今回のフランスとドイツを中心とした戦争回避の動きは、米国の一極支配への無力感が漂う中で、ブッシュ政権の単独行動主義、先制攻撃ドクトリンなどに対する一つの対抗軸として出てきたことに意味がある。「古い欧州」の成熟した判断力と言いたいところだが、実情は複雑だ。
独仏枢軸と呼ばれる両国の関係は常に同床異夢で、今回の提携も便宜的な色彩が濃い。ドイツ政府には選挙向けの人気取り的側面があるが、国民の中に非戦論者の厚い層があり、今さら方向転換はできまい。民衆の反戦気分は同じでも、フランス政府は「手段を尽くした後なら戦争もやむなし」という考え方だ。
フランスには独自の外交を追求して国の威信を高めようとする伝統に加え、外交で存在感を示すことが、例えばイラクの戦後処理での発言権の確保にもつながるという冷徹な計算もある。だから、米国が同調者を従えて勝手に開戦に踏み切れば元も子もない。当然落としどころを探るはずだ。独仏提携がどこまで持つかは予断を許さない。
戦争に突入しても、回避できたとしても、しこりは残るだろう。特に、NATOのトルコ防衛支援策を拒否したことで、独仏両国は一線を越えた。亀裂は深刻でNATOは結成以来の危機に立ったと言える。
独仏は一枚岩ではなく、中ロを含む「反戦同盟」も強固ではない。それでも独仏の行動は、欧州民衆の戦争への懐疑に根ざしていること、さらにNATO、国連安保理などの制度的回路を利用して、米国主導の戦争に待ったをかけられないまでも、少なくともその開始を遅らせる可能性を示した点で評価できる。
|