『技術基準と官僚制:変容する規制空間の中で』(岩波書店、2016年5月18日)

  • 内 容

     規制の政策プロセス、制度、運用、様々なアクター、各々の規範、態度、アイディア、コントロールの多様なメカニズム。それら全てが「規制空間」というものを構成しているとしよう。

     この規制空間において近年見られる規制の国際調和化、技術情報の分散化、官民関係の多元化といった動きは、ますます政府・行政機関の規制活動の自由度(裁量)を制約するようになっている。それと同時に、政府・行政機関は、行政需要の拡大や責任追及気運の高まりといった社会的要請の下にも置かれている。

     本書では、行政機関が、このようなジレンマ状況の中でいかなるツールやメカニズムを用い、どのように能動的に規制活動を行おうとしているのかを、我が国の産業を代表する3品目、すなわち木造建築、自動車、電気用品の規制策定・実施プロセスの事例研究により明らかにする。

     このように、官民が相互に作用・依存し合う規制空間の変容と、その中での行政機関(官僚制)の裁量行使戦略、さらにそれらの関係を明らかにすることは、現代の規制空間の構造を知る上で極めて重要である。

     その際、本書では、行政機関と民間アクターとの官民関係や国内外の規制機関間関係、民間アクター間関係のみならず、その中での規制行政機関による課題(アジェンダ)の再フレーミング、規制策定の場やプロセスの管理、官民が参画する規制システムの規制(「メタ規制」)といった具体的な裁量行使戦略を実態から見出し、それらに理論的にもアプローチする。

  • 特 長

     まず、3つの規制分野それぞれについて、国際的な規制策定から国内での規制実施にまで至る規制システムを幅広く描写・分析しているという点がある。

     それと同時に、本書では、規制システムの構造が当該分野の産業構造等、社会的諸条件とどういった関係に立つかといった分野横断的な検討をも行うことで、行政学研究としての一体性・体系性を保つよう努めている。

     また、本書では、規制行政や官民協働に関する先行研究を包括的に再検討した上で、規制空間の構造を分析する新たな視座の構築を試みており、その点において理論的な意義もある。

     そして何より、変容する規制空間の中での官僚制の裁量行使戦略を明らかにした点を本書の意義として強調したい。すなわち、規制行政機関による技術情報の能動的収集、外圧や民間における競争・対立関係の利用、規制課題の再フレーミング、ステークホルダーの範囲の操作といった手法について、臨場感ある形で規制の実態を描いている。

    ※ 関連記事:「改めて「自治」について考えた日(鋭角鈍角)公益社団法人北海道地方自治研究所北海道自治研究(2018年8月/第595号)』、p.1.

  • Acknowledgment

    ・本書は、2009~12年度 科学研究費補助金(特別研究員奨励費)と2013~16年度 科学研究費補助金(若手研究B)の助成を受けた研究の成果の一部をまとめたものです。

    ・常森裕介先生には、『社会保障研究(Vol.7, No.1)』(国立社会保障・人口問題研究所、69-72頁)の学術雑誌論文「(社会保障と法政策)要指導医薬品をめぐる規制の概要と課題」にて、本研究を取り上げていただきました(2022年6月)。

    ・杉本泰治先生には、『安全工学(Vol.61, No.2)』(特定非営利活動法人安全工学会、81-88頁)の総説「安全確保の規制行政の理解:エンジニアに知ってほしいこと」にて、本書を取り上げていただきました(2022年4月15日)。

    ・原田 久先生には、『行政学〔第2版〕』(法律文化社)にて、本書を取り上げていただきました(2022年2月16日)。

    ・山谷清志先生には、「政策と行政のアカウンタビリティ(序章)」『これからの公共政策学2:政策と行政』(ミネルヴァ書房)にて、本書を取り上げていただきました(2021年5月1日)。

    ・三上真嗣先生には、「ODA評価ガイドラインの行政学的考察」『日本評価研究(第21巻・第1号)』(127-140頁)にて、本書を取り上げていただきました(2021年3月31日)。

    ・杉本泰治先生には、『安全工学(Vol.59, No.2)』(特定非営利活動法人安全工学会、114-122頁)の資料「科学技術と倫理の今日的課題:第5講 三元観にもとづく福島原子力事故の原因究明」にて、本書を取り上げていただきました(2020年4月15日)。

    ・杉本泰治先生には、『安全工学(Vol.59, No.1)』(特定非営利活動法人安全工学会、39-47頁)の資料「科学技術と倫理の今日的課題:第4講 科学技術にかかわる安全確保の構図」にて、本書を取り上げていただきました(2020年2月15日)。

    ・金井利之先生には、『行政学概説』(NHK出版)にて、本書を取り上げていただきました(2020年2月1日)。

    ・佐野 亘先生には、「手段:政策のツールボックス(第10章)」『公共政策学』(ミネルヴァ書房)にて、本書を取り上げていただきました(2018年6月11日)。

    松田憲忠先生には、『公共政策研究(第17号)』(日本公共政策学会、122頁)にて書評をしていただきました(2017年11月30日)。

    坂本治也先生には、『レヴァイアサン(第61号)』(木鐸社、157-161頁)の書評論文に取り上げていただきました(2017年11月15日)。

    日本公共政策学会から、2017年度の学会奨励賞を頂戴しました(2017年6月17日)。

    早川有紀先生には、『年報行政研究(52)』(日本行政学会、144-147頁)にて書評をしていただきました(2017年5月20日)。

    秋吉貴雄先生には、「先端行政学研究会」にて書評をしていただきました(2016年10月28日)。

    川手 摂先生には、『都市問題(第107巻 第10号/2016年10月号)』(公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所、114-115頁)にて書評をしていただきました(2016年10月1日)。

  • 関連イベント1

    ●「どうする?どうなる?北海道のローカル線」(2021年7月15日午後開催)

    => 関連記事:「広域自治体のローカル線運営:フランス版リエゾンのメリット」、査読無、寄稿、2021年5月6日、『開発こうほう(2021年5月号/通巻693号)』、pp.30-34.

    => 関連記事:「北海道のローカル線運営:比較行政学と交通計画学の融合Reconsidering Regional Railway Management in Hokkaido from a Comparative Perspective)」(髙松淳也先生小林大祐先生岸邦宏先生と共著)、査読無、論文、2022年3月31日、『年報 公共政策学Annals, Public Policy Studies)(第16号)』、pp.161-185.

  • 関連イベント2

    ●「自動車損害賠償保障制度:自動車事故対策と民商法・公共政策の交錯」(2021年7月20日午後開催)

    => 関連記事:「ウェビナー「自動車損害賠償保障制度:自動車事故対策と民商法・公共政策の交錯」」、査読無、レポート、2022年3月31日、『年報 公共政策学Annals, Public Policy Studies)(第16号)』、pp.331-332.

  • 関連イベント3

    ●「文理融合政策事例研究:行動変容のための「ナッジ」について」(2022年5月16日午後開催)

    => 関連記事:「ウェビナー「行動変容のための「ナッジ」について」」、査読無、レポート、2023年3月31日、『年報 公共政策学Annals, Public Policy Studies)(第17号)』、pp.149-150.

  • 関連イベント4

    ●「地域医療ネットワークの拡充に向けて~医療情報化の現状と展望~」(2023年3月3日午後開催)