●要約
ミシンという「もの」を切り口にして、日本の近代性、階級、ジェンダーの概念やプロセスを考えたい。このアプローチには4つの領域がある。一つ目は、世界最初の多国籍企業の一つであるシンガー社の日本展開から始まる、供給の歴史・「作る側の物語」。2つ目は、戦前には上流階級の驕奢品であったミシンが戦後一般家庭へと普及する、需要の歴史・「使う側の物語」。3つ目は、高価であったミシンが月賦販売の先駆けとなったこと、この月賦販売制度への評価が、ジェンダーの問題も内包しつつ、日米で異なり日本でより好意的であったことなどを発掘する、交渉の歴史・「両者を結ぶ物語」。4つ目は、ミシン販売を超え月賦販売制度がその後、割賦販売、チケット販売、クレジットカードの各種制度と発展し、それらに対する国家の規制の歴史とその結果などを検証する、国家と経済の歴史・「消費を規制する物語」である。今回の報告は中間段階のものであるが、このような切り口を通じて日本の同時代性・後進性・差異を合わせて論じる研究としていきたい。(寺田記)
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