●報告
2月27日から3月1日までの3日間札幌アスペンホテルにおいて、上記ワークショップが開催された。現在高齢化に対応した年金改革が各国においてほぼ同時進行しており、こうした現象を政治学的に比較検討するのが、今回のワークショップの課題であった。
対象国(一部については地域)は、ヨーロッパからイギリス、フランス、ドイツのほかにスウェーデン、イタリア、スイス、北米からアメリカとカナダ、東アジアから韓国、台湾、シンガポール、日本である。網羅的とまではいかないが、年金改革についてヨーロッパ、北米にとどまらず、東アジアをも対象とする会議が開催されることは少なく、アジアを含んだ福祉国家研究への一歩となったのではないかと自負している。
またP.テイラー・グッビィ(イギリス)、ケント・ウィーヴァー(アメリカ)といった福祉国家研究の泰斗から、現在中堅研究者のなかで最も精力的に論文を生産しているジュリアーノ・ボノーリやカレン・アンダーソン、さらに近い将来福祉国家研究の中心を担うであろう若手研究者まで、幅広い世代の研究者を招いた結果、異なる研究世代から制度改革の現状とそれを規定する要因や政治的経済的背景について多様な意見が提出され、実りある活発な議論が可能となった。
最大の収穫は、従来逸脱例として、十分な分析がなされないまま「儒教型モデル」などとレッテルを貼られることが多かったアジアの年金制度について、欧米の研究者と同様の研究視点から分析がなされ、高齢化への社会政策対応には制度的規定性と「非難回避の政治」と呼ばれる政治戦略が共通にみられることを確認したことである。もちろん、このことが、東アジアにおける独特の福祉モデル構築の可能性を否定するものではないが、今後の研究戦略としては、まず共通点を洗い出す作業から一定の年金改革の政治に関するモデル構築を行い、しかる後に欧米とは異なる東アジアの福祉モデルの可能性を探るということになろう。
なお今回のワークショップの成果は、わが国の年金改革が進行中であることを鑑み、早急に翻訳出版する予定である。さらに若干の手直しによって全体の統一性を確保できれば、英語での出版も可能なレベルの報告が集まっていると考えるので、これについても今後検討し、作業を進めていく。
最後になるが、各参加者はワークショップの質の高さ、円滑な運営、暖かいもてなしに感銘を受けていた。議論への集中とリフレッシュメントが可能になったのは、ひとえに支援スタッフの効率的かつ柔軟、献身的な対応に負うところが大きい。記して深謝したい。
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