが結構返ってきて、私としてはがっかりした。彼らは私と同様政治を深く観察しているが、それ故に新党大地や国民新党が旧来の利権配分を志向する政党にうつるのだろう。実際には、鈴木や亀井静香は野党としての闘いぶりでも、生身の人間の困窮に対する配慮でも、民主党よりもよほど野党らしいと私は思う。
十数年前から生活者の政治といううたい文句がはやるようになった。かつての生活者は都市に住み、ある程度の豊かな生活を謳歌する市民のイメージであった。しかし、今の生活者は、長時間労働にあえぎ、社会保障切り捨ての不安におののき、子育てや親の世話に悩みを抱える人々である。まさにこうした生活を支えることこそが政治の役割であり、そこを共有する政治家が強者優先の政治に対抗することは当然の成り行きである。これに、テロによって家を焼かれた加藤紘一氏が加われば、大きなインパクトを持つに違いない。
政治の世界には選択肢は少ししかない。その中でよりましな選択肢を見極めるのが市民の課題である。政治決戦の年、悔いのない選択をしようではないか。
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