連載ほか Serial Articles & Activities


HOP! for Air France at Lyon (Oct. 2019)

公益社団法人日本港湾協会『港湾』:読者の声(2024年度)

12.3月号:様々なニーズに応える研究・技術開発
 3月号の特集で紹介されていたSIP(「戦略的イノベーション創造プログラム」)に関して、私はその創設経緯を総合科学技術・イノベーション会議における議論を追って見てみたことがあります。SIP、そして現在の科技イノベ政策には、社会課題の解決に向けて、従来の省庁縦割りの弊害を打破するだけでなく、相乗効果を生み出せるかが問われており、特集からはその着実で有望な取り組みがよく分かりました。

 ①研究、②製品開発、③事業化、④市場化の段階を踏んで社会実装されていく科学技術に関しては、特別寄稿で紹介されている「死の谷」に加え「魔の川」(①~②)と「ダーウィンの海」(③~④)があり、それらを官民それぞれの強みを総動員してどう乗り越えていくのかが科技イノベ政策の課題です。中長期のPORT2030への期待も膨らみます。

 特集では、港湾インフラの維持管理・点検技術の研究開発も取り上げられていました。インフラの維持管理・点検を怠ると、危険なインフラが使われ続け、多くの人命や財産が失われる恐れもあります。そうした社会課題としての重要性にもかかわらず、財政的制約もあって、一部では対応が「先送り」になっている現状があります。

 「先送り」の全てが悪いとは言えませんが、行動経済学では、賢明ではない「先送り」は、目先の負担を遠い未来の負担よりも過大に捉えてしまう、人間の意思決定バイアスによって起こるとされています。だとすると、インフラの維持管理・点検の負担を軽減しマネジメントを効率化・合理化する先進技術は、賢明ではない「先送り」を防ぐのに役立つのではないでしょうか。

 さて、私は今年度1年間、読者モニタを務めさせていただきましたが、今回が最後となります。本誌は港湾の歴史と最新動向を知る上で極めて高い価値を有し、大変重要な社会的意義を持っていると私は思います。今後ますますのご発展をお祈りするとともに、私自身も引き続き本誌に注目してまいります。


TGV at Bordeaux Saint-Jean (Feb. 2019)

11.2月号:港湾緑地を核としたみなとまちづくり
 2月号の特集では、「港湾緑地を核としたみなとまちづくり」、特に「みなと緑地PPP(港湾環境整備計画制度)」が取り上げられました。この制度は、港湾緑地に施設を整備しそこから得られる収益を港湾緑地のリニューアルに還元する民間事業者への港湾緑地貸付を可能にするもので、2022年12月に創設されました。

 なぜこれまで民間事業者への港湾緑地貸付ができなかったのかに私はまず疑問を抱きましたが、それは、行政財産である港湾緑地については、原則として貸付や私権設定ができなかったことによる(土田「港湾緑地を核とした「みなとまちづくり」」)とのことでした。民間事業者が港湾緑地に施設を整備するには、上限5年間という短期間の使用許可を受ける必要があったのです。

 「設置等許可」の制度を活用した横浜市港湾局独自の先進的な取組(事業期間は10年以内(更新可))も、手続の煩雑さなどのため全国展開が難しかった中で、港湾法改正により、民間事業者への港湾緑地貸付(事業期間は概ね30年以内)が可能になりました。私は、それが都市公園の公募設置管理制度を参考にしたものだという点を興味深く思うとともに、ある港湾実務者の方から伺った「港湾法は時代のニーズに応じて進化していく」という含蓄ある言葉を想起しました。

 「みなと緑地PPP」を活用した神戸港と大阪港の取組、その案件形成に向けた博多港、那覇港、佐世保港の取組はいずれも魅力的でしたが、私は、一連のプロセスにおいてサウンディング(市場調査)が1つのカギになるのではないかと考えました。

 本文中で「事業者の進出ニーズを把握するためのもの」とされているサウンディングは、いわば公民間の対話型事前協議で、従来の競争入札などと比べると、公民連携による公共事業の質と実現可能性を高めうるものと私は理解し、注目しています。この意味でも、港湾法ないし港湾行政は時代のニーズに応じて進化していると言ってよいのではないでしょうか。


Port of Matsuyama (Jan. 2025)

10.1月号:循環経済において港湾が果たす役割
 1月号の特集から、循環経済へと移行していく上での港湾の重要性がよく分かりました。

 テーマは極めて多岐に渡りますが、例えば「処理事業者の資源循環の取り組み」のインタビューでは、従来は廃棄物を発生地域の近隣で処理することが一般的だったのに対し、現在では高効率技術を備えた処理場に広域から廃棄物を集約し、処理・リサイクルすることが(たとえ輸送コストがかかっても)最適となる場合が多いことが紹介されていました。そうすると、その拠点となる港湾やそれを繋ぐ船舶への期待が高まります。特集には廃棄物などの輸送船の写真も多数掲載されており、マリントラフィックのウェブサイトで船の往来をよく見ている私にとっては、イメージを抱きやすかったです。

 船舶は、「2024年問題」の影響で、トラックなどからのモーダルシフト先としても注目されていますが、私はシップリサイクルにも関心があります。特集では、廃棄物の越境移動を制限する国際条約が厳格化されているとありました。他方で、国土交通省のウェブサイトによると、日本が提案し長年に渡り国際的な議論を主導してきたシップリサイクル条約が、いよいよ今年6月に発効するとのことです。こうした条約が循環経済にどのような意義を持つのか、気になるところです。

 さて、「港湾法を読む:公共施設をめぐる法制度の理解のために」も、毎号学びの多い連載です。今号の「港湾の適正な管理運営等に関する措置」では、戦後日本の港湾管理制度が地方分権的であったため、港湾法にはあえて国の(一方的でハードな)関与に関する条文が設けられてきたものの、最近では、国と地方の港湾管理者の(双方向的でソフトな)協働に関する条文が拡充されていることが解説されていました。

 それ自体の歴史的経緯から特殊性を持つ港湾法が、中央と地方が「対等・協力」の関係であるべきとする分権改革の理念に適合する形で変化してきている点は、とても興味深く感じました。


L'université de Bordeaux (Jul. 2019)

9.12月号:開発保全航路指定50年
 12月号では「港の風景」写真コンテストの審査結果が発表されており、楽しく拝見しました。どれも素晴らしい作品で、応募のハードルは高いですが、入選作品からの学びは多く、私自身もいつか挑戦してみたいと思っています。

 同号の表紙には、美しい夜景の来島海峡の写真が掲載されています。実は先日、その来島海峡をバスで渡る機会がありました。尾道と今治を結ぶしまなみ海道沿いには造船所があり、建造中の巨大船を間近で見ることができて圧巻でした。また、橋々を渡る多くのサイクリストたちも見かけました。ここが今や世界に誇れる名所になっていることをうれしく思い、この絶景を見に来るよう知人にも勧めているところです。

 この来島海峡も、12月号で特集された開発保全航路となっています。私自身、開発保全航路というものをこれまで知らなかったのですが、その特長は、都道府県の境や利害を越え、広く不特定多数の者の利用に供されたり、国際航路としての利用に供されたりする航路の開発と保全を、国自らが行うとしている点にあると理解しました。

 一口に開発保全航路と言ってもそれには多様性があり、16~17頁の地図や21頁の一覧表を見ると、全15航路がそれぞれ異なる特徴を持っていることが分かります。例えば東京湾中央・関門・中山水道の各航路のように、国際的・国内的な海上輸送ネットワークの要所となる航路がある一方で、広島・松山間の高速船がスピードを落として通過する音戸瀬戸航路や、愛媛県南予地方の奥南・船越・細木の各航路のように、延長が230~1,000メートル、幅が20~60メートル、水深が3~5メートルという小規模の航路も含まれています。各航路が各地域の歴史的文脈の中で重要な役割を果たしており、それらの開発と保全を国が担うことの意義深さを感じました。

 航海の安全や交通の利便性、自然環境への配慮などに加え、安全保障の観点からも、今後この開発保全航路に注目していきたいと思います。


Kure Port (Jan. 2025)

8.11月号:協働防護:港湾の気候変動への適応
 スペイン東部で多くの死者を出した洪水に思いを馳せながら、港湾の気候変動対策、例えばカーボン・ニュートラル・ポートの特集だと思って手に取った11月号でしたが、実際にはそのもう一歩先にある極めて重要な課題、すなわち「港湾は気候変動にどう適応していくか」というテーマの特集で、大変興味深く拝読しました。

 私が専攻する行政学でも、気候変動を含む環境変化への行政の適応は大きなテーマとなっています。例えば、技術革新(イノベーション)を阻害しない安全・環境規制を実現するにはどのような仕組みが必要かという課題があり、これには港湾施設の技術上の基準の改正を通じた取り組みが参考になりました。

 具体的には、要求性能(省令)に「推算値をもとに、気象の状況及び将来の見通しを勘案して」という文言を加えることにより、将来にわたって気候変動に対応した施設性能を照査できる仕組みが導入されています。これにより「性能」基準に適合する「仕様」を官民が知恵を出しあって考案することになるため、まさに「協働防護」が実現することになります。

 また、「事前適応策」と「順応的適応策」という考え方や、これらを「施設の供用性や構造的な特性等に応じて、部材や工種毎に適切に組み合わせ、最適な適応策を選択する」という手法は、他分野にも応用可能だと思われます。

 さらに、気候変動のように、その発生や影響の程度に不確実性がある環境変化への対処法としては、「予防的措置」(環境変化の因果関係が十分に証明されていなくても規制措置を講じるという考え方)や「ノー・リグレット・ポリシー」(環境変化が実際には起こらなかったとしても講じる価値がある対策だけを講じておくという考え方)があります。これらはそれぞれ短期・中長期の費用と便益の両面で一長一短があるため、実施に際しては利害関係者間の綿密なコミュニケーションと合意形成が不可欠ですが、今後ますます重要な対処法になるものと思われます。


Sapporo Snow Festival (Feb. 2025)

7.10月号:作業船が担う港の未来
 私は、港湾を含め、海に関連する行政や政策を研究している関係で、先日、苫小牧市で開催された「海事立国フォーラム」に参加しました。フォーラムのテーマは、ゼロカーボン社会の実現。国際海運や半導体産業、燃料供給会社などの脱炭素化の取り組みのほか、会場では、再生可能エネルギーやローディング・アームの開発製造や国際海運の環境規制の調査研究に携わっておられる専門家の方々の刺激的なお話も伺え、大変勉強になりました。

 ところで、本『港湾』誌において、今回、港湾工事の作業に携わるもの、という限定が入っていたとはいえ、船舶が特集されたのは珍しいのではないでしょうか。というのも、政府で港湾行政を所管する港湾局と、船舶や船員に関わる行政を所管する海事局の間には、私が見たところ「縦割り」があり、これまで港湾と船舶とを関係付ける形で議論されたことは、それほど多くなかったのではないかと思われるためです。

 今でこそ両者は同じ国土交通省の内部部局ですが、港湾局はもともと内務省にあったのに対し、海事局(2001年中央省庁再編の前は海上交通局・海上技術安全局(統合前は船舶局・船員局)だった)はもともと逓信省に置かれていたということも、私の「縦割り」観をより強くしているかもしれません。

 しかしながら、10月号の各論考から読み取れるように、港湾の未来を切り拓いていくには作業船をはじめとする船舶や船員の存在が不可欠ですし、国際海運において脱炭素化を進めるには、船舶にしかるべき燃料を供給する港湾の整備が必要です。また、船舶の環境規制を、各港湾の状況を踏まえつつ全体として最適化していくためにも、港湾と海事の行政や政策は本来、密接に関連させながら考えていかなければなりません。

 ただ、実際には役所の「縦割り」を超えて、港湾と海事とで様々な連携が行われているとも想像します。これについて、今後本誌からさらに学ばせていただけることがあればと期待しています。


Pessac Centre (Jan. 2019)

6.9月号:みなとに携わる人々 守る人、伝える人、つなぐ人
 9月号の特集では、「みなとを守る人」、「みなとを伝える人」、「みなとをつなぐ人」が紹介されました。

 私たちが将来に渡って港湾を安全・安心に利用できるようにするには、どの役割も必要不可欠であり、その持続性維持のために「港湾の「選ばれる職場」づくりと人材育成」が今後益々重要になるということが、よく分かりました。

 その特別寄稿の「職員の「働き方」だけでなく「働き甲斐」を重視すべき」との部分には、特に共感しました。私が専攻する行政学にも、官僚のなり手不足をどう打開していくかという議論がありますが、1つには、「官僚主導から政治主導へ」の誤った理解に基づく現状が特に若い官僚のモチベーションを殺いでいる、ということが言われます。もちろん官僚の「働き方」改革がそのモチベーションを高めることもあるでしょうが、多少ハードな仕事であったとしても、それを達成した時に抱く、何とも言えない達成感や「働き甲斐」がそれを上回るならば、モチベーションを保ち高めることもできるのではないか、という気がします。

 それに続く「地域の人々や企業から高い支持や評価を獲得することは、サステナビリティを高めるだけでなく職員に誇りを与えモチベーションを高める」との指摘も、人材確保の必要性に迫られている現場にとっては参考になるはずで、「働き方」改革に偏りがちな議論に一石を投じていると思います。

 今回、この特集をきっかけに、港湾研究の教科書で「港湾労働条件の改善」について見てみたところ、専門人材の研修と流動性向上、作業の継続性確保、チーム編成による労働生産性向上、採用制度の改革、資格による労働の柔軟化、モチベーション向上とコミットメント促進といったポイントが挙げられていました。その詳細は原典に譲りますが、そのとき海事分野で「船から貨物を積み卸す荷役作業者のチーム」のことを「ギャング」と呼ぶことを知り、私にとってはこれも新たな発見となりました。


Iwakuni City (Jan. 2025)

5.8月号:変化する港湾分野の国際連携
 8月号には、私にとって身近な釧路港や留萌港といった「ローカル」な話題もありましたが、特集からは、我が国の港湾インフラが様々な形で「グローバル」に展開していることを知ることもでき、港湾政策の奥深さを改めて実感しています。

 港湾インフラの国際展開と聞くと、やはりまずはODAによる港湾開発を思い浮かべます。1980年代は中国など東アジアがメインだったODA供与先が、1990年代には東南アジアへと移り、2000年代以降はアフリカの案件が急増していること。また、この40年間で案件数は減少する一方、1件当たりの支援額が大きく増加していることからは、国際情勢や日本の援助戦略との強い関連性が窺われ、興味深かったです。

 港湾開発をハード・インフラだと捉えるならば、同じく特集にある港湾施設の技術基準の国際標準化や海事・港湾法未整備国に対する支援、グリーンやデジタルに関する国際連携などは、ソフト・インフラに関することだと考えることができます。

 例えば、電気自動車の技術基準の国際標準化では、自由主義のアメリカと規制主義のヨーロッパが争っていたところに強かな中国が参戦し混迷状態ですが、優れた技術を有する我が国としては、官民がうまく連携してその主導権を握っていく必要があります。その意味でも、現地の慣習との摺り合わせが必要だったカンボジアでの法整備支援は、極めて有意義な取組みだったと言えるのではないでしょうか。

 さらに私は、IALAの国際機関化にも興味を持ちました。この分野では、20世紀前半に船主たちが立ち上げた国際海運会議所という非政府組織が、その後のSOLAS条約や国際機関であるIMOへと繋がっていったように、民から官への担い手の移行がよく見られるためです。公式性の高い国際機関では柔軟かつ迅速な対応が難しい部分に、非政府組織が実験的かつ自主的に対応してきた歴史があるわけですが、国際機関化したIALAがこれまで以上にその強みを発揮できるか、注目したいと思っています。


Keihan Electric Railway at Mii-dera Station (Jun. 2024)

4.7月号:名古屋港へのサイバー攻撃から1年
 7月号の特集からは、サイバー・セキュリティの理論と港湾での実践を包括的に学ぶことができました。当時の状況が詳しく記された菊川幸信さんの「名古屋港事案〜サイバー攻撃を振り返る〜」からは、バックアップ・データと関係者一丸となった復旧活動により未曽有の事態を切り抜けた緊迫の2日半の経緯を、よく知ることができました。

 多様化・巧妙化するサイバー攻撃への対策は、多大なコストがかかる半面、それを完全に防げるわけではありません。そのため、実際のサービス内容や利用状況を踏まえ、コストをかけてでも対策すべきものを見極めることや、サイバー攻撃により障害が起こった場合の対処方法をあらかじめ整理・更新しておくことの意義も大きいと思いました。

 また、海上輸送活況の一方、港湾労働者が不足している中で、港湾での貨物の積み降ろしの完全自動化や手続の一元的管理・運営のニーズが高まっています。とはいえ、サイバー・セキュリティの観点からは、完全自動化のリスクやネットワークのセグメンテーションの必要性を再評価すべきかもしれません。それは、サイバー攻撃下での事業継続の可能性を高め、結果的に攻撃の意欲を削ぐことになるのではないでしょうか。

 かつては無駄に他ならないとして行政改革の対象になってきたリダンダンシーも、行政における過誤の回避に有効だとする議論があります。港湾のオペレーション・システムに関しても、サイバー攻撃へのレジリエンス確保の観点から、有効なリダンダンシーの見極めが求められるでしょう。

 日本では、2024年3月になってやっと、サイバー・セキュリティ基本法の「行動計画」の「重要インフラ」に港湾が追加されました。が、それは遅すぎたと言わざるを得ないくらいに、世界的には港湾へのサイバー攻撃の経験と教訓が蓄積されてきています。それを国際的に共有し共に対処していくことが、サイバー攻撃への最も効果的な備えになるのではないでしょうか。


ATR42-600 at Okadama (Jul. 2024)

3.6月号:城とみなと
 6月号の特集では、さまざまな「城とみなと」の物語に触れることができました。例えば、私の港湾研究の先輩である稲吉晃さんが描いた、保護主義的な河川舟運と開放的な湊町運営を組み合わせた長岡・新潟地域の政策史は、行政学の教育・研究に携わる私にとって新鮮でした。

 「城とみなと」と聞いて思い浮かぶのは、私の場合、フランスでの2年間の在外研究も最終盤の2020年8月に訪れた、ブライという町のことです。

 ブライは、フランス南西部の「月の港」ボルドーを流れるジロンド川の右岸にある町で、ルイ14世の統治下で敵対していたイギリスから川の上流にあるボルドーを守るため、17世紀後半に建てられた城塞(世界遺産)が有名です。私は、当時住んでいたボルドーから電車とバスを乗り継いでブライを訪れましたが、ボルドーからは、バスで行けるジロンド川の対岸から小さなカーフェリーでブライに上陸することもできます。

 資料によると、ブライでは昔からその土壌と気候と地形を活かしたワイン作りが盛んで(城塞の内側にも小さなワイン畑があるそうで)、ボルドーの中でも世界屈指の品質を誇るメドック地区よりもその歴史は長いといいます。興味深いのは、ジロンド川の河口に近いブライでは、港に泥が堆積しやすく貿易船の接岸が難しかったことから、そこのワインは主に地元で消費されたということです。そのため、ブライ産ワインは当初、ボルドーのようには有名になりませんでした。しかし、ブライ産のワインは、そこを通る聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者を通じて少しずつ評判を高めていき、今ではボルドー並みのブランドとして認められているといいます。

 城塞の町ブライ産のワインが、その港の特性によって地元でじっくりその価値を高めていったという歴史を、もうひとつの「城とみなと」の物語に数えることができるでしょうか。


Taushubetsu River Bridge: Railway Heritage in Kami-Shihoro (Jun. 2024)

2.5月号:西日本経済を支え、世界と地域を繋ぐ 中国地域の港湾
 今号の特集「中国地域の港湾」を、興味深く読ませていただきました。瀬戸内海は、私が松山出身であることからもともと馴染みがありましたが、その港湾の多くが原材料を輸入・加工し出荷する工業港として発展してきたこと、また、全国で18ある国際拠点港湾のうち3つ(広島、徳山下松、水島)がこの海域にあることを知り、我が国の港湾戦略上の重要性を再認識することができました。

 さらに、日本海側も、大陸と直に向かい合った北東アジア・ゲートウェイとして、また、地域のまちづくりの拠点として、港湾が重要な役割を果たしていること、またそのために多くの方々のご努力があることを知りました。

 昔、松山には関西と九州を結ぶ複数の大型フェリーが寄港していましたが、本四連絡架橋ができたからか、今その寄港はなくなり、小倉、柳井、広島・呉、そして松山沖の島々に行くフェリーだけになってしまいました。穏やかな波に揺られながら眠りに就き、目覚めれば関西や九州に着いていた当時を懐かしく思い出します。

 瀬戸内海が「ぜひ訪れるべき観光地」として世界的にも注目され、大小のクルーズ船が行き交うというのも誇らしいことではあるものの、物流の2024年問題が取り沙汰される中、ドライバーの休憩時間確保の一助になるかもしれないフェリーの存在意義が再評価されることを願っています。別の航路の話ではありますが、環境に配慮したLNG(液化天然ガス)燃料フェリーの導入も、フェリーの再評価に繋がるかもしれません。

 ところで、過日、私は松山から約15キロ沖に浮かぶ中島へ日帰りの船旅をしました。松山には中島から通ってくる高校生などもいたはずですが、中島でも過疎が進み、人口は一時期の5分の1(約3000人)に。また、耕作放棄地も増え続けています。そういう中で、日に7便のフェリーと10便の高速船が地元の足としていかに大切かを実感しないではいられない、感慨深い旅となりました。


World Heritage Byodo-in (Jun. 2024)

1.4月号:港湾行政の主要施策 令和6年度港湾関係予算のポイント
 愛媛県出身の私にとって、同じ四国、高知県出身の植物学者、牧野富太郎の生涯をモチーフにしたNHKの連続テレビ小説「らんまん」(2023年度前期放送)は、これまでにも増して親しみを覚えるものでした。そこで彼の幼馴染みとして、港湾工学の父、廣井勇(1862~1928)をモデルとした人物が魅力的に描かれていたことは、北大に勤めながら港湾行政研究に携わる私をさらにワクワクさせました。

 廣井先生は、札幌農学校を卒業後、請われて同校の教員にもなり、小樽港整備に携わる中で火山灰を混ぜた強化コンクリートを開発。そのブロックを傾けて並べて積む新工法を編み出して、長大な防波堤を完成させました。昨夏にその岸壁を見学する機会を得、完成から100年以上経った今でも日本海沿岸特有の強風と波浪に耐え、港町を守っている廣井先生の業績を、この目で確認することができました。

 本誌4月号の特集で紹介されている2024年度港湾関係予算の柱の1つ、「国民の安全・安心の確保」には、防波堤や堤防をより粘り強いものにする取組が挙げられており、廣井先生がその礎を築いた港湾工学が脈々と引き継がれ、進化を遂げていることに私はまたワクワクさせられたのです。

 これが港湾のハード面に関する話だとしますと、私が研究している港湾行政はそのソフト面、すなわち港湾の管理や経営、広域・官民の連携などに注目するものです。例えば、私が以前に在外研究で滞在していたフランスの地方紙によると、仏領バスクの中心都市バイヨンヌの工業港の運営主体が、2024年5月、これを所有する地域圏(日本で言う道州)政府から委託されたバイヨンヌ商工会議所から、同地域圏や隣接県の商工会議所も出資する港湾会社に代わるとのことです。

 引き続き港湾経営に携わるバイヨンヌ商工会議所は、周辺港とも協力して浮体式風力発電施設を整備していくとのこと。このように、日本の港湾関係予算のもう1つの柱、「持続的な経済成長の実現」にあるカーボンニュートラルポートの形成には、ハード面だけでなくソフト面からも検討すべきことがあるのではないかと、今考えているところです。


The Former Limited Express Odoriko Series 185 (May. 2024)

● 北海道新聞:教授陣のマンスリー講座(不定期)

12.「フランスの公共交通無料化:「誰が負担」に一石(Qui supporte le fardeau des transports en commun dans une société en déclin ?)(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2024年3月16日、北海道新聞朝刊20面。

11.「人口減:教育インフラ 地域に活力(Public High School Restructuring under Rapid Population Decline)(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2023年4月29日、北海道新聞朝刊20面。

10.「地方交通の維持:問われる「全体の利益」(“Transport Tax” for the Purpose of Managing and Maintaining Regional Public Transportation)(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2022年8月27日、北海道新聞朝刊22面。

9.「ゼロカーボン:社会変革へ合意形成が鍵(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2022年1月15日、北海道新聞朝刊20面。

8.「フランスの官僚養成改革、格差も一因(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2021年7月10日、北海道新聞朝刊23面。

7.「道政政策評価:前向き論議の契機に(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2020年12月12日、北海道新聞朝刊23面

6.「フランスの緊急事態法審査:司法、非常時も機能(Le Conseil constitutionnel: institution judiciaire, démocratique et donc indépendante)(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2020年9月12日、北海道新聞朝刊21面。

5.「フランスの農協:市場に適応 付加価値高く(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2020年4月11日、北海道新聞朝刊23面。

4.「フランスの地方鉄道:州主導で利用者本位へMon train, ma Région: Pourquoi le service du TER devient-il mieux en Nouvelle-Aquitaine?)(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2019年10月30日、北海道新聞朝刊22面。

3.「フランスで見た原発討論:泊も世代超えて論議を(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2019年5月29日、北海道新聞朝刊19面。

2.「フランスの住宅倒壊8人死亡:問われる地方自治の質A Lesson from Marseille: Decentralisation and Local Democratic Practices)(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2018年12月19日、北海道新聞朝刊19面。

1.「地方創生という「実験」:自治体、問われる主体性(教授陣のマンスリー講座)」、新聞記事、2018年6月26日、北海道新聞朝刊15面。


Train Grand Vitess à Saint-Jean-de-Luz (Oct. 2019)

● Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud(不定期)

10.« Le poisson: l'utilisation et la protection », parole recueillie (contribuée pour La Grande Lessive® « Avec ou sans eau ? »), le 30 octobre 2023, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, Novembre et décembre 2023, #62, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.14.

9.« Ma méthode d'apprentissage du français et d'enseignement », paroles recueillies, le 24 avril 2023, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, Mai et Juin 2023, #59, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.11.

8.« Fukuoka, une ville jumelée avec Bordeaux », essai de texte, le 5 janvier 2023, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, Janvier/Février 2023, #57, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.10.

7.« Mon grand prédécesseur à Bordeaux », essai de texte, le 28 octobre 2022, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, Novembre/Décembre 2022, #56, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.7.

6.« Mon souvenir de notre voyage en France », essai de texte, le 11 janvier 2022, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, janvier/février 2022, #53, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.5.

5.« Les Jeux Olympiques sans précédent au Japon », essai de texte, le 29 octobre 2021, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, novembre/décembre 2021, #52, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.4.

4.« Le corona vu du Japon: Quel pays est le plus efficace contre le coronavirus ? », essai de texte, le 12 janvier 2021, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, janvier/février 2021, #47, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.6.

3.« Le Café des Frères dans mon quartier », poème, le 17 novembre 2020, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, édition spéciale confinement #5, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.2.

2.« Le quartier St-Michel vu du Japon », essai de texte, le 2 novembre 2020, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, novembre/décembre 2020, #46, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.4.

1.« Le confinement d'un japonais à Bordeaux pour bien connaître la solidarité française », essai de texte, le 26 juin 2020, Le P'tit Bulletin: Bulletin du Quartier Bordeaux Sud, juillet/août 2020, #44, Les P'tits Gratteurs: Association d'Animation de Quartier, p.6.


La Méca à Bordeaux (Oct. 2019)

● HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール

7.ファシリテータ、2024年8月23-24日、HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール2024(地域の存続に不可欠な「地域包括ケア」・「地域共生社会」の実現に向けた市町村の役割)、北大札幌キャンパス

6.ファシリテータ、2022年8月24-25日、HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール2022(地域を豊かにするカーボンニュートラルの実現における市町村の役割)、北海道大学札幌キャンパス

5.ファシリテータ、2021年8月24-25日、HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール2021(新型コロナ禍の地域経営:脱出の糸口をどう見出すか?)、オンライン開催

4.ファシリテータ、2018年8月23-24日、HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール2018(地方創生を検証する:折り返し地点を過ぎた自らの自治体の総合戦略を見直し、成果と課題を検証する)、北大札幌キャンパス

3.ファシリテータ、2017年8月22-24日、HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール2017(夕張市の財政破綻と再生の経緯:破綻の原因と財政再建に向けた10年間の歩みを学び、自治体財政を考える)、北大札幌キャンパス

2.ファシリテータ、2016年8月23-25日、HOPS地方公務員・地方議員向けサマースクール2016(地方公営企業)、北大札幌キャンパス

1.ファシリテータ、2015年8月18日、HOPS地方議員向けサマースクール2015(空き家問題)、北大札幌キャンパス


Mikame Town, Ehime (Mar. 2012)