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「大都市圏と地方における政治意識」世論調査報告
 
 
EU憲法と仏国民投票:重みある大国の否決 統合への気運に冷や水
遠藤 乾
 
 

 仏国民投票はEU憲法に明瞭な「ノン」(否)を突きつけた。憲法案以前の合意は有効なので、半世紀にわたり積み上げてきたEUは崩壊しないが、今回提起された問題は軽くはない。

 憲法案は@従来のEU諸条約を簡素化、人権規定を挿入しA各国議会の役割を強化するなど民主化を試みB拡大によって埋没しがちな大国を救済、その影響力を強めCEU首脳会議の常設議長やEU外相の新設により域外に対し一体化を図るものだった。

 自国の影響力を内外に確保したいフランスにとっても結構な試みにみえるが、仏国民からは多くの批判を浴びてきた。

 問題は三つある。一つは民主主義。憲法で強化されるEUは、人民主権や共和制の伝統を重んじる仏国民にとって、ますます制御外の代物と映る。二つ目は加盟国拡大。国民の関与が希薄なまま進行した上、移民流入と雇用への不安につながった。三つ目が自由化。憲法と直接には関係なくとも、市場・通貨統合の際に見られたEUの新自由主義的な傾向ゆえに、福祉や連帯を重視する国民が疑念を深めた。

 加えてシラク大統領やラファラン首相の不人気、一向に収まらぬ高失業率がノン陣営にエネルギーを与えた。とりわけ労働者の雇用不安を背景とした社会党の内部対立は決定的だった。

 仏のノンにより、EU憲法案は急速冷凍されよう。六月一日のオランダ国民投票が否決で続くとなると、いよいよ冷凍庫の奥底である。

 EUには、過去の条約改正における国民投票でデンマークやアイルランドが否決した際、若干修正の上で再投票にかけ、切り抜けた歴史がある。しかし今回は、憲法というシンボルが対象であり、またフランスという原加盟国、大国による否決で重みがまったく異なる。他に大きな統合構想のないEUはしばし停滞を余儀なくされよう。

 全面的な再交渉の余地はない。七月にEU議長国となる英国のブレア首相は、リスクの高い自国国民投票を回避し、批准自体を凍結する可能性が高い。その間、仏の指導力も、イラク戦争時に反米をバネに高まった外交安保統合の気運も低下し、さらなる拡大や予算審議も難航するだろう。

 ただし、これまでEUが積み上げた法体系、慣行は強靭である。長い目で見れば、EUと加盟国との間に成立している重層的な統治体制のもと、憲法案が、部分的にでも解凍される可能性はゼロではない。

(北海道新聞5月31日)