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<書評>「グローバル・シティ」ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む」
  サスキア・サッセン著/伊豫谷登士翁監訳、大井由紀・高橋華生子訳(筑摩書房)

再生産される都市の権力と格差

 六本木にそびえたつタワーのすそ野に、野宿用のテントが林立し、24時間のネットカフェが流行る現代の都市は、いったい何を物語っているのだろうか。

 著者のS・サッセンは、都市と金融に着目した射程の広い理論枠組みによって、早くからこうした現象をグローバル化の特質として言い当てきた。その研究はいまも燦然と輝いている。

 この本の起源は、1991年に出た原著にある(2001年に大改訂)。すでに名著の誉れの高い本書が、今回良質な日本語で読めることになったのは喜ばしい。

 のみならず、彼女の都市論(+世界政治経済論)は、ますます有意になりつつある。というのも、現代の人類は史上はじめて、都市に過半の人間が住む時代を生きており、東京やニューヨークなみの世界都市が他にも誕生し始めているからである。

 グローバル化は、世界を均質化し、同時に差異化する。製造業が地理的に拡散し、金融業がグローバルな規模で展開するなか、中枢はそれらを計画・指揮・管理する機能に特化し、東京やニューヨークなどの世界都市(ネットワーク)に集中する。これが周辺に対し中心を再強化する一方、外部化されたサービスは低賃金労働に委ねられる。この過程で絶えず政治・社会的に再生産されているのが、権力と格差なのである。

 このサッセンの都市論は、一見別のテーマに映る移民の現状を説明する際にもカギを提供する。高度専門職に就く「勝ち組」のDINKS(子なし共働き)夫婦が高収入を得る脇で低賃金労働に携わるのは、今や国内の「負け組」だけではない。国外からの労働力は、都市と都市のネットワークの中で、そのすそ野を埋めている。

 巨大なビルの清掃、炊事洗濯などの家事、はたまた育児や高齢者介護などのケア労働など、国内の労働者が不足ないし忌避するサービスは、次から次へと外国人の労働者へ委ねられてゆく。こうして、現代の新たな移民が再生産されていくのだ。

 都市の空気は自由にする。広大なすそ野を不自由にしながら。

(外交フォーラム 7月号)

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